2025.07.04 第253回東三河午さん交流会
1.日 時
2025年7月4日(金)11:30~13:00
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム
3.講 師
NPO法人てほへ 理事 冨田 達郎氏
テーマ
『のき山学校リボーンプロジェクト!』
4.参加人数
30名
講演要旨
私の自己紹介をすると、愛知県大府市出身で家族が4人おり、現在単身で東栄町に住んでいて、週末に子供たちが東栄町に遊びに来たり、私も週末大府市の自宅に帰省するといった2拠点での生活をしている。東栄町には皆さんどのようなイメージをお持ちだろうか。豊橋から車で約1時間離れた場所にあり、公共交通機関では飯田線の豊橋駅から約1時間半で東栄町駅に到着する。人口は約2,700人を割り込んでおり、高齢化が進行し、人口が減り続ける状況のまちである。売りとしては、川・空・星などの豊かな自然がある。まちの面積の93%を森林が占めており、その中の8割以上が植林で林業が栄えたまちでもあった。「蔦の渕」や「煮え渕」といった川辺の特徴的な地質が見えるスポットもある。また東栄町には700年の伝統があり、国の重要無形文化財にも指定されている神事「花祭」がある。これは10地区で行われているが、私が来たばかりの時は11地区で行われていたものの1地区が担い手不足で休止になった。人口減少が進行する中で文化の継承が非常に難しいことを実感する出来事として身近なところで発生し、私は非常にショクを受けた。
私は現在、東栄町のNPO法人「てほへ」で仕事をしている。NPO法人「てほへ」の原流は、東栄町を拠点に和太鼓を中心とした和楽器の演奏集団の「志多ら」が原流となっている。「志多ら」は36年前に小牧市でチームを結成し、縁があって東栄町の廃校になった東部小学校を借りて稽古と生活の場とすることで、メンバーも移住をして東栄町民となっている。東栄町で生活をするがゆえに、「花祭」にも参加しており、近年は「花祭」の神事の中に、「志多ら」の楽曲である「志多ら舞」という楽曲を奉納させていただいている。「花祭」という本物の伝統文化を担うメンバーになった「志多ら」が、この祭りを受け継いだ人々の思いに直接触れることで、これを舞台の創作活動に活かして重要な力として育んでいる。「志多ら」が、伝統文化の維持継承と地域活性化、雇用拡大などを促進するために、「志多ら」のファンクラブを法人化することでNPO 法人「てほへ」を立ち上げて活動をしている。
NPO 法人「てほへ」は、施設管理・運営委託事業として、「のき山学校」、「志多ら」のファンクラブ「maetto」、「のき山学校」の中のカフェ「caféのっきい」を運営している。またコンテンツ企画制作事業として、「志多ら」の映像を撮ったりするセクションがあり、プロのカメラマンが1人いて「志多ら」の撮影をしたり、番組などへ提供するコンテンツの製作活動を行っている。他にも東栄町で後継者不足に悩むブルーベリー農園を引き継ぎ、「志多ら」のメンバーが太鼓を叩きながら、空き時間に剪定や収穫をしながら運営している。当然のことながら、イベント企画・運営といった業務も行っている。
私自身東栄町の地域おこし協力隊として、2022年度から今年の25年3月まで3年間活動していた。東栄町の地域おこし協力隊にどうしてなったかについて少しだけ触れる。私は専門学校を経て旅行会社に入社、20年以上サラリーマンとして勤務していた。4年前の2021年の夏、勤務していた旅行会社はコロナ禍で相当痛手を受け、希望退職になって職探しをしていた。その時に高校時代に一緒に生徒会活動をした有限会社志多ら代表取締役の大脇聡氏が東栄町から大府市までやってきて、「のき山学校」を活性化するために運営する人を探していて一緒にやってほしいと頼まれた。「やりたいとは思うけど、現実単身赴任になるし、収入も地域おこし協力隊だと会社で管理職をやっている時よりもだいぶ目減りしてしまうので、トライしたい気持ちはあるが辞退しよう。」と決めかけた時に、妻と「今後どうするの?」という話をして、「どうしようかなと思っているんだよね」と話した時、「そう、無理だよね」と妻からの返事を予想していたら、「本当はやりたいんじゃないの?」という返事があり、「どうせならやりたい仕事をすれば」と背中を押されて、「やる」と決めた。コロナ禍の時期でリモートワークが定着し始め、必ずしもそこで仕事をしなければならないという状況も変化し始めており、2拠点居住や住む場所と趣味の場所と働く場所が違うといった人が世の中にいることを知った時期でもあり、現実が見えていなかった部分はあったが、思い切ってスタートした。実際始めてみると大変なこともあったが、子供たちとたまに顔を合わせるといろいろな発見があり、たくさん話をしてくれるので、家で常に一緒にいる時よりも短い時間ではあるが濃密な時間を過ごすことができていて、これまで以上に良い関係性を保てているとも思っている。
2拠点居住して、真っ先に感じたのが、東栄町に住んでいる人たちは東栄町にしかない良いところに全然気が付いていないのではということである。例えば、先月ホタルが東栄町でたくさん飛んで、「ホタルの散歩道」というイベントが行われた。これは3年前に初めて行われ、地元の人と話をしていたら、「まちの人がホタルを見に何人来るんだ。ホタルなんていつでも見られる。そんなに人は来ないだろうと思っていたら何万人も来て驚いた。」と言われた。また、東栄町森林体験交流センター「スターフォレスト御園」は、宿泊型の天体観望施設であり、大型の望遠鏡の他、プラネタリウムや貸し出し用の望遠鏡も備えている。そこでは本当に非常にたくさんの星が観測できる。これも地元の人から「わざわざ東栄町にプラネタリウム見に行く人の気が知れない」という声を多く聞く。確かに施設の中にプラネタリウムはあるが、来ている人たちは本当の星を見に来ていて、都会と比べると見える星の数が全く違う。こうした価値を見失わないために「常にずっとよそ者の目線でいる」ということが地域おこしをする中では必要だと思う。ホタル・星・綺麗な川など東栄町には都市部にはない非現実的な素晴らしいところがたくさんある。しかし、実際には人口減少や高齢化の進行、医療問題など、中山間地域の問題のデパートみたいな場所だと思っている。実際に、人・物・金が全部不足してしまっているような状態であり、何か1つ解決したら全て解決するといった状況ではない。東栄町は移住してくる方も多く定住率も高いと聞くが、1年で10人移住させるのは途方もない労力と時間が必要であり、なかなか現実的ではないと思う。私のように2拠点で生活したり、東栄町と人に関わったりとか、耕作放棄地で一緒に田んぼや畑をやりたいといった人たちが増えてきたら、少しだけまちは活性化できるのではないかと感じている。関係人口を増やしていけば、移住するというハードルを越えなくても、とにかく関係性を持って、何かに関わってくれるだけでも本当にまちが活性化する可能性は十分にある。この関係人口を増やすために、私は「のき山学校」で、東栄町のことを知ってもらいたい、東栄町の魅力を知ってもらいたい、東栄町を好きになってもらうきっかけ作りをしたいと思い活動している。
「のき山学校」はNPO法人「てほへ」が2015年度から東栄町の指定で運営を管理している。建物は1955年に完成し、今年70周年という節目を迎えた木造2階建てである。今ほとんどの学校の校舎は木造からコンクリートの建物に建て替えられているが、木造校舎のまま耐震化するというのは、全国的に見てもかなり珍しい事例だと聞いている。この木造校舎が東栄町のシンボルのような感じになると良いと考えながら、交流拠点として活用を促していきたいと思っている。学校としては2010年に閉校となり、NPO法人「てほへ」が運営をしており、東栄町の図書室である「のき山文庫」と、テナントとして「caféのっきい」を営業している。この「のき山学校」は、3つのテーマを掲げて運営している。1つ目は、町外からの観光客、地元のお年寄りや⼦育て世代の若者、習い事や体験・趣味を楽しみたい⼈などさまざまな利⽤者に場を開き、交流を⽣み出す「多様な⼈々が集い、交わる“社交場”」である。教室をそのまま解放して会議に使っていただいたり、ピアノの先生がきて、みんなで楽器を持ち寄って演奏するといった活動も定期的に行われている。またワーケーションとして東栄町に滞在しながら仕事をするという利用ができるようWi-Fiも完備しており、環境の整備を進めている。2つ目は、⼤⼈も⼦どもも⾃由に遊び、学び、実践(チャレンジ)することができる環境を提供し、集まった⼈々と⼀緒に学び、⼀緒に新しいスタイル(価値観)を創造できるまちの学び舎「未来の地域をつくる“まちの学び舎”」である。例えば、ゴールデンウィークに近くの田んぼを1枚貸りて、田植えの直前にゴールデンウィークにドロンコ遊びという東栄町ならではの遊びを企画したり、「志多ら」のメンバーがサポートして子供たちが東栄町の綺麗な川を活かしたカヤック体験、豊かな森林資源を活かした木工体験、ピザ窯でピザを焼く体験、星空観測の体験なども行っている。「志多ら」は和太鼓のプロフェッショナル集団であるため和太鼓フィットネスを開発し、そちらも大変好評を得ている。3つ目としては、ここに集まる⼈々が、都市の喧騒や、多忙な⽇常を忘れ、真の豊かさを実感できる癒しの空間を創造する「⼈々の豊かな⼼を醸成する“癒しの場」である。「caféのっきい」では、採れたブルーベリーを凍らせたブルーベリースムージーや、日替わりのケーキを3種類から4種類程度用意しているので、ぜひお立ち寄り際はご賞味いただきたいと思う。また、「のき山文庫」は東栄町の公式の図書室であり、「のき山学校」に移動したことで多くの東栄町の皆さんに利用いただいている。こうした活動をする中で外の方と繋がる機会もあった。世界中で人気のチャンネル登録者数が去年100万人を超えたという園芸YouTuber「真打カーメン君」は東栄町出身であり、今色々な形で関わって、私たちの東栄町の情報発信、そして「のき山学校」の情報発信をしていただいている。私は今彼と一緒にバラを育てており、動画では「真打カーメン君」にいじられながら出演しているので機会があればご覧いただければと思う。
耐震工事に関しては、新城市の松井建拓株式会社に工事を依頼し、私たちの意見をよく聞いて、心のこもった工事をしていただいた。工事は、建物裏側は細い鉄の棒を筋交い状に入れて耐震の強度を高めており、校庭に向いた正面は、外観を今までの通りにするために内側に耐力壁を入れて強度を保っている。この工法を開発した名古屋工業大学の井戸田秀樹は耐震工事の普及にすごく尽力されている方で、耐震が強度を上げることは大事であるが、高いコストがかかるために普及しないのが1番の問題だということを根底に持ち、安くて簡単に耐震工事ができるようにと研究をされている先生である。今回椙山女学園大学の阿部順子准教授を介して、この工法を「のき山学校」の耐震工事に取り入れていただいた。耐震補強に使った筋交いの鉄の棒は、通常銀色の錆止めの色で塗られているが、それだけではつまらないということで、阿部准教授のアイデアで子供たちにデザイン考えてもらおうということになり、東栄小学校の5年生の授業で、耐震とは何かという話をしながら、「デザインしてくれませんか」とお願いをして4つの案が出てきた。東栄町の自然、山・川・星をイメージしたり、東栄町の「花祭」の鬼の赤をデザインしたりなど色々な発想で子供たちが考えてくれた。これら4つの案の中から、町民やカフェに来たお客さんに投票していただいて1つの案を選んだ。この取組を行った目的は、東栄町の中のこの小学校を耐震化し残したことについて、東栄町の学校を自分たちの施設だと誇りを持って愛していただくために、少しでもこの耐震工事に関わって、関心を持っていただきたいという想いからである。決まった色は東栄町の子供たちにペンキ屋さん気分になって塗ってもらった。この準備に関しても、松井建拓株式会社の全面的な協力をいただき、とても感謝している。
こうして完成した「のき山学校」の建物を使って東栄町の良いところ、東栄町の魅力、そうしたものを多くの人たちに知ってもらう機会を作るために、私たちは日々活動をしている。70年経った建物にお金をかけて耐震化することに対する色々な意見があるのも事実であるが、これからの新しい未来に向けて、過去の70年から本当に良いことは何かを考えた時に、私たちはこの指定管理をしながら施設を利用して、街の人が豊かになり楽しい思いをする、東栄町と奥三河全体の活性化が実現すると良いと思いながら活動している。