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産学官民交流事業

2023.12.01 第238回東三河午さん交流会

1.日 時

2023年12月1日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

(有)平川木材 取締役/木軸ペン工房KIKI 代表 平川 翔一 氏

  テーマ

『手のひらに森を感じよう ~木軸(もくじく)ペンの魅力~』

4.参加者

32名

講演要旨
 最初に有限会社平川木材の仕事の内容を説明する。住宅に使われるようなフローリング材、敷居や鴨居と呼ばれる枠材、柱、梁などの構造材の加工をしている。基本的には、個人住宅の材料の加工が多い。セントレアの横にあるスカイエキスポという国際展示場のメインストリートの天井や壁、ベンチなどに愛知県の杉材が多く使われており、当社が加工をしたものが使用されている。スカイエキスポにいかれる機会があったら見ていただきたい。大きな木材を大きな機械で加工しているが、なぜこの木軸ペンという手のひらサイズの木工を始めるに至ったのか、から話をする。
 本業の木材加工では、寸法をミリ単位で指定した加工の注文を受けるが、預かった顧客の材料を最初からその寸法に加工することはほとんどない。まずテスト加工をし、実際に寸法通り加工できるか確認し、その上で注文どおり正確に加工する。そのため、どうしても余分に木材が必要となり端材が発生する。こうした端材はコンテナに貯めて、専門業者へ処理費を支払い、処理するということを長年続けていた。この端材を何か有効活用できないか、と入社以来常に考えていた。最近はアウトドアブームの高まりに伴い焚火用の薪の需要が増加し、焚き付け用にまとめて販売されていたりもする。しかし、燃やして使うにはもったいない良い木材が多い。何か製品にしたい、木工品として有効活用したいという想いが強くあった。そうした中、北海道にいく機会があり、札幌郊外の山の中にある木工場にて、夫婦で木工されている方の工房を訪ねた。そこで私が端材の利用方法に悩んでいると話すと、親身に相談に応じていただき、工房の中を説明しながら話をしてくださった。その時にハンノキという木を使った箸と箸置きのセットを購入し、今も毎日使っている。ハンノキは北海道の家づくりに欠かせないといわれているトドマツやカラマツといった重要な木材の人工林に勝手に生えてきてしまう厄介者で、侵入する木という意味で侵入木とも呼ばれている。こうした木のためハンノキ自体の需要は低く、ほとんどが燃料材として燃やされてしまう状態であった。皆さんは北海道の自然がとても豊かで、木材の量も豊富というイメージをお持ちであると思うが、実際の蓄積量は年々減っているそうである。こうした北海道の森を守って、正しく循環させていくためにも、ハンノキのような木材として需要のない木を積極的に使う活動をされているとのことであった。この話に大変感銘を受け、私も木工をやるなら、何か日常的に手に触れられるような地元の木材を使ったものを作る人間になりたいと思った。
 そこでたどり着いた答えが、木工旋盤という機械である。これは、主に椀や皿などを作る機械になる。木工旋盤に興味を持ったものの、大きな機械で大きな加工をすることには慣れていたが、手加工という自分の手で調整をしながら加工する経験が全くなかった。木材業界にいると、どうしても指を切断したりとか、手を巻き込まれたりといった怪我のリスクがある。DIYの定着で多くの人が木工を独学で始めることも文化として広がっているように見受けられるが、木工というのはやはり安全であってこそだと思う。安全を求めるなら、しっかりした場所で習って知識を得てから始めるべきだという気持ちがあり、そうした学校を探していると岐阜市の椿洞に「ツバキラボ」という木工旋盤を専門に教えている学校に出会った。こちらの代表は、地域の資源を活用して日々の暮らしを豊かにといったテーマで、公園の伐採木の製材加工や製品化、教材としての使用、木や森をコンセプトとした木育イベントの開催など精力的に多くの活動をされている方であった。この「ツバキラボ」で木工旋盤を体系的に学んだことが今の活動に大きく影響している。木工旋盤のレッスンに通い、皿・器・コップなど私が作りたかったものの作成技術を学びながら、当社工場の2階空きスペースを父親と2人でリノベーションし、工房と呼べるような作業場を作って機材を揃えていった。
 その矢先にコロナ禍が始まった。コロナ禍によって引き起こされた大きな出来事のひとつに、ウッドショックと呼ばれる世界的な木材の価格高騰があった。これにより日本の住宅着工数が非常に少なくなり、家を建てる人が減ったことにより、当社の主な仕事である木材加工が激減し、売上が3分の1以下になるといった形で大打撃を受けた。コロナの影響に対する危機感と、環境を整えて木工旋盤をやろうとしていたこともあり、これを活かしたオリジナル製品を作るしかないという状況であった。こうした中で、何が良いだろうかと考えたときに注目したのが、この木軸ペンという文房具である。皿・器と比較すると材料のサイズが小さく、当社の主要な端材の大きさとほぼ同じであった。そこで試しに木軸ペンを1本製作し、木材や木工の情報交換用として使用していたSNSアカウントへ投稿したところ、「どこで買えるのか」、「このような樹種はあるのか」、「オーダーはできるのか」など大変大きな反響があり驚いた。こうしたコメントをくれた方々と交流する中で、大体10年ほど前から文房具ブームが起きているとのことであった。近年、特に注目されているのが、ガラス工芸であるガラスペンと、木材を使った木軸ペン、この2つの人気が高いということが判った。反響の大きさに可能性を感じ、2022年10月に、交流用のアカウントを「木軸ペン工房KIKI」として移設し、本格的に木軸ペン作りを始めた。
 木軸ペン作成に本腰を入れてみて、木軸ペンの工房というのは私もそうであるが、ほとんどが個人で活動しており、一部の有名な作家を除いては、ハンドメイドの販売サイトやフリマサイトが主な販売経路であった。つまり、イベント以外では手に取って購入できる環境がなかったのである。私は日用品購入時、実物を手に取って試してから購入したいという思いが強く、顧客に販売する場合も実物を手に取ってみて、納得してから購入いただきたいと思っており、実店舗が必要だと考えた。そこで当社敷地内に30年ほど前に父が作ったログハウスをリノベーションし、今年5月に実店舗をオープンした。豊橋駅は新幹線も止まり、駅から工場まで徒歩20分程度である。オープンした5月は店舗に入りきれないほどのお客様に来ていただいた。家族連れ、木軸ペンファン、文房具ファン、本当に全国から来ていただいた。また、大きな反響があり、新聞やネットのテレビなど多くのメディアに取り上げられ、本日このような講演会をしている。実店舗をオープンするという決断が、大きな成果を生んだと実感している。
 ここから、木軸ペンの魅力について話をする。木軸ペンを1本作るためには45分から1時間ほどかかり、その様子をSNSなどに作成動画として日々アップしている。樹種の多さと無限にある木目からコレクション要素も非常に強いのが木軸ペンであり、それをより引き立たせるために木軸ペンとペントレーのセットという形で作成したものが、木材活用がテーマのウッドデザイン賞と呼ばれる賞で優秀賞を受賞した。受賞した作品は国産材樹種で、日本古来の和色を表現したものである。世界中の樹種は多彩な色味や木目、香りがあるだけではなく、同じ板材から材料を切り出しても同じ木目にはならない。どの木軸ペンも唯一無二の存在となり、それが木軸ペンの最大の魅力である。またもうひとつの大きな特徴は、経年変化である。天然素材である木材のため、日々の使用に伴い色が濃くなる、艶が増える、そうした変化を楽しむことで愛着が増していく、こうした点が非常に魅力的な文房具である。最近は、「レジン」と呼ばれる樹脂と木材を組み合わせたものや、特殊な顔料を木材の内部まで浸透させて硬化させた「スタビライズドウッド」と呼ばれるハイブリッドな素材を使用した製品も、自然界にはない特殊な色味や模様を楽しめるということで大変人気がある。地元の木を使いたいとの思いで、愛知認証材「CHIGIRI杉・CHIGIRI檜」という製品を製作、今年度あいち木づかい表彰の優秀賞を受賞した。こちらは豊橋市のふるさと納税の返礼品にも登録しており、非常に好評を得ている。このように、手のひらで多彩な木の良さ、魅力を感じられることが、木軸ペンの大きな魅力である。
 次に、現在に主な活動や今後の目標について話をする。私は「トヨハシ・ランバーメン・クラブ」という豊橋の木材関係者の若手が集まった団体の会長をしており、毎年豊橋まつりに木工作広場という形で参加をしている。今年初めて木軸ペンの製作体験を行ったところ、予想を超える多くの方に体験いただいて、ギャラリーもできるような状況であった。補助があれば、小さな子供でもペンを作ることができるというのが木工旋盤の良さである。木軸ペンブームの影響で作家も非常に増えており、今では高校生、中学生の作家も出てきている。東京で9月に行われた「文具マーケット」というイベントに出展した際は、来場者の熱気で会場が蒸し暑くなるほどの状態であった。ありがたいことに、まだスタートして1年だが文房具関連、木材関連のイベントに出展する機会が増えている。
 次に私の今後の目標について話をする。大きく分けて2つある。最初はオール愛知産の木軸ペンの製作である。現在、材料となる県産材は県内の取引先から、化粧箱も地元豊橋の紙器制作会社に依頼し作成している。ただし、金具に関しては、国産の金具を作るメーカーが少ない状態である。オール愛知産化することで付加価値を付けて、愛知県発信の木軸ペンとして、全国に愛知県産材、木軸の魅力を広めていきたいと思う。次に文房具のイベントは関東圏・関西圏で開催されることがほとんどであり、地元の愛知・豊橋で開きたいという想いがある。愛知県はものづくりの県と思うため、東海地区には木工作家、木工に限らず多様な工房が存在し、素晴らしい作家も多い。SNSで交流していると東海地区には発表する場が少ない、良いものを作っても発表する場がないという話になる。こうした工房や、作家、職人の受け皿になるようなイベントを愛知県内で開きたいと考えている。そう思う理由は、「木軸ペン工房KIKI」の営業日は月に2回程度であるが、その際には県外から多くのお客様が来る。例えば神戸から家族が車で来たり、岐阜から中学生の男の子がひとりで来たりという形である。これは木軸ペンの製作を始めるまでは全く想像していなかった。市外や県外から豊橋に人を呼べる魅力が、木軸ペン、木材にはあると考えている。ひとりでできることは少ないが、製作活動を続けてきた中で、例えば木材業界を盛り上げたいという方や、文房具業界を盛り上げたいという方と出会う機会があり、こうした方々とつながることで、何かが動いていくのではないかと考えている。