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産学官民交流事業

2024.02.02 第239回東三河午さん交流会

 

1.日 時

2024年2月2日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

LiE RECORDS 代表 平松 章也 氏

  テーマ

『レコードのある生活』

4.参加人数  

28名

講演要旨
 最初にレコード店を始めた経緯について話をする。豊川市で生まれ、ずっと豊川で育ってきた。老人ホームなど福祉の現場で正社員として働いていた20歳の頃に音楽にのめり込んで、レコードを集め始めた。なぜレコードが好きになったかっていうと、きっかけはあるバンドである。日本に「サニーデイ・サービス」というバンドがいて、その人たちのライブの物販にいったときにレコードを見つけ、そこで初めて1枚目のレコードを手に入れて魅力にはまり、集めるようになった。初めてレコードを見たときに、何となく僕の中で、これが武器になるかもしれないという直感が働いたのである。
 どうしてレコード屋を始めたかというと、地元で就職して、老人ホームの現場で働き、同じ日々の繰り返しの中、自分の生き方がこれで本当に正しいのかいつも疑問に思っていた。30歳ぐらいの時、親が亡くなったこともあって「一回しか人生がない」とあらためて実感し、好きなことをやってみようと思った。そこで思い切って老人ホームをやめることにして、音楽関係の友達を頼って東京に出た。しかし、上京先でもなかなかうまくもいかず、仕事を探すことになり、ハローワーク経由で杉並にある老人ホームで働くことになった。事務の仕事が中心で、主に総務の仕事をしており、採用の面接官など担当した。そこで、フジロックという音楽フェスにでている「GEZAN」というロックグループのベースの人と偶然知り合いになった。そんな関係からこちらに戻ってきたときに、レコード屋さんやロゴデザインのデザイナーなど、いろいろな人を紹介してもらえることとなるなど、この偶然な出会いがレコード店開業につながった。
 最初のお店は豊川の稲荷口のところにあった。レコード屋になりたいと思ったのが2020年の1月頃で、2020年の8月にオープンした。7ヶ月間の急ピッチで、本当に未経験から何も知らないままレコード屋を始めた。レコードの仕入れだとか、そういうのもわからなかったが、紹介してもらったレコード屋さんにファミレスで3時間程度教えてもらい、何もわからないまま始めて今3年経っている。豊川で店舗を探しているとき、賃貸物件で条件にあうところがなかったため、幼馴染が働いている電気屋の事務所の一角を使わせてもらっていた。
 その後、豊橋の水上ビルの一番端の大手ビルに移転することになった。諸般の事情で急遽物件を探さないといけなくなり、豊橋に「人蔘湯」という銭湯があり、そこの番台をしながらレコードを回す仕事を少し前までしていて、知りあったお客さんが水上ビルを紹介してくれた。最初は廃墟のような状態で、途方に暮れた。色を塗るだけで良いかなとも思ったが、せっかく移転をすることでもあるし、この年齢で今こうした機会はないと思い、壁を壊したり、元倉庫であったが少しずつ解体して、床を全部塗ってみたりした。
 幼馴染と2人で8ヶ月ぐらいかけて作業し、天井を壊していくとすっきりしたスケルトンになった。見切り発車でやってしまうタイプなので、全部一筆書きでどこまでやろうとも決めずに作業していった。コンクリートの打ちっぱなしも良いかなとも思ったが、少し個性が足りないと感じ、細部まで真っ白に塗ってみたら結構最初と雰囲気も変わって良い感じになった。ドイツのバウハウスとか、スペースエイジというアメリカの内装を意識して、看板とかも透けたり、宇宙船っぽいような店内にしたくて照明をつけてみたりして内装を仕上げていった。
 実はこの場所で映画も撮影されている。高校生ぐらいから来ているお客さんが、芸大みたいなところに通い始めて、今度の2月10日の19時半から上映会と主題歌のライブという感じで、出演者はみんな豊橋の人、僕も出演する水上ビルや近くのバーとかで撮影した15分の短編映画である。とにかく、地元の人たちに支えられてやっている。
 レコードは溝の切れ目が曲の切れ目みたいになっていて、片面5曲とか20分ずつしか入らないなど、曲の長さの制約がすごくある。今は1枚のアルバムでどれだけ長い曲でも作れるが、当時のクラシックは1曲で7時間とかあるため、ボックスセットで売られていたりした。こうしたものは、当店でも買い取りでたくさん入ってきている。クラシックとか好きな人は、すごく安く手に入るので買いに来てほしいと思う。また、有名な歌手の名曲のライブ盤なども110円で買えたりする。レコードの価格の違いは、需要と供給の差だけである。高いレコードは、世に出た枚数が300枚しかないというようなものは永久に高かったりするが、多く売れたレコードでもオリジナル版というか初版に近いほど高い。なぜ高いかというとマスターテープがあって、それが再生するたびに劣化をするので、できるだけ初版に近い方がきれいな音で録音されたものが盤に刻まれているからである。録音テープを回してアセテート盤という柔らかい合成樹脂でコーティングされたものに、工場でカッティング技師がいて、溝を掘って音の鳴りが決まっていく。レコードは、刻んだ音を針先のマイクで拾って、それをアンプやスピーカーで広げて耳に届く仕組みである。だから、録音された状態が良ければ良い鳴りがする。これが再発されたものとだと全然音の鳴りが違うというのがレコードの面白さだったりする。
 レコードは、鳴らしてみるとYouTubeとかで聴くようなCDの音源の音とは違う。CDの音はデジタルデータに変換されたものであり、ある一定から下の周波数の低音と、同じく一定以上の周波数の高い音がカットされている。レコードはそうしたことがなく、音が無尽蔵に広がるのが魅力である。デジタルメディアだとリマスターみたいなのをすると明確に音の違いが出るが、アナログは出た時期がおそらく早ければ早いほど音が良いので、聞き比べてみると結構違ってすごく楽しい。
 また、レコードは結構面白いカバー曲などもいろいろ発見できる。レコードではないと知りようがなかったものもある。実はビートルズの日本語バージョンが存在している。韓国、フィリピンなど、いろいろな国の言葉でもカバーされているが、この日本語バージョンがとても面白い。例えば「A Hard Day’s Night」。この日本語バージョンのレコードのサビは「朝から晩まで犬のように働く」になっている。独特の訳詞で本当にこんな訳であっているのかわからないが、聞いた瞬間に楽しくなる。ついつい人前でレコードをかけるときにこういったものを選んでしまう。
 レコード好きにはいろいろなお客さんがいるが、本当にカバー曲だけを集めて、誰にも見出せないものに価値を見出して、自分の路線でいろいろなレコードを探す人がいる。他にもひとつのアーティストのアルバムを全部揃えるといって、500とかあるタイトルをひとりで集めきった人もいる。蓄音機は皆さん知っているだろうか。古いビクターのマークの形のものであるが、あれで再生するレコードを小学5年生から集め出した20代の男の子がおり、現在20万枚ぐらいもっているといっていた。この豊橋の街にはマニアックな人がたくさんいて、そういう人たちと知り合えたのは僕にとってこのレコードと音楽に関わってきた財産である。介護の仕事をしていたら、こうした趣味の仲間にはめぐり会えなかった。口下手で人と喋るのも苦手なので、音楽の趣味が一緒だとそれだけで距離が近くなるというか、友達のようになれる。僕はレコード店以外のDJの仕事もしているが、曲が気に入ってくれたら、DJをやった後で話しかけられたりして、友達がたくさんできるのがこの趣味の僕にとって最も良かったところだと思っている。
 「こんな小さな街のレコード屋一本で食べていけるの?」という質問をよくされるが、僕もそれを最初の時に思ったので、長くこの地域に根付くように、ポータブルのレコードプレイヤーをお客さんに勧めるようにして、入門として買っていただいた方には無料でレコードを3枚プレゼントするということをやっていたら100台くらい売れて、去年は日本で一番同機種が売れた店になったりし、少しだけ根付いたかなとも思っている。価格は9,400円から確か21,960円で全機種本体自体から音が出るタイプで買ったその日から楽しめる。若い娘さんがお父さんにプレゼントとして買ってあげるケースがこれまで10件ぐらいあったりして、そんな親子関係も素敵だなと思っている。
 レコードデビューする感じのお客さんに写真を撮らせてもらい、それに若いお客さんが少しずつインスタグラムとかで反応をしてくれる。お店で写真を撮ったり、おしゃれな感じで頑張ってみたりする努力が実ったというか、それでなんとかやれている感じである。
 豊橋の街には、昔「名豊ミュージック」や「ラビット・フット・レコード」あった。そういうところで昔売っていた商品が当店のようなレコード店に流れてくるという感じである。街によって多く売れたレコードにかなり差がある。東三河だったら「あみん」やシンセサイザー奏者の「喜多郎」の出回っている量が多い。岡崎では富田勲さんという岡崎出身のシンセサイザー奏者の数が圧倒的に多く、地域性による偏りがあって、レコードを集める中で面白い。レコードを趣味として始めると、旅行や出張にいったときにいろんなお店を訪問し、そこで中古レコードを偶然見つける旅や街歩きみたいなものが、レコードを集める楽しさとしてある。
 人によって音楽とか言葉の琴線はすごく違う。そこに触れるチャンスがあるのも僕にとってのレコードの魅力である。それがスポーツだったり本だったりしても同じことになると思うが、ひとつのものにのめり込むというのは、すごく楽しいことだと思う。基本、仕事もそうかもしれないが、人生でひとつだけそういうものを見つけられたのが、僕にとってはレコードのある生活の良かったところかなと思っている。
 CDは30年ぐらいしかもたないといわれている。80年代初頭くらいから出てきたと思うが、その頃のCDの中にはもう聴けないものもある。レコードはビニール焼けといって、ビニールが張りついたり、傷さえつかなければ、そのものが現存し、針がある限り聴ける。経年劣化で聴けなくなったレコードをあまり見たことがないので、レコードが出て60年以上の歴史があると思うが、これから100年、200年と残っていくものだと思う。僕はレコードをきれいな状態にして、後世に一枚でも多く残ればと思い、ジャケットも盤もピカピカに磨いて出すことを心がけている。都会と違って珍しいもの集まるわけではない。普通のレコードでも良い音楽は良い音楽である。日本は高音多湿でカビも生えやすいが、レコードが残る年数が5年でも10年でも長くなったら良いと思っている。風通しが良くて日が当たらない場所がレコードには良いが、そんな場所はこの世にない。それに近い状態を維持しつつやっていくのが、僕がこの場所で、この地域でレコードの文化に携わらせていただいている使命だと思っている。
 レコードは音の粒立ちがかなりクリアというか、音域が本当にファーっと広がる。大きい音で聴いたりすると聴いたことのない音色も聴けたりというのがやっぱり良い。携帯電話のスピーカーで聴いても良い曲は、十分涙も出るし感動もできる。レコードだと、ものもあって思い出にも残ったりするため集め始めると楽しい。買いにいったときの旅先のことを思いながら、「あの時このレコード買ったな、あの人と」といった感じで、音楽は思い出とともにあると思う。嫌なときの思い出は、その音楽を聴くと思い出してしまう。楽しい思い出もその時流れていた音楽で思い出したりする。だから、僕もなるべく人の前で音楽かけるときは、「僕が真剣に悩んで、かけた曲で聴いた人の気持ちが変わってほしい」と考えて選んでいて、「それがすごく良かったよ」といってもらえたり、「この間買ったレコード良かったよ」といってもらえるのがレコード屋をやっている僕のやりがいと楽しさになっている。