2024.06.05 第262回東三河午さん交流会
1.日 時
2026年6月5日(金)11:30~13:00
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム
3.講 師
豊橋技術科学大学 総合教育院 教授 宮本 弘之氏
テーマ
『100人の経営者に学ぶ、視野が広がる読書コミュニティ』
4.参加者
33名
講演要旨
最初に自己紹介であるが、私は株式会社野村総合研究所で経営コンサルティング業務に32年間従事、その後、豊橋技術科学大学で教鞭を執っている。学歴として、修士は理工学研究科経営工学専攻を修了して取得したが、社会人生活の中で経済経営専攻を修了し、経済学の博士号を取得しており、理系から文系へ移ったことが特徴的であると思う。株式会社野村総合研究所時代に執筆した書籍は、『富裕層ファミリー「点」より「面」が市場を制する』『プライベートバンキング戦略~ターゲットはグローバル富裕層ファミリー~』『お金持ちのお金はなぜなくならないの?』『親リッチ』といったものがあり、また、学術に関する著書として共著であるが、『日本金融の誤解と誤算~通説を疑い検証する~』『金融serviceの新潮流 ゴールベース資産管理』がある。
皆さんは毎月1冊以上本を読んでいるだろうか。文化庁国語科の全国の16歳以上の個人を対象にして、個人3,559人を対象とした『令和5年度「国語に関する」世論調査』によると、1か月に1冊も本を読まない人は全体の62.6%、1冊以上読む人は36.9%という結果であり、意外と読んでいる人が多いと感想を持った。本日は、経営者が書いた本をきっかけに、地域の中に「学びとつながりの場」をつくるチャレンジについて話をする。
最初に私の読書歴と秋の読書会を始めたきっかけについて話をする。私の読書歴として、小学生の頃は本好きの子どもであったようであるが、中学校から高校では他にやりたいことも多く次第に読書習慣がなくなっていった。大学では、ボート部に所属し年間300日を超える合宿生活であったが、なぜか新聞だけはよく読んでいた。大学院では研究生活中心で、それに関する本しか読まなかった。就職後は経営コンサルタントという仕事柄、相手に話を合わせられるようビジネス本の斜め読みで、目次とキーワードぐらいしか覚えていなかった。中堅時代になると自己裁量で時間をコントロールできるような余裕が生まれ、ミステリー小説にはまっていたが、管理職になり社会人大学院で博士号取得を目指す中で読書の時間がなくなり、論文の参考文献リストに載せるためだけにしか本を読まなくなった。
豊橋技術科学大学に転職し、工学を学ぶ学生に経済や社会がどのように動くのかを教えるとともに、経済学、ファイナンス、生産管理、産業技術政策、イノベーションなどの分野を担当している。そして、大学内のみならず、活動範囲を地域や社会に広げていきたいと考えていた中で、「豊橋未来産業人材プロジェクト」に関わることとなった。これは、市内企業のリスキリングを個別に支援する内容であり、入社10年前後の若手・中堅社員の選抜研修を実施するものであった。経営者側からの「目先の仕事、自分の部署の仕事から、先の仕事、全社的な仕事に視野を広げさせたい」というリクエストにどう応えるかについて考えていた。そして、「経営者の目線に少しでも近づくには、経営者自身が書いた本を読むのがよいのではないか」という結論に至り、会社の20年後に視野を広げて議論する活動と並行して「未来を描く議論と経営者の思考を学ぶ読書会」を開催した。
この読書会に対する参加者の感想として、「いろいろな経営者の考え方を学べた」「自分自身との共通点や違いも知ることができた」といった前向きな感想が多かった。それ以上に、講師の自分が読んでいないとは絶対に言えないため、月5冊×3か月=15冊を必死で読んだ。その中で、ビジネス本はたくさん読んできたつもりであったが、創業経営者やイノベーターの語り口に、心に刺さる記述が次々に見つかった。
この経験から、住宅金融研究室の学生と読書会を開催するように経営者が書いた書籍100冊のリストを作成した。そして学生2名に社会人の知人2名と私で毎月の読書会をスタートした。ここでは読書会の運営ノウハウを得られるように試行錯誤を繰り返し、読書会のメモフォーマットの作成などを進めていった。そして、読書会の運営方針として3つを定めた。最初は「適度なプレッシャー」である。「どんなに忙しくても月に1冊読まなければいけない」「毎月必ず参加しなければならない」といった過度なプレッシャーがかからないように、自由にペースダウンできるようにするとともに、読書会のコミュニティが存在することで、「がんばって読もうかな」と思える位の適度な緊張感を目指した。次は、「フラットなコミュニティ」である。バックグラウンドが大きく異なる参加者が集まっているため、年齢や肩書きなどを意識すると、率直かつ突っ込んだ議論をしにくくなる。そのため、例えば全員が「さん」付で呼び合うなど、お互いにフラットなコミュニティをつくることを意識した。最後は、「臨機応変に軌道修正」である。例えば、全員が別々の本を読むか、同じ本を読むか、など、どのような運営方法が最適であるかがわからないため、細かい運営方法については、参加者が合議して、臨機応変に変えていくこととした。
こうした経緯を経て、「秋の読書会」を開催した。本から学ぶことも当然大切であるが、いろいろな人が集まる交流の場となることも重要である。経営者が書いた本からは、ビジネスに関わりを持つ人およびこれから関わる学生にとって、ビジネスとイノベーションの本質に関して現実的で多面的な示唆が得られる。また、年代・職業・業務経験などバックグランドの異なる参加者と共に学ぶことで、感想を述べあい気づきや刺激を受けることで新しい視点が得られる。しかし、過度な負担なく学べる場とすることも配慮した。読書会の全体像は、水曜日夜第1グループ(7人)、水曜日第2グループ(6人)、金曜日夜グループ(6人)の3つのグループに分かれ、10月から12月まで月に1回課題図書の感想を述べあった。参加者のプロフィールは、男性が13名、女性が6名、年代は20代が14名、30代が1名、50代が3名、60代が1名となっており、30代と40代が少なかった。職業は会社員8名、学生4名、会社経営者4名、個人事業主3名と、狙い通り多様な参加者を集めることができた。読書会開始前に参加予定者にアンケートをしたところ、期待する内容として「経営者の考え方を学びたい」「視野を広げたい」「普段交流しない人と議論したい」といったように、経営者の考え方を学んで自分のキャリアにつなげていく考えと、交流がキーワードとなっていた。
この「秋の読書会」に気軽に参加してもらえるようにいくつかの工夫をした。まず、「経営者が書いた100冊」の本棚を用意し、課題図書を本棚から借りても自分で買っても良いとした。そして対面とオンラインのハイブリッド開催にして、対面参加の会場にはケーキとお菓子を用意した。そして、「出席できなくなった」「課題図書が読めなかった」「読書メモが書けなかった」といつたこともすべて問題なし、ドタキャンOKとした。
また、読書会の楽しみ方として、古い本はその後の登場人物を追いかけると面白いと分かった。本棚には10年以上前に書かれた本も混じっているが、最新の情報ではないと切り捨てる必要はない。筆者、その会社、登場人物のその後を調べてみると、楽しさが倍増する。例えばフェイスブックのマークザッカーバーグ氏の本など、本に描かれていた人間関係や事業の展開が、その後大きく変わっていることもあり面白い。他に、他の参加者と自分の印象に残った箇所の違いも面白い。他の参加者が発表するときに、印象に残った箇所が自分と同じか、違うかをチェックしながら聞くと、同じ本を読んで感じ方がどのように違うかを実感できる。そのためにも、傍線を引いたり、付箋を貼っておくと良いと思う。さらに、自分が印象に残った箇所の中から、3~5個を選ぶ作業も、なかなか楽しいものである。
読書会後に参加者に対してアンケート調査を行った。個別の意見や感想として、「和やかでありながら、自由に自分の意見を言いやすい雰囲気ができていた点が良かったです。」「多様(世代、職業、性別)なメンバーが揃ったこと。話も盛り上がったと思います。」「難しい考察をしないといけないかと思ったが、思うままに感想を述べられる程よい緩い空気感が良かった。」といった回答があり、当初の狙いがある程度達成できたと感じている。また読書会がすべて終わった後に、読後会を開催し、対面で15名、オンラインで1名が参加した。そこでも熱い議論が展開され、運営方法についても多くの意見交換がされた。こうして秋の読書会の価値をまとめてみると大きく2つになる。1つ目は、「交流の価値」である。それは、同じ職場の人からは得られない、幅広い世代・多様な職業の人たちとの交流による学びから得られる気づきや新たな視点である。2つ目は、「100人の経営者の生きざまを知る価値」である。経営者の実体験に基づく赤裸々な記述が、自己啓発本や経営分析本にはない、生々しさ、奥の深さ、躍動感が、ビジネスやイノベーションの本質をえぐり出している。
「秋の読書会」の課題図書は全部で18冊あった。その中で、参加者が読書会後に選んだ本をランキングした。結果は1位がほぼ日刊イトイ新聞著の任天堂の元代表取締役社長で、ハル研究所代表取締役社長なども歴任した岩田聡氏について書かれた「岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」、2位が大西康之著のリクルートを創業した江副浩正氏について書かれた「起業の天才」、3位が本田宗一郎著「やりたいことをやれ」であり、すべて昭和から平成の日本をリードした名経営者に関するものであった。私が気になった3冊を紹介すると、最初はエド・キャットムル著「ピクサー流 創造するちから」である。CGアニメーションのピクサー創業者が、クリエイティブな組織文化を創造し、持続させるために取り組んできた歴史を詳細に語っている。オーナーであるスティーブ・ジョブズとのやり取りも生々しく、映画製作という、創造性とチームワークの両面が必要なビジネスのマネジメントの要諦がわかる本である。次は、大西康之著「起業の天才」であり、「みんな江副の会社ではなく、自分の会社だと思っているから、自分が主役なんだ。楽しくないはずがない」という部分が印象に残っている。最後は、リード・ヘイスティングス他著「NO RULES 世界一自由な会社、NETFLIX」である。プロスポーツチームのような実力主義で結果を重視し、結果が悪ければ解雇されるといった運営を、グローバルに1万人以上の従業員を対象に展開していることに驚いた。
2026年秋の読書会を10月から12月で計画している。昨年の3グループから、今年は4グループ28名以上と規模を拡大し、場所も豊橋技術科学大学からemCAMPUSに変更して開催するので、ぜひ皆さんにもご参加いただきたく思っている。また今年は、多様な市民の学びのコミュニティとして、「ゼロからわかる金融教室」をメディア1社、金融機関11社に後援いただき開催している。読書会は本を読むだけの場ではない。経営者の言葉は、自分の仕事や組織を考えるきっかけになる。世代・職業・立場の違う人が語り合うことで視野が広がる。これからも引き続き私は、学びと気づきと共感のコミュニティとして、気軽に参加できる入口と、継続的に関われる学びと交流の場をつくっていきたいと思っている。
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