1. HOME
  2. ブログ
  3. 東三河懇話会の活動
  4. 産学官民交流事業
  5. 2022.06.28 第452回東三河産学官交流サロン

産学官民交流事業

2022.06.28 第452回東三河産学官交流サロン

1.開催日時

2022年6月28日(火)18時00分~20時30分

2.開催場所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 准教授 松岡 常吉 氏

  テーマ

『固体燃焼におけるパターン形成現象とその応用』

  講師②

株式会社糀屋三左衛門 代表取締役社長 村井 裕一郎 氏

  テーマ

『製造業から文化創造業へ~若者・女性が集まる東三河へ向けた新産業創出~』

4.参加者

65名(内、オンライン参加者 11名)

講演要旨①

 大阪市生まれの39歳。専門は、燃焼工学、ロケット工学、模型実験で、現在は豊橋技術科学大学で固体燃焼におけるパターン形成現象に関する研究を行っている。本日はその中から、紙やプラスチックが燃えるときに見られる模様について、それらがどのようにできるのか、また、何に使えるのかということをお話したい。
 シマウマやキリンなどの動物の模様は、カラダの上にできた波によって作られていると言われている。波というのは、例えば、水面の波紋などのことである。このことは大阪大学の近藤滋先生が1995年にタテジマキンチャクダイを用いた実験により実証された。近藤先生らは、同じメカニズムでチーター、ユキヒョウなどの模様も再現できることも示している。このような波による模様は、動物だけでなくメロンなどのひび割れにも見られる。
動物の模様は定在波であると考えられるが、波には2種類あることが知られている。一つは波が進行せずその場で振動している「定在波」(例:ギターの弦、管楽器など)、もう一つは波がある方向に進む「進行波」(例:水面の波)である。波により模様ができるのであれば、進行波による模様があっても不思議ではない。今回のテーマである固体燃焼におけるパターンとは、紙などの固体が燃えるときの「進行波」が作る模様のことである。
 私は主に火災時の燃焼領域が拡大していく現象に関する基礎研究を行ってきた。この現象をごく単純に考えると、燃える前の領域と燃えた後の境界(=火炎)が、燃えていない領域に向かって動いていると見なすことができる。火が移動していく様子は、あたかも海の波が海岸に押し寄せるのと同じと思えば、火が進行波であるということも納得できると思われる。さて、この燃焼の波は多少凸凹しているのが自然であるが、これがある条件ではまっすぐになろうとしたり、凸凹が激しくなったりする。後者によってできた指のような模様をフィンガリングパターンと呼ぶ。
 フィンガリングパターン、あるいはそれを形成する小さな火は、時として大きな火災をもたらすことがある。それはフィンガリング現象が燃焼限界近くで発生する現象であり、いったん発生すると火炎が小さくなり視認が困難であるが、条件が整えば大きな火に戻るという特徴を持っているからである。例えば、線香から火種が座布団に移り、約10時間後に火災発生した例がある。断定するのは難しいものの、この火災はフィンガリング現象に起因した可能性がある。
 最近では、固体を燃やしたときの模様、あるいはこの模様を作るパターン形成現象を海洋ゴミの焼却処理への活用できないかということを検討している。近年、海洋汚染や景観の汚損、生態系への被害、船舶運航の障害などの原因として海洋ゴミが大きな環境問題となっている。ゴミの焼却には分別処理が重要になるが、成分が雑多で、砂や水、塩などを含む海洋ゴミではこれが難しい。そこで私が考えているのが、パターニングを活用して燃えにくい部分の燃焼を促進し、燃えやすい部分は燃焼を弱くすることで、この雑多な(不均一な)ゴミを均一的に燃焼させるという方法である。具体的にはろ過燃焼装置において燃焼方向を制御することでじわじわと均一的に燃焼させることができるのではないかと考えている。まだまだ基礎研究段階ではあるものの、最近では条件を制御することで流れに対して垂直方向に動くような燃焼モードが存在することを見出している。
 紙などの固体を燃やした際に現れるパターンは美しいが、その一方で火災の原因ともなり得る。東三河の美しい自然を将来に保全することは、この地域に住む我々の責務である。パターン形成に関する研究を通じてその一助となれば幸いである。

講演要旨②

 株式会社糀屋三左衛門の創業は室町時代。私は29代当主で、事業内容は種麹製造販売、各種発酵食品関連事業で、グループ全体で従業員は27名、売上高は4億円である。日本酒の消費量は、30年で70%に低下。種麹も品質差が飽和状態となり、売れ筋の種麹は数種類に固定。種麹はコモディティ化し、価格競争もデフレ化、単価は70%減となっている。消費量70%減×価格70%減=49で、マーケット規模は半減している。1990年代同業15社が、現在は6社となっている。
 明るい話題として、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma」が発酵のラボを開設し、麹を料理に取り入れた。また、世界の有名レストラン・現代ガストロノミーで「発酵」がキーワードとなるなど、「発酵」のムーブメントが起こり、「発酵」に対する世界の関心が高まっている。
 このような背景のなか、私どもは「文化創造業として次世代へ麹文化を継承する」ということで家業を定義している。麹、種麹という伝統産業を、糀屋三左衛門の知見とクリエイターのアイデアで現代的な価値観にアップデート。醸造の一工程を超えた文化として「麹づくり」を創造・再構築し、次世代へ継承していく。文化創造のためには、美しさ(=アート)と楽しさ(=ホビー)が必要である。「楽しさ」で人を集め、「美しさ」が価値を産むことになる。このような循環が文化を創ることになると考え、活動している。
 産業というのは、裾野と高さの両方が整うことで生まれる。裾野を広げ、高さを出すために、麹づくりを「アート」と「ホビー」にしようと訴えている。具体的には、原宿に期間限定で出店した「LOEWE」とのコラボレーションで、あま酒の提供を行った。また、今年4月には、「美食」をキーに五感で麹を体験し、未来の生活と社会に役立てる1泊2日のAcademy「KOJI THE KITCHENを開催した。99,000円という料金で17名に参加していただいた。遠くはカナダ・トロントから、お金を貯めて参加した大学2年生もいた。参加者の満足度は10点満点中9.57点。参加者の属性は、フードテックのコンサル、麹教室の先生、インバウンドのフリーガイド、大手食品メーカー開発職などで、東三河でも、ラグジュアリー観光、グローバルな集客が成立することを証明できた。
 なぜ、文化創造業をやる必要があるのか?東三河全体で、若い女性が毎年700人流出。男性は微増しており、統計上極端に人口が減っているように見えず、危機感が湧かないことが余計に危ない。愛知県に残らないのは、やりたい仕事がないからである。また、就職時に流出した人は、キャリアアップ志向が強い人である。それでは、どういう仕事があれば、東三河に残るのか?豊橋市は、飲食店、医療業、飲食料品小売業、輸送用機械器具製造業が多い。そこで、製造業同士で、豊橋の企業と東京の企業の求人票をAI分析したところ、同じ製造業でも、大学生向け求人サイトに現れる「職種」に差異があり、これが若者/女性の流出原因になっていることが分かった。営業事務を「マーケティングサポート職」、チラシ作成を「広報・PR職」、ECサイト運営を「ネットショップ戦略室」など、多少大げさでも良いので、ネーミングが変わることで既存社員にも重要度が伝わり、伝わることで仕事の内容が高度化する。結果として、高付加価値化への脱皮ができる。そのため、経営者は「仕事を造る/見つける」勉強が必要となる。
 『地方に応募してくれる人材の特徴』としては、①勤務希望地が「地方」だけでなく「海外」がある(移住・引越しに抵抗がない)、②なぜかピンポイントで地方の都道府県がある(結婚・介護などの理由=移住意思が強い)、③現在年収と希望年収に大きな開きがない(年収以外が転職軸になっている)、④現在年収と提示年収が見合う(20%ダウンをこえると熱意があっても厳しい)、ことである。また、『キャリア女性がいてもいいのだと思わせる環境』は、①(性別ではなく)能力/スキルが求められていると感じてもらう、②制度としてジェンダーギャップがない、③女性社員の人数だけでなく、上級(高度な)キャリアの未来がある、④(女性社員にだけ負荷をかけない)逆配慮が発生していない、ということが重要である。「KOJI THE KITCHEN」の企画は、新規採用の2名と研究室若手職員2名、平均年齢29歳の女性チームを中心に成功した。
 「技術は凄い、でも、その技術は、社会の何の課題を解決するのか?」研究にお金が集まるのではなく、社会課題にお金が集まる。「その社会課題の解決は社会にどれだけのインパクトを与えるか?」で産業総額が決まる。その産業総額から逆算して、研究に投資可能な額が決まる。その時点では基礎研究がゼロでも、投資を集めて研究費とマーケティングに投下。1企業で研究費10億円程度の先行企業を、数百億円、千億円の単位で資金を投下して圧倒的速度で抜き去っていく。日本はそれで、「そもそも技術は先行していたのに負け」をしてきた。
 東三河を「食の聖地」にすることを目指す「東三河フードバレー構想」。その拠点として2021年11月に「emCAMPUS」がオープンした。食・農産業は、「コモディティ(「食」×環境・設備)」「プレミアム(「食」×健康・技術)」「ラグジュアリー(「食」×芸術・文化)」の3つの領域に分かれる。ビジネスの規模感・収益モデルは、領域ごとに全く違ってくる。技術ではなく、社会課題を表現した『芸術性・文化性』に値段が付く時代である。世の中が「一般入試」(僅差を争う神経戦)から、「推薦入試」(基準の違う闘い)になったということである。食・農分野を支援するためには、3領域にわたる総合知見が必要であるとともに、豊橋市の弱点である芸術や文化が牽引する「ラグジュアリー領域」を支援する継続的な仕組みが必要である。このためには、東三河に芸術系大学が揃うことが東三河フードバレー構想の結実に向けて極めて重要であるとともに、フードバレー構想推進のため、アート・デザインから統括する東三河フードバレー構想のリーダーが必要である。
 「これからのことは、未来の若い世代のリーダー」ではなく、今、社会的に力のある皆さんに明日から、動いて、決めていただきたい。今の若者が社会的に力を得て、地区内の意思決定に参加できることを待ってからでは、時間切れである。どんな場所に住んでも、どんな仕事をしてもいい時代だからこそ、自分のこどもたちには、東三河という場所を、発酵という仕事を、選びたいと思って選んでもらうことを望んでいる。