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産学官民交流事業

2022.6.13 令和4年度定時総会 記念講演会

1.開催日時

2022年6月13日(月) 15時50分~17時00分

2.開催場所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師

元国土交通大臣 太田 昭宏 氏

4.演題

『激変する世界情勢と日本の立ち位置 ~東三河の課題~』

5.参加者

151名(オンライン参加者 26名含む)

講演要旨

 久しぶりに故郷に帰ってお話しできることを大変嬉しく思っている。両親は豊橋の東田町坂上でみそ・しょうゆの商売をやっていた。私は1945(昭和20)年10月6日生まれで、戦後の国会議員としては最初の国会議員であると自負している。小学校5年生のときに、疎開先の新城から豊橋に戻り、東田小学校、青陵中学校、時習館高等学校へと進んだ。1993年から国会議員として様々なことに取り組み、2021年10月31日の選挙で勇退した。現在、様々な場所で政治活動を続けさせていただいており、元気である限りこれからも東三河の発展に力を注ぎたいと考えている。是非、東三河の「用心棒」として使っていただきたい。
 私が生まれた昭和20年は、三河大地震、洪水、戦争などが起った。歴史をたどれば、災害は重っておこるという宿命を持っている。鎌倉時代は疫病、災害、他国からの襲撃が重なり、方丈記や平家物語の無常観というものがそこで醸し出され、表現されている。同様に、幕末は安政の大地震、疫病、戦乱、ペリー襲来などがなぜか重なっている。1923年の関東大震災から100年。東海・東南海・南海トラフの地震が起こる可能性があり、津波などの地震対策をよく考える布陣が大事である。1868年の明治維新から77年後の1945年に終戦を迎えた。そして、77年後の今年、私は喜寿を迎える年となる。欧米列強の近代化を受け入れながらも、魂の中では「日本人とは一体何であるか」、「日本人はどう生きていくのか」という問いかけがあったのが1890年代であった。1894年に内村鑑三が「代表的日本人」、1899年に新渡戸稲造が「武士道」、1903年に岡倉天心が「茶の本」という書物を書いているが、これらは日本人の魂、精神性を保ちながらも、近代化を主体的に受け入れることがいかに大事であるかを世界に向けて英文で問いかけたものである。1900年代になって韓国を併合し、欧米列強と同じように植民地支配ということについて相当過激的、帝国主義的な要求を行ったのが1914年の対華21ヶ条要求であり、世界から遅れた近代化の日本がなんとか追いついて帝国主義の中に入りこんでいくということが失敗となったのが1945年のことである。
 日本は灰の中から立ち上がり、先達たちが頑張ったお陰で現在のような状況があるが、77年の節目を考えると、大変な境目の時代だと思う。まさか、大国ロシアがウクライナに侵攻するとは全く思ってもいなかった。これは戦後の自由と民主主義の世界秩序を否定するものであり、安全保障においても国連が機能しないことが分かった。世界が急激な変化を来たしていると言える。一方、経済は円安という状況に愕然としている。日本は長期にわたりゆるやかなデフレ状態にある。「失われた20年」という見方もあるが、昨年秋、アメリカ・ヨーロッパはコロナ禍が終結したということで、経済が動き出した。これが去年の秋からの原油高、木材高騰の原因である。アメリカのインフレ率は8%。賃金も上がっている。設備投資も盛んになってきている。まさに経済が過熱しており、インフレ率を抑えるために金利アップという手段に出た。これが現在の先進国の状況である。しかし、日本だけ長期にわたるゆるやかなデフレが継続している。今から10年前の第二次安倍政権に参画し、スローガンに挙げたのは「日本再建」。大胆な金融政策、機動的な財政政策、投資を喚起する成長戦略というアベノミクス「3本の矢」を政策に掲げた。必要な公共事業は思い切ってやらなければならない。国土交通大臣の3年間、防災、減災、国土強靭化、老朽化対策、メンテナンス、耐震化というものに力を入れて取り組み、相当今の大きな流れを作ったと自負している。
 日本は今、本当に大きな区切りになってきている。「新しい資本主義」と言われるが、今は十分ではない。今の日本の課題は、低成長、生活習慣病のようなゆるやかなデフレが20年続いているということを跳ね返すチャンスを、消費税とコロナで封じられた。日本はデフレ状況を脱皮できない。金融引き締め、消費拡大させるよう、ゆるやかなデフレを直さなければならない。「資本主義の方程式」という本がある。アメリカ人は物が上がっても買う。日本人はものすごく慎重。将来が不安だから、買うものがないから貯める。日本はこの段階を超えた。「資産選好」という資産を貯めることが喜びとなるような状況になっている。
 安全保障をどうするかという大きな課題がある。そしてもう一つは、ポストコロナの経済政策。「新しい資本主義」とも言われるが、低成長と格差を解消していくということである。「資産選好」をどう脱却するか。コロナ禍で、政治家はやたらと配りたがるが、これでは駄目。痛んでいるとことに出すのは大事だが、ゆるやかなデフレを解消できない。アメリカは金融引き締めが出来るが、日本は出来ない。当然、そこに金利差が出来るから昨今の円安という状況になっている。どうしたらこのゆるやかな、長期にわたるデフレを脱却できるかという視点を絶対に忘れず、ポストコロナにおける政策をよく考えないといけない。
 安全保障、経済という2つの大きな項目について大事なのは、「民意とは一体何であるのか」とうこと。ポピュリズムの政治にしてはいけない。国家的な理性というものをどう考え、智の力というものを政治家は磨いていく必要がある。安全保障をゼロから考える必要があるかもしれない。政治は現実を直視した自在の知恵である。リアリズムというものを欠いた政治をやってはいけない。イデオロギーは思考を停止する。リアリズムでなくてはならない。白と黒の合間に結論を出すというよりも、考え続けていくという姿勢が大事。民意はぶれる。ポピュリズムとポピュライズを分けなければいけない。民意はメディアで作られる世論と言われるが、今は全体像を捉えるべく、理性を持ってじっくり考えていく大事な局面である。
 ウクライナ戦争は、「情報戦争」「軍事戦争」「経済戦争」という3つの戦争が行われている。情報戦争では、ゼレンスキーが勝っている。軍事戦争では、日本の核をどう考えるかという思考の深さが大事である。経済戦争では、経済がリンクしており、どう対処すべきか非常に難しい。この3つの戦争が絡みあって行われており、注意深く見ていく必要がある。日本は、どうように安全保障をすれば良いか。中国に対しては、3つに因数分解しなければならない。安全保障については「対決」、経済については「競争」、地球環境・エネルギーについては「協力」。中国とはこれらを軸として、したたかに長いお付き合いをしていくことになるが、安全保障は安全保障の枠組みの中で考えていく必要がある。2012年9月、尖閣諸島の国有化が野田内閣で行われ、胡錦涛さんが激怒した。政権交代で国土交通大臣として尖閣を担当することになり、石垣島の海上保安庁の東シナ海を守る専従体制を作ることを2013年に決定し、3年前に完成した。東シナ海は、漁業がどんどん追い込まれている。中国は、漁船、海警が一緒になって押し寄せてくる。安全保障とはいったい何なのか。日米同盟、外交の力は非常に大事。漁業が前線で健全に行われており、後ろに海上保安庁、自衛隊という、それが健全に作用するとともに、島も人が生活していけるようにする必要がある。
 東三河は、農業、漁業、工業、商業など、全国でみてもバランスの良い、豊かになる資格をもっているのがこの地域の特徴である。「民生の安定こそ、生活の礎」。東三河の民生の安定。各産業が集積しており、こんなにバランスが良い地域はない。今日お集まりの皆さまに「勢いがある東三河」をどう作るかに協力していただいて、この地域が「いいところだ」と思っていただくことが一番大事。政治家や首長の皆さんには、常に世界をどう判断するか考え抜いて、民意におぼれず、結果として良かったと言ってもらえるようにハンドリングをしていってもらいたい。企業経営の在り方としては、「株主中心主義」ではなく、社員や関係者を大事にする「ステークホルダー資本主義」に舵取りを変えていく必要がある。これが岸田内閣の「新しい資本主義」の企業経営の基本にある。
 長期にわたるゆるやかなデフレやポストコロナ経済に手を打つ必要がある。「円安が大変だ」という民意があるが、日本では消費者物価指数はそんなに上がらない。2.5%ぐらいだろうか。中小企業は簡単には値上げが出来ない。日本の消費者は「安くて良いもの」という嗜好がある。デフレ脱却には消費が拡大する必要があり、民間消費を喚起しないと難しい。コロナ禍における持続化給付金の返済もあり、中小企業支援のやり方を考えないといけない。
 これから日本がどういう面で応援し、シフトをしていくか。これまで減ってきていた、文化、芸術、スポーツ、旅行、観光、観光のためのインフラ、医療、介護、健康、そして防災・減災のインフラ、環境など、新しい考え方を加え、みんなが良いと思うことをやる必要がある。もうちょっと、自然な流れでモノやコトにお金を使うようになるという社会を作ることが大事である。新しい資本主義は、デジタルとグリーンに対して新年度予算を確保し、大学に投資する。これからはエンジニアリング、テクノロジーが大事になってくる。企業の在り方については「ステークホルダー資本主義」のような改革、行政のターゲットとしては、文化、芸術、スポーツ、観光、健康など、東三河に行ったら住みやすい、安心できるというようなところに手を打つことが大事である。
 忙しく、せわしない世の中であり、「日本の豊かさ」はどうもこれからはそうではない。文化、芸術、スポーツがもたらす力は大きい。新しい喜びはいっぱいあるはずであり、時代はそのように動いていると私は思っている。これからも「いい東三河だな」と言っていただけるよう、皆さまの一層のご尽力をお願いしたい。

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