2026.6.15 令和8年度定時総会 記念講演会
1.開催日時
2026年6月15日(月) 16時20分~17時30分
2.開催場所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・テラスルーム
3.講師
国土交通省 大臣官房審議官(国土政策)天野 正治氏
4.演題
『東三河における地域生活圏の形成について』
5.参加者
119名(オンライン参加12名含む)
講演要旨
1.現状と課題
最初に人口問題について話をする。日本の人口は2008年の1億2800万人をピークに減少へと転じており、令和8年5月に公表された国勢調査の人口データによると、2025年時点では1億2305万人となっている。明治時代以降増加してきた人口が、同程度のペースで減少していくというイメージである。人口が1億人を下回るのは2050年を少し過ぎた頃だと想定されている。1967年に日本の人口は初めて1億人を上回ったが、将来再び人口が1億人になったとしても、その当時と同じようにはならない。2050年頃には高齢化率が約40%程度に達すると見込まれている一方、1967年当時は高齢化率が10%未満であった。また、日本の地方の人口が減少している一方で、直近の国勢調査を見ても、東京都と沖縄県のみ人口が増加している。都道府県単位で見ると、いわゆる「東京一極集中」が続いており、多くの地方では人口減少が進んでいる。このように、同じ「1億人」という人口が、同じ「日本国土」という面積の中に存在しても、かつてと同じような状態になるわけではなく、人口の高齢化が進むとともに、地方ではさらなる人口減少が進行している。
こうした人口減少局面において、働き手をどう確保するかと言う課題に対し、日本はこれまで女性と高齢者の労働参加の拡大に注力してきた。以前は、出産や子育ての時期に女性の就業率が低下する傾向(M字カーブ)があったが、最近では男性に近い水準まで上昇し、このM字カーブの谷の部分が浅くなっている。こうして、現状は生産年齢人口を一生懸命維持している。2025年の人口構成を見ると、75~79歳の団塊の世代、50~54歳の団塊ジュニアの世代をピークに、それより若い人は継続して減っている。さらに30年後の2055年には、団塊ジュニア世代も80歳前後となり、「大量死時代」を経てスリムな日本の姿となる。こうした変化の中で、どのような社会構造になるのかということを、先ほどの国土の話と合わせて検討していくことが現在の日本に求められている。
次に、市区町村の人口がどのように移り変わっていくのか。2000年の人口を100とし、2020年までは実測値、それ以降は推計値で人口の変化を考察してみる。2020年時点では、1万人未満の自治体は77、1万人以上5万人以下の自治体は87、5万人以上10万人以下の自治体は94、10万人以上30万人以下の自治体は99、30万人以上50万人以下の自治体は101となっており、規模の小さな自治体の方が早い段階で人口が小さくなっている。しかし、豊橋市や豊川市のように比較的規模の大きい地域であれば安心かというとそうでもない。2040年の推計値では、5万人以上10万人以下の自治体は80、10万人以上30万人以下の自治体は87、30万人以上50万人以下の自治体は92となっており、既に人口が小さくなっている規模の小さな自治体の2020年と同じ水準ぐらいに比較的大きな自治体もなってしまうことを示している。
地域において様々な生活課題を解消するようなサービスは、人口密度と密接な関係があり、一定の人口規模があって初めてその地域で継続的に存在することができる。我々が「スタバチャート」と呼んでいるものがある。これは、「スターバックス」はどのくらいの人口のところにあるのかということを、全国の人口と「スターバックス」の店舗数、あるいは百貨店の店舗数などと比較して分析したものである。その結果として、例えば人口10万人以上の都市にしかほぼ存在しないものとしては、「百貨店」や「映画館」、「大学」などが該当する。人口5万人以上の都市では「大手コーヒーチェーン」、つまり「スターバックス」が立地している。人口1万人ぐらいの都市であっても、地元の優良企業などがオーナーとなり資金を出して誘致するといった事例は実際にはあるが、一般に出店計画という形でビジネスとして出そうと思うと、このぐらいの規模がないと採算が合わないという話になる。「スポーツジム」、「カラオケ」、「ファストフード」あるいは先ほど挙げた「スターバックス」といった「ちょっと行ってみようかな」と思うような、人々に娯楽や潤いを提供するサービスは、一定の人口規模がないと経済活動として維持できない。そのため、小規模なまちがさらに縮小していくと、そのまちで暮らす中でゆとりや潤いを得る機会が減少し、それを求めて違う大きなまちに移動してしまうかもしれない。移動すること自体は問題ないが、移動先のまちと今住んでいるまちの関係をどのように捉えるかということを、国土を考える時によく検討して計画していかなければ、立ち行かなくなる未来が来るのではないかと思っている。
「国土形成計画」の概要について話をする。ここではまず、「時代の重大な岐路に立つ国土」ということが謳われている。人口減少や高齢化など「地域の持続性、安全・安心を脅かすリスクの高まり」に加え、「コロナ禍を経た暮らし方・働き方の変化」や「激動する世界の中での日本の立ち位置の変化」もある。このように様々な目線で見た時に、日本の国土を持続可能にするためにどのようにしていけば良いかを示した計画である。国土構造の基本構想として「シームレスな拠点連結型国土」を謳っており、この「シームレス」という言葉が、重要なキーワードになっている。その関係の中で、2つの軸がある。1つは、「分散」である。「広域的な機能の分散と連結強化」に向けて国土を広く使う意味で分散をしていく。もう1つの軸は、「持続可能な生活圏の再構築」であり、それぞれの生活エリアにおいて逆にひとつの大きな核を作っていくということである。こうした2つのアプローチをこの国土において行うことが大事ではないかということが謳われている。具体的には、国土の刷新に向けた重点テーマとして「デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成」が該当する。こうした中でシームレスに東京一極集中から分散していく国土を作っていきたいと考えている。
「シームレスな拠点連結型国土」の構築に向けた全国的な回廊ネットワークの形成としては、「日本海側の国土軸」と「太平洋側の国土軸」その間にリニア開業等による時間距離短縮等の効果を全国に波及させる「中央回廊」がある。時間距離の短縮や多重性・代替性の確保等を図る交通ネットワーク等の強化を通じ、国土全体におけるシームレスな連結を強化して、日本海側と太平洋側の二面を効果的に活用しつつ、内陸部を含めた連結を図る「全国的な回廊ネットワーク」の形成を図っていき、これを地方への人の流れの創出・拡大という形で「二地域居住」に結び付けていきたい。また、「シームレスな拠点連結型国土」として新時代に地域力をつなぐ国土は、地域課題を克服する「守りの力」と、地域の魅力を高め人々を惹きつける「攻めの力」を掛け合わせて地域の総合力・底力を最大限に発揮する。「攻めの力」は、地域外から人を呼び込み関係人口の創出することで高める。一方「守りの力」は、地域の様々な生活課題を官と民が連携しながら地域課題を克服することで強化する。こうした取組を支える組織が「地域生活圏」を支えていけるようにしていきたいと考えている。
2.東三河地域について
東三河地域は製造業が盛んであると同時に、農業産出額も高く愛知県全体の約半分を占めている。加えて、歴史、グルメ、観光地等が多くあり、このように多くの資源がバランス良く存在する地域は、全国的に見ても少ない。
「東三河の生活圏における一体性」として、通勤・通学の実態を見ると、東三河地域内で完結している人の割合が非常に多いことが分かる。また、東三河地域は、豊川流域圏としての自然的一体性を有しており、豊川、豊川放水路、そして三河湾が一体となって経済や産業が成り立っていることが、重要な社会基盤として機能している。さらに、東三河地域の8市町村・愛知県からの負担金・積立金等からなる「豊川水源基金」により、水源林等を守る事業を行っており、こうした仕組みを活用して流域圏としての自然的一体性が高まって流域圏で生活課題の解決や産業の育成を昔から工夫して進めている地域だと感じている。現在も「東三河広域連合」、「東三河県庁」、「東三河広域経済連合会」といった特徴的な組織があり、地域で各層の取組がつながっている。今後、三遠南信自動車道の開通やリニア中央新幹線の開業により、豊橋市から奥三河や長野県、奥三河と外部地域、沿岸部での人の往来や交流の活発化が期待されている。
このように、東三河地域は地域として一体性があり、人の流れもあるため、国交省として考えている地域生活圏や二地域居住等の施策との整合性がある。
3.国土交通省の施策(地域生活圏・二地域居住)
ここから私たちが取り組んでいる施策について説明する。「地域生活圏」のポイントとして、人口減少や高齢化の進展があり、これは、地域の自治体において住民税の減少、あるいは職員数の減少にもつながる。一方でやらなければならない課題は増えており、人とお金が減ってしまう中で、自治体の業務が立ち行かなくなってしまうことが懸念されている。こうした状況下において、「行政サービスをどのように維持していくのか」、「持続可能性を高めるためにどうするのか」を考えた時にいくつかポイントがある。1つ目は、行政だけで担うのが難しいことを、民間の力を借りて官民連携で担っていくことである。2つ目は、民間もバラバラに動いていては駄目であり、事業間の連携を深めて対応していく必要がある。3つ目は、これが一番難しいが大事なこととして、「地域間連携」がある。自治体が合併することは、今の時代なかなか難しくなっているが、先ほど話をした「東三河広域連合」のような取組を、もっと民間も入るような形でうまく実現できないかといった考え方が、この「地域生活圏」を考える上での根底にある発想になる。こうした取組を中心となって担う人たちのことを、国土形成計画では「ローカルマネジメント法人」と表現されているが、現在私たちは、それを「民間の地域経営主体」と呼んでいる。
こうした官民・事業・地域の3つの“バラバラ”状態では、人口減少の荒波に地域が適応できず、「医療空白」、「交通空白」、「買い物難民」といった問題が発生し、住民の日常の暮らしが維持できないことになってしまう。、「民間の地域経営主体」が人材、情報やノウハウといったリソースを活用しながら、地域内外の様々な主体をつないで、地域全体のマネジメントや課題解決を行うことが重要である。複数の市町村と様々な事業主体をつなぐような「民間の地域経営主体」が、全国各地で生まれつつあり、こうした「民間の地域経営主体」が存在する地域と存在しない地域では、生活課題に対するソリューションの数に大きな差が出ている。地域生活圏専門委員会のとりまとめ報告書を踏まえ、「地域生活圏」の形成に資する各種施策の実装に向けた検討を進めており、報告書の中で速やかに取りかかるべきこととされていた「民間事業主体等がその実践に挑戦する取組への支援」として、昨年は先導的な取組に対する支援を17地域で実施した。本年度も共助・共創の観点から、日常の暮らしに必要なサービスの提供に取り組んでいる民間団体を含む、官民で構成される協議会に対して、①官民パートナーシップによる「主体の連携」、②分野の垣根を越えた「事業の連携」の2つを満たす主体に対しては支援対象経費の1/2、①②に加えて③行政区域にとらわれない「地域の連携」を満たす主体に対しては支援対象経費の2/3の割合で3,000万円を上限に支援している。今後の対応として、先導的な取組に加え人材育成に対する支援を行うとともに、このほかに速やかに取りかかるべきこととされた資金や人材を呼び込む環境整備として、「官民プラットフォーム(仮称)の創設」、「社会的インパクトの可視化」に向けて取り組んでいく。
ここで、具体的な事例を紹介する。栃木県の那須地域は新幹線で東京から1時間ほどの場所にある別荘地である。広域なエリアであるために人口減少で交通空白や買い物難民が発生している中、民間主導で「一般社団法人ナスコンバレー協議会」が設立された。民間企業が主体となって大田原市、那須塩原市、那須町と連携し、地域を「生活課題実験場」と見立て、いろいろな人脈を使い地域のプレーヤーと共に課題解決に乗り出している。地域の関係者が地域の未来像を議論した上で、各関係者が外部人材や地域資源を活用しつつ連携を深め、「地域生活圏」の形成を目指している。
もう一つの施策として、「二地域居住」について説明する。「二地域居住」とは、主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点を設ける暮らし方であり、社会的意義として新たな人の流れを生むことで、地域の担い手の確保や消費等の需要創出、新たなビジネスや後継者の確保、雇用創出等が期待される。また個人的意義として、新たな暮らし方や新たな働き方の実現、これらの実現によるウェルビーイングの向上、新たな学びの機会の創出等につながるほか、自然災害やコロナ禍のような突発的な危機や変動に対する冗⾧性の確保にもなるが、「二地域居住」のできる環境整備や二地域居住者の特定・登録、経済的負担の軽減等が必要である。「全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」が設立され、「二地域居住」を促進するための法律も令和6年11月に施行された。「二地域居住」の促進には、「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」が課題であると認識している。私たちの施策は基本的に受け入れる側が受入環境を整備することが基本的な考え方になっており、地域の取組アイデアに対し、国土交通省のみならず政府全体で支援している。実際に受入環境を整備するだけでは人は来ないため、モニターツアーの開催や目的、移動費用を含めたプログラム作りをやる人をモデル事業として採択している。この「二地域居住先導的プロジェクト実装事業」については、昨年度は44地域を採択しており、本年度も1次募集で9地域を採択し、2次募集も予定している。
次に、「ふるさと住民登録」について少し説明する。総務省が一生懸命進めている施策であり皆さん知っているかもしれないが、「二地域居住」を推進する中で出てきた課題に対し、解決策を出すとともに深堀するものであり、国土交通省も連携して推進している。簡単に言えば、スマートフォンアプリを活用した仕組みである。誰もがアプリで簡単・簡便に登録でき、担い手活動等を通じて地域との関わりを深められるよう、プラットフォームとなるシステムを構築し、ベーシック登録(仮称)では、観光やグルメ情報の提供、ふるさと納税サイトとの連携などを国で作るアプリに展開していく。「二地域居住」や「地域生活圏」につなげていくような関係人口化につなげる工夫として、プレミアム登録(仮称)を設け、ボランティア、副業、地元自治会への参画などで3ポイント獲得するとプレミアム登録ができ、ゴミ出しやまちの住民と同様なサービスの割引率の適用、移動費の割引など自治体ごとに考えていくこととなる。地域課題をどのように設定し、プレミアム登録にどのようなメリットを付与するかを自治体ごとに検討し進めていくためのガイドラインを策定している。そして現在、豊橋市を含む全国58の自治体が先行的にこのアプリを導入し、今年度中にサービスを提供できるよう準備を進めている。まだ導入していない自治体も、「二地域居住」や「地域生活圏」とともにこのアプリを検討いただきたいと思っている。
最後に、地方創生エコシステム構想(仮称)として、これらの施策を三位一体で考えていくことが重要である。1ノ矢として、「二地域居住」政策で地方の受入れ環境を整備、2ノ矢として、「ふるさと住民登録アプリ」で関係人口化を働きかけ、3ノ矢として地域住民の継続的な生活環境維持確保のため、「地域生活圏」政策で、シームレスな拠点連結型国土の形成に資する組織についての位置づけや運営環境を整備し、地域生活圏の持続性を確保する、というものである。
ここ東三河地域はこれらの施策にマッチしていると考えており、これらの施策についても御検討いただきつつ、今後とも地域づくりを頑張っていただきたい。
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