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会員サービス事業

2023.11.27 2023年度東三河地域問題セミナー 第1回公開講座

1.開催日時

2023年11月27日(月)15時45分~17時00分

2.開催場所

藤枝市 BiVi藤枝 図書館集会室

3.講 師

静岡大学 教育学部 准教授 佐藤 正志 氏

3.テーマ

『地方都市の中心市街地再生に向けた地方自治体の取り組みの意義と課題』
                

4.参加者

26名

【講演要旨】

1.中心市街地をめぐる議論
簡単に自己紹介をすると、私の専門分野は人文地理学・行政(政治)地理学・経済地理学・地方自治論などである。どちらかというと行政の方を対象にお話しする内容になる。私自身は、行政の仕事を中心に扱うのがライフワークとなっている。
 本日お話しするのは中心市街地再生の話である。数年前、早稲田大学の箸本健二教授、信州大学(当時)の武者忠彦教授、愛知大学の駒木伸比古教授らと共同で研究を行った。共同で執筆した書籍の中で取り上げた、藤枝市の話を本日は取り上げる。中心市街地の再生・活性化は、社会的な課題として非常に大きく、特に自治体がどのような役割を果たしているのかを、全国の事例を比較しながら考察していく。
 中心市街地再生の取組は、国を含めて各所で行われているが、なかなかうまくいかない。中心市街地の範囲や対象となる現象は複雑で、人口規模や都市構造、発展の歴史的経過などが多様なこともあり、その定義が難しい。また、達成すべき中心市街地像の設定について、その街の姿をどう描くかが大きなポイントになる。さらに、中心市街地再生に取り組む主体の多様さもあり、課題の複雑さが増し、特定の組織だけでの対応は難しい。ここでは「ペストフの三角形のモデル」を中心市街地再生の関わりで考え、セクターという表現で関係団体の性格を取り上げている。すなわち、「市場という企業・商業・金融などの事業性の軸」、「共同体というまちおこし、アート、リノベーションなど創造性の軸」、「政府という計画・公共投資・社会資本整備など公共性の軸」の3つに整理し、それぞれのセクターが役割をどう融合的に果たしていくかが大きなポイントになると考えている。
 中心市街地再生に関してこの20年あまり、地方自治体の取組に対する批判がとても大きい。これは、適正な規模に見合わないハコモノ整備、第三セクターやTMO(タウンマネージメント機関)の経営の見通しの甘さや、地方自治体による既得権益保護、再分配的補助金、社会保障的な意味合いが奏功していないことが背景にはある。こうした中、「中心市街地再生における地方自治体の今日的な役割とは」というのが、本日のテーマである。藤枝市の取組についても、他の自治体と比較しながら考察していく。
2.地方自治体の取組とその成果・課題
1)中心市街地活性化基本計画の達成状況
 最初に、内閣府で公表している中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップ評価(2011~2021年度)から見た全国的な動向である。中心市街地の再生にあたっては、中心市街地活性化基本計画を作り、国の認定を得て進めるという形が取られることが多い。計画はおおよそ5年単位で実施し、最終評価の公開がなされているため、その成果は確認しやすい。内閣府で公開されている最終フォローアップの評価では、「A系評価: 目標数値を上回った」、「B系評価: 目標には達しなかったが基準値は上回った」、「C系評価: 基準値を下回った」の3段階が概ね設定されている。実際の地方自治体の結果は、目標を達成したA系評価が3割、基準値を下回ったC系評価が5割といった状況になっている。
 この結果を都市規模で比較すると、あまり差異がみられないが、目標の達成状況の分野別で見ると結構差がある。比較的A評価の事例が多いのは、図書館などの公共施設や、地域公共交通の関係の目標である。また、商業もこの数年は、A評価となる事例が増えている。逆に、例えば歩行者数といった通行量、居住人口といった項目は、C系評価といった事例が非常に多い。これは、新型コロナウィルス流行の影響も関係していると考えられる。全国の自治体計画を作成している市を見ていくと、通行量の指標、商業系の指標、人口系の指標、この3つを設定するケースが多いが、全部の指標が達成できない状況にある。
2)苫小牧市における市を中心とした取組
 地方自治体独自の中心市街地政策の成果と課題として、北海道の苫小牧市の事例を考察する。苫小牧市は人口約17万人で、北海道胆振地方の中心となる都市である。2000年代より、郊外への大型店の出店により、中心市街地の衰退が顕著になっている。苫小牧市には駅前に大きな商業施設があるが、現在は完全に閉鎖されている。また、駅ビルの中の店舗も、ほとんどが営業していないという状況である。中心市街地では、建物が取り壊されて駐車場などになり、空き地が増えているのが苫小牧市の実態である。
 苫小牧市はショッピングモールが準工業指定地域に進出したため、国の「中心市街地活性化基本計画」を作成することができず、独自に「まちなか再生総合プロジェクト」という自主的な計画を策定、第4期まで進行している。計画の中で市は、駅前に民間福祉と商業の複合施設を整備し、高校生や高齢者がバスや送迎の車を待っているときに過ごせるようなカフェといった人が集まる場所の整備を行った。また、中心市街地に市営住宅を移転させ街なか居住を推進している。これらの事業の資金に関しては、地方債を中心とした形で一般財源の支出を抑えて実施しているのが苫小牧市の方向性である。
 これらの取組みにも関わらず苫小牧市では中心市街地活性化にまで結実していない。その背景には苫小牧市は企業城下町であり、港町であるため港湾系の企業やそれに関わる不動産事業者などが多くの土地を所有していることがある。土地所有者が域外の企業などに変わり、うまく調整できない状況で時間が経過している。こうした事例は過去に市が関わった再開発ビルで、権利者の関係で、現在空き地となったままである。また、駅前の大型商業ビルも土地や建物の権利者が複雑であり、市で集約化して企業への売却を目指しているものの現実には進んでいない。このように苫小牧市では、中心市街地の土地や建物の複雑な所有の状況が中心市街地再生の障害になっている。
3)藤枝市における公民連携を活かした取組
 これに対して藤枝市は、全国的に見て成功している事例に位置づけられる。藤枝市の場合、2000年代中盤から中心市街地のハードを中心とした整備が進められた。藤枝市は、民間企業との公民連携をうまく取り入れて、集客施設を整備したことが中心市街地再生につながっている。2008年の「にぎわい再生拠点整備事業」は、事業用定期借地権による公有地利用によるもので、民間企業が商業施設を開設し、その中に市の図書館が入ることで賑わいを創出している。駅前の南口にホテルを中心とした集客施設整備は、公有地を買戻し特約付きで売却し、市内の企業が落札、商業施設とホテルを整備したものである。駅北側も再開発が進められているが、こちらは第一種市街地再開発事業による整備として、市・地権者・バス会社・地元医療関係者・UR等が関わる形で再開発を進めている。藤枝市の中心市街地向け財政投資は、国庫補助金・起債での調達率の高さが特徴であり、8街区についても第一種市街地再開発関係の国庫補助・起債事業として国庫の補助金や地方債で調達し、単年度の市の財政支出を抑えている。また、ABC街区は民間企業が中心に事業を進めており、市の財政支出はほとんどない。
 こうした中で藤枝市がPRE(まちづくりのための公的不動産利活用)を採用している意図は、「志太榛原地区の中心となる都市機能整備をいかに実施するか」、「遊休資産を活用し土地開発公社の経営改善をいかに図るか」ということである。藤枝市の都市機能の整備は市内限定ではなく、周辺の焼津市、島田市等を含む志太榛原地区の中で一番の都市機能を整備し、藤枝市の街に人が来てくれるようにしようという意図がある。
 藤枝市では、都市機能の整備においてあらゆる世代の人が来訪する施設として、図書館を選定した。2000年代前半、土地開発公社の経営不振から藤枝市の財政状況が悪化した時期があり、土地開発公社の経営状況を改善しなければいけないという中で、市有の遊休地をうまく使えないか考えたところが大きなポイントとなった。併せて、市の財政負担や整備する企業の事業経費を最小限に抑え、どう機能整備をしていくかを、市職員が積極的に考えて多様な方法を検討、利用できる支援措置を確保した。現在の藤枝市の市長は来年4期目を終えるが、職員に自分たちで考えて行動するよう何度も働きかけてきた。市職員も自ら情報をどこから取得すると良いか勉強会を開催、学習する機会がかなり多かったと聞いている。こうした中、自分たちでやれる方法を探索し実行したのが、公民連携という方式になっている。
 様々な方法を通じて民間企業に整備してもらうことを前提にしても、自治体が継続的に関与していかないと、中心市街地の活性化という目標にそぐわない結果になることも想定される。こうした中、藤枝市では自治体が関与するための仕組みを連動する形で考えて、一つの方式を全部一律に採用するのではなく、図書館を含む複合商業施設では土地は市所有のまま整備は民間企業、駅南のホテルは土地を民間企業に売却するが、10年間は絶対ホテルなど人が集まる施設を作り継続運営し、守れなかったら罰則を取る形にした。8街区の整備事業では、支援を中心に入るということで、自治体が案件に応じた最適な手法で必ず関与している。
 職員への聞き取りによったところでは、藤枝市では支援制度や助成に関する情報の入手先として特に国を中心にしていた。また、様々な支援策を利用した中心市街地再生の成果は、先例にもなるため国から政策に関連した情報が藤枝市に降りてくるような効果も生んだ。情報の収集と利用の判断を組み合わせることで、藤枝市では次の新しい事業に反映していった。こうした形で事業化を進めたことが、藤枝市の中心市街地再生では、重要な点であったと考える。
3.地方自治体の役割の展望
 次に、地方自治体が中心市街地再生においてどのような役割を求められるだろうかということを考えていく。本日取り上げた事例の中心市街地の再生では、藤枝市の場合であれば「志太榛原地域の中心」、苫小牧市の場合であれば「にぎわいの創出とか居住者の増加」のように目的を明確にして、実際に取り組む主体に対してさまざまな支援をしていく。こうしたメニュー作成に向けて、いかにして情報や支援策を獲得し、手法を考案するかは苫小牧市、藤枝市、両市に共通している。一方で地方自治体の中心市街地再開発で苫小牧市と藤枝市の事例を分けているところは地権者の関係の調整がどこまでできるかがポイントとなっている。藤枝市の場合は市の保有地があったが、苫小牧市の場合は市が主要な土地を持っていなかったことも含めて、合意を取っていくのが非常に難しい状況にある。これが両市の事業の成否に大きく関わっている。
 行政による関与という視点で見ていくと、直接的な事業実施では、自治体が箱物を作っていく形から、箱物を民間事業者が建設し、それをどう支援するか、どこを負担するかに変化している。一方で、事業に係る利害調整とか権利調整は難しいため、公有地を持っていれば資源としての活用をした複数の選択が可能になる。また、藤枝市の事例の特徴は、職員の方が自ら学習し、何をすることが必要かを自分たちで決めた点にある。このように考えることが、中心市街地活性化に対して自治体が果たすの役割の重要なポイントのひとつになり、自治体が持っている公共性・計画性・規制という側面も重要になる。これをどう活かし、計画を作って長期的に目標を達成していくためにどういうことが必要なのか考え出す力が藤枝市では大きな強みといえる。
 中心市街地の再生や活性化については、企業、まちづくり団体などがあり、それぞれ長短がある。その中で、中心市街地が今後長期的に目指していく姿を考えることは、基本的に行政でしかできない仕事である。そのためには、各種情報を学習し、「自分の自治体の中心市街地が持っている長所や短所はどこか」、「中心市街地に実際にくる人は誰か」、「住んでいる人が何を求めるか」などを考える、また自分の自治体だけではなく、周囲の自治体や街を含め、自分たちの街がどういう位置づけにあるかを考えることが重要である。自治体は計画を作り、財政投資でどういう手段を使うか、どういう計画を作るか、あるいはどういう方法を用いるのが望ましいかを考え、検討することが必要となる。本日扱ったPREやPFI(民間の資金活用)などの公民連携の方法もあるが、それはあくまで手段であり、中心市街地活性化の目的に合致しないとうまくいかない可能性が高い。
 中心市街地の目指す方向性を定めた例として、大分県の豊後高田市は、懐かしさを感じる昭和の街による観光と商業を軸とした取組を行っている。また、北海道の富良野市は賑わい創出のため食と観光の情報発信をテーマに取り組んでいる。
 私の専門とする地理学を前提にすると、周辺地域を含めた街の位置づけをどう考えていくかという点において、それぞれの地方都市が、同じような機能整備を行っても失敗に終わる可能性が高い。自分の街が、周辺の街と比べたときにどのような役割を果たしているんだろうかということを考えるのが重要になってくる。その際の街の位置づけを考える際に地域の捉え方として、結節地域という考え方がある。
 これはある中心地(結節点)を軸として、人、モノ、情報通信の流動・循環の構造といった繋がりを示す概念である。結節地域の考え方を中心市街地の活性化に応用するならば、買い物行動、通勤・通学行動、居住地移動、モノや情報の移動などが、どのように流動・循環しているかを実態として捉えておくことが必要である。藤枝市の都市機能の整備において、「志太榛原地域の中心」という意味合いは、この点を反映したもので、効果的な集客施設の整備とも関係していると考えられる。
 地域的な商業の形態も様相は大きく変化しているため一概にはいえないが、結節地域の捉え方を取り上げた過去の事例を示す。これは1970年代の、一宮市を中心にその周辺のいくつかの街との商業上の相互関係がみられる。商業の事例では、通勤通学、通院、買い物など、どういう形でどこから人がきているのかを考える上で把握が必要となる。尾張西部の場合は一宮市の中心性が一番高く、周辺の江南市、尾西市、稲沢市がそこまで中心性が高くない。このような状況で、一宮市のような都市機能を江南市、尾西市、稲沢市で作っても人の取り合いが発生し、当然うまくはいかない。こうした場合どのようなやり方を考えていくことが必要か。自治体の身の丈にあった機能はどういうものかを考えていくことが、今後重要な点になってくる。
 こうした点を踏まえて、ぜひ考えていただきたいのは、本日ご出席の皆さんがお住まいの市町村で、中心となる市街地に対してどういう期待をするかである。中心地市街地の問題で非常に悩ましいのは、生活上必ずしも市民の人が中心市街地に訪問する必要がないという点にある。もちろん中心市街地の再生には何らかの理由は必要であるが、中心地市街地に対して皆さんがどういうことを期待しているのかがポイントになる。東三河であれば、おそらく豊橋が中心軸になると思うが、皆さんがお住まいの街、あるいは活動されている街が、他の街との関係性の中でどういう位置づけになるのか。その位置づけの中で、中心市街地はこれから先どういう姿が求められるのかということであると思う。今回は中心市街地活性化に関わる行政の話が中心だったが、それぞれの活動を担う団体が「どういう方向性のもとで中心市街地の再生に貢献していくことが必要か」、「それぞれが具体的にどういう役割を果たしていくことが必要か」という部分が、中心市街地再生に向けて実際に活動、取り組む中のポイントになると考えている。ぜひこうした点を踏まえて、今後の活動に繋げていただければと思う。

 

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