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産学官民交流事業

2025.09.05 第255回東三河午さん交流会

1.日 時

2025年9月5日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

豊橋市自然史博物館 館長 吉川 博章氏

  テーマ

『未来へつなぐ自然史博物館:これまでの歩みと新たな挑戦』

4.参加者

26名

講演要旨 
 豊橋市自然史博物館の歴史は、豊橋市が昭和58年にアメリカのデンバー自然史博物館と友好提携を結び、実物恐竜化石アナトサウルスの購入がスタートになっている。恐竜化石をどう活用するか検討していく中で、シンボルとして生物や地球の歴史をたどり、郷土の自然を紹介し学べるような博物館を作っていこうというのが、豊橋市自然史博物館設立のきっかけである。昭和62年に建設工事が行われ、昭和63年に開館した。面積が3,587㎡の年間入館者数が20万人前後ぐらいの単独博物館であった。当時は、南側に豊橋子供自然公園(のんほいパークの西園にあたる部分)が別にあった。これが平成4年に一体化し、豊橋総合動植物公園になって、現在の形ができたという流れになっている。この年、博物館の横に特別企画展示室、研究棟、郷土の自然展示室の一部が拡充された。現在では、開館当初の2倍近い面積となっている。開館当初は展示物も少なく、実物にもっと触れられるようにするべきということで、まず郷土の自然展示室を、平成5年から6年にかけて改装し、平成7年3月にリニューアルした。その後も順次、古生代から新生代という地球の歴史をたどっていく展示室を充実させていこうと資料の収集と準備をしていった。これは豊橋市の第4次基本構想・基本計画の文化環境の整備に位置づけられ、平成16年に古生代、平成20年に中生代、平成28年に新生代というように間を空けながら、地球の歴史をたどる展示室の改装が全部完了した。
 平成10年代ぐらいからは、学校との連携をより深めていくということで、出前授業に学芸員が出ていったり、標本貸し出しのセットを作って使ってもらったり、自由研究の作品展の開催などをスタートし継続している。積極的にいろいろなものを集めてきた中で、収蔵スペースが足りなくなってくるという状況になってきているため、最近は空いたスペースを有効活用して収蔵スペースの改善を行っている。
 標本は約59万点あり、番号が付けられて完全に登録された状態になっているものが12万点という状況である。展示標本も4,200点と多くの展示をしている。正規職員は開館当初学芸員が2名、事務職員5名からスタートしたが、現在は私を含めた9名の学芸員と事務職員2名で運営している。学芸員にはそれぞれの専門分野があり、岩石、地層、植物化石、動物化石、植物、脊椎動物、昆虫、魚類、貝類といった専門分野を網羅した専門家集団である。
 これまでの研究活動として、私の専門分野である植物化石の事例の話をしたい。まず、化石は、皆さん石になっているものと思うかもしれないが、過去に生きていた生き物が残したものは全て化石であり、種や実がそのまま残っているものや足跡なども全部化石と言う。大岩町で見つかった水草の種や木の実の化石と地層の状況から、表浜に見られる地層ができたのと同じ頃に、ハスやヒシが繁茂した池があり、周囲にドングリや絶滅したブナの仲間の木が生えていたことがわかった。学芸員のこうした研究活動については、当館では研究報告という冊子にまとめて年に1回発行している。その他、学会などでの発表や論文投稿なども行なっている。
 当館では、200人規模の学会の開催が可能でありこれまでも多くの学会を開催しているが、多分野で多くの学会を誘致することにより、日本全国の研究者や学生に対して東三河、豊橋市、のんほいパークの魅力をアピールすることができる。のんほいパークは動物園もあり、植物園もあり博物館がある複合的な施設であり、様々な学会を誘致しやすいことは強みであると思う。
 次に当館の資料収集について分野ごとに紹介する。化石標本は約6万8千点であり、国内外の有名な化石産地のものや学芸員が調査研究した貝化石などのタイプ標本が含まれている。大型哺乳類の化石骨格レプリカ(ケナガマンモスなど)は、展示室改装時に常設化した。岩石・鉱物標本は、約9千点あり、現在入手が困難なものも多い。植物標本は、約3万5千点あり、寄贈された豊橋周辺のさく葉標本コレクションが約60%を占めている。昆虫標本は、約28万点あり、専用の標本箱に整理されている。主なコレクションは、日本産のチョウ類標本、東海地方産の甲虫類標本、世界のクワガタ・カブトムシ標本などである。貝類標本は約19万点で、愛知県内の貝類収集家から寄贈されたものが主なものとなっている。魚類標本は約4千点であり、液浸標本用収蔵庫において、アルコールまたはホルマリンにて保存処理されており、外来魚駆除で得られた標本も含まれている。脊椎動物標本は約2千点の骨格標本、はく製などであり、動物園から提供された資料から製作されたものもある。魚類以外の生物系の標本は、室温・湿度が一定(20℃、50%前後)に保たれた収蔵庫に保管されている。こうして集められた資料は、番号が付けられ約12万点が登録標本として整理されているが、一部を順次資料集(目録)として公開しており、岩石と貝類の一部のデータベースはHPで公開も行っている。これらは展示以外に館外の研究者の研究利用、学習や教育の支援として、学校への貸し出し、出前授業での使用などにも活用しているが、自然史資料は集めて未来に残していくことが重要である。様々な自然史資料が残っていることが、かつて豊橋にはこんな生き物がいたという証拠にもなる。リストだけあっても、それが本当にそうなのかというのは、実物を見ないと分からない。研究の進展により昔は一種類だと思っていたものが調べていくと何種類も分けられて違う種類だということも結構ある。それを確かめるためには元々の標本に当たらないと分からないケースも多く、リストや写真だけではなく、実物を証拠として残すことが博物館の重要な役割となる。
 豊橋市内のものだけではなく、生き物の分布には行政区間は関係がないために近隣地域のものと比較できることも重要であるし、海外のものとの比較ということもあるので、あちこちのものも集めている。こうした各地の資料が集めてあることによって、豊橋の皆さんは他へ行かなくてもここでいろいろなものを見て比較をすることができる。これが豊橋に自然史博物館があって資料を収集しているということの強みであると考えている。博物館をただ見るだけでなく、収蔵標本の重要性についても皆さんに理解していただきたいと思っている。
 博物館を取り巻く状況も変化しており、以前からの収蔵スペースの問題、人材不足、予算不足に加えて、新たなものとしての持続可能性、デジタルトランスフォーメーション、多様な主体が関わる地域の連携、文化観光など求められる役割も変化してきている。しかし、例えばデジタルコンテンツが発展しても、その根幹にあるのは実物の標本であり、それがしっかりとないとデジタルにしたときの根拠が希薄になってしまうため、やはり地道な調査研究、資料整理は重要であると思っている。
 東海地方の主な自然史系博物館を並べてみると、岐阜県には岐阜県博物館が総合博物館としてあり、三重県には三重県総合博物館がある。静岡県には県立ふじのくに地球環境史ミュージアムがあるが、愛知県だけは県立の自然史系の博物館が存在しない。こうした中において、職員数、来場者数、収蔵資料点数を比較してみると、職員数は少ないが豊橋市自然史博物館は他の県立の博物館に匹敵するぐらいの規模感になっている。豊橋市自然史博物館はこの30年間に我々の先輩学芸員と同僚たちが頑張って、東海地方を代表するような自然史系博物館に育ってきたと自負している。博物館法が改正されて、動植物公園も博物館の登録がされた。広義の博物館には、動物園も植物園も水族館も全部含んでいて、豊橋市にはこれらの分類のほとんどの博物館があり、多様で良い博物館が存在する場所であることをこの機会に皆さんにも知っていただきたいと思う。豊橋市自然史博物館は文科省の科研費の指定研究機関になり、科研費という外部資金を使った調査研究ができるようになった。科研費を申請しても競争率が高いため、実際獲得できるがどうかは分からないが、まずはスタートラインに立つことができたのが大きな成果であり、その制度をしっかり運用できるような仕組みづくりをして申請準備を進めている。
 自然史系博物館の将来展望として、今後も資料の収集・保管、資料の展示、情報発信、多世代への学びの提供、こうした役割が求められている。これは、現在も継続して実施していることであり、これに加え、新たな内容として、社会や地域の課題、まちづくりや観光などへの対応、人材の育成、持続可能な活動といったことを進めていき、文化施設としての発信、交流など、いろいろな新しい価値を創出していくことが求められており、やっていかなければならないことと感じている。調査研究、収集保管に基づいた本質的な活動だけでなく、博物館に求められる多様な価値観があって、それぞれの価値観を持った主体の活動を伸ばしていく方が持続可能ではないかと最近思ったりもしている。
 こうした求められる役割の変化の中で、科学教育の推進を目指した将来像ということで、豊橋市自然史博物館と動植物園がある場所に豊橋市視聴覚教育センター・地下資源館の機能を持ってきて重複する部分は整理をし、新たに天文系のプラネタリウム(映像上映、シンポ、学会等イベントにも利用可能)、物理化学系として実験ショー、生物地学系として見せる収蔵庫、また学校団体を受入れられる体験実習室などを検討・整備し、皆さんがより活用できる施設を新たに創っていこうという想いでいる。これにより科学(物理化学、天文、地学、生物)を1カ所で体験的に学び楽しめる場所にしていきたいと考えており、他都市からも多くの人が来てくれて、こんな場所があるなら豊橋に住んでみるのも良いと思ってもらえるような施設になっていけば、より素晴らしいことだと思っている。