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産学官民交流事業

2025.08.01 第254回東三河午さん交流会

 

1.日 時

2025年8月1日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

Finger Lime Base 代表 鈴木 豪氏

  テーマ

『小さな果実が繋ぐ出会い ~フィンガーライムと私の挑戦~』

4.参加人数

34名

講演要旨
 私は数年前からフィンガーライムというフルーツを栽培している。本日はフィンガーライム栽培という自分の挑戦について話をさせていただきたいと思っている。
 皆さんは、フィンガーライムというフルーツを知っているだろうか。オーストラリア原産の柑橘で、果実の見た目がキャビアに似ていることから「森のキャビア」とも言われており、日本国内においては、まだ流通が少ない高級柑橘になる。ビタミンCやカリウムが豊富に含まれており、また抗酸化作用もあるため美容や健康志向の方にもピッタリのフルーツである。指のような形をしているために、フィンガーライムと言われている。果実を割ると球体の果肉が詰まっており、押しつぶすと果肉が溢れ出す。絞っても果汁が出ず、果汁は果肉の中に閉じ込められており、果肉を噛み潰したときに初めてプチプチという食感と共に爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。また品種数も多くそれぞれに味や、長細いものから丸いものといったように形が異なっていて、赤・黄・緑・ピンクなどカラーバリエーションも豊富で色鮮やかさも特徴となっている。特にフレンチや和食など繊細な味付けの料理と相性が良く、一般家庭での消費はまだあまりされていないが、高級レストランやホテルなどではよく使われている食材である。例えば、高級フレンチの前菜、日本懐石料理でイチジクのてまり寿司などに使用されており、フィンガーライムは料理に新たなアクセントを与えている。
 レモンなどの果汁を揚げ物にかけるとサクサク感が損なわれると思うが、フィンガーライムは果肉を噛み潰したときに果汁が出るため、食材のサクサク食感を残したまま酸味を加えることができる。スイーツに乗せてもかわいく色彩が映え、ちょっとした酸味がアクセントになる。またスパークリングカクテルなどに絞ると、果肉が気泡と共にグラスの中で浮遊し、すごくお洒落で洗練され写真映えもする。ラウンジやバーでは、このような用途で使われていることも多い。また、家庭料理にも簡単に取り入れることができる。ホタテのカルパッチョ、サーモンのお刺身、アボカドと飛子のサラダ、イカと大根おろしのポン酢和え、など家庭でのちょっとした贅沢や記念日の料理に花を添えることができると思う。
 ここでどうしてフィンガーライム栽培に挑戦しているかの話をする。我が家は菊農家も営んでいるが葬儀の縮小化などで菊の需要が低迷し、次第に従来の農業のあり方に疑問を覚えるようになった。そうして、何か新たに作物を模索している中でフィンガーライムに出会った。栽培を始めると「なぜフィンガーライムなの?大変でしょ?」と聞かれることがよくある。今となっては大変なことは色々あるが、実際始めたときは「やってみないと分からないし、考えても答えは出ない」、「やるかやらないかより、やってからが大事」、「今やらなければいつまでたっても何も始まらない」、「単純に楽しそうな方を選んだ」と思っていた。自分自身この果実は魅力的で色々な可能性を感じたということもある。また、渥美半島は農業が盛んな地域で腕の良い生産者が多く存在し、後発でトマトやイチゴなどの主要品目を栽培しても差別化ができないため、自分が先頭に立ち前に出ていけるもので挑戦したいと思っていた。
 フィンガーライムを実際に栽培するために調査すると、多くのことが分かってきた。流通しているモノの多くは、屋外であまり管理されていない状態で栽培されているため、「種が多く入ってしまう」、「風などに煽られて傷だらけ」、「品種管理がされておらずなんの品種か分からない」といった問題を抱えていた。私たちは菊の設備を生かしてしっかり管理された温室内で鉢による栽培を行い、一鉢一鉢タイミングを見極め丁寧に水やりすることで品質の高いフィンガーライムの栽培を目指した。こうして、種が少なく見た目も風味も豊かな果実の栽培を実現している。
また安心安全なものを届けるため農薬の使用にも注意をはらい、化学農薬を使わない栽培をしている。他にも虫よけLEDライトの活用や、粘着シートによる捕虫などの努力をしている。
 フィンガーライムはオーストラリアでは熱帯雨林で自生しているような果物である。海外から日本に入ってきたこの果実を日本人の感性で丁寧に育て日本産の高品質フィンガーライムとして世界へ戻していきたいと考えている。そして世界中の様々な食文化と融合して新たな食の体験を提供したいと思っており、プロの料理人の方たちにフィンガーライムを使った新しい革新的な料理を生み出してもらいたいと願っている。
 このような活動をしている中、先日大阪関西万博で行われた「にっぽんの宝物グランプリ世界大会」で準グランプリを受賞し、この大会を通してとても多くのことを学ぶことができた。世界大会は本年6月21日に大阪関西万博会場内のメッセというパビリオンで行われた。普段スッポトライトを浴びることもなかったので緊張したが楽しかった。
 「にっぽんの宝物グランプリ世界大会」は、地域に眠るまだ見ぬ“宝物”を発掘し、日本全国、そして世界へと広げていくことを目的とした世界規模のプロジェクトである。地域で生まれた商品・サービス・体験などが、「商品評価(商品の質の高さ、売れる可能性)」、「人物評価(事業者の成長の可能性、応援したくなるか)」、「影響力評価(世の中に肯定的な影響があるか)」の観点から評価され、各地域大会を勝ち抜いたエントリーだけが世界大会へと進出でき、審査員としてシンガポールNO.1のレストランのオーナーや料理長をはじめ世界をまたにかける方たちに審査評価いただいた。グランプリには一歩及ばなかったが準グランプリを受賞できたときは大変嬉しかった。日本料理の重鎮であり、日本料理の名店「分とく山」で総料理長を務め、数々の料理レシピ本も執筆されている野崎博光シェフにフィンガーライムに相性のよいポン酢のレシピを考案してご教授いただき、グランプリ選考会では蒸し鶏とフィンガーライムと一緒にこのポン酢を添えて提供した。また、フィンガーライムを原材料に使ったシロップとパンナコッタも提供した。このシロップは添加物不使用であり、炭酸水で希釈してクラフトコーラとして提供し、ドリンクに果肉を絞って楽しんでもらう体験も加えた。森のキャビア缶パンナコッタは、キャビア缶から着想を得てスイーツにした。フィンガーライムをキャビアに見立て下にはヨーグルトとミルクティーのパンナコッタが敷いてあり、こちらも甘さと酸味が調和してすごく美味いと評価された。 
 このグランプリに参加したことで沢山の著名な方とも知り合うことができた。にっぽんの宝物JAPAN事務局総合プロデューサーの羽根拓也氏、YouTubeで配信されている「Tiger Funding」の審査員である「令和の虎」名物社長の方々、今大会の優勝者「はまののりだれ」の久保田靖朗氏など、このグランプリに参加したことで、普通では経験できないような貴重な出会いと体験をした。こうした経験から伝えたいことは、「挑戦は偶然の積み重ね。その偶然は、自分で呼び込むことができる。」である。当たり前のことであるが、今まで生きてきて人それぞれ周りの人間や環境は違い強みや弱みも異なる。もし同じことを同じタイミングで始めたとしても経過も結果も変わってくる。実際、フィンガーライムの栽培を始めたとき私なりのサクセスストーリーを思い描いたが、思ったとおりに進んだことは一つもない。偶然出会った人から自分が想像もしていなかったような話が舞い込んだり、誰かを紹介してもらえたり、重要なのは小さな偶然や大きな偶然を継続的に頻発させることだと思う。それは難しいが活動を広げるには大事なことである。くじけそうになるときももちろんあるし、継続することは大変な気力と労力が必要だと思うが、何も行動を起こさない人にはやってこなくて、行動し続ける人にしか訪れないチャンスや出会いが必ずあると感じている。一つ一つの出会いを大切にして自分が思っている何倍も相手を大切にすることが重要である。表向きには相手のことを思って仕事しなさいとは言うもののなかなかできている人は少ないのではないかと思う。自分に不利益なことであっても相手に喜ばれることだけを考えて行動すると、それが必ず違った形で自分に返ってきて、喜びややりがいになり、自分が損をすることで得をする。当たり前の事かもしれないが人との出会いを大切にすることが一番大事だと感じた。
 こうした想いを忘れず活動していて、NHKの夕方の情報番組での長尺の特集記事が実現した。他にも「愛知県知事や田原市長の表敬訪問」や「渥美半島たはらブランド認定」「各新聞社の取材や記事掲載」などが実現した。偶然の出会いからスタートし、田原市にある鉄の溶接加工の会社の方が私の持っていたアイデアである「フィンガーライム搾り機」を形にしてくれた。これを使うとフィンガーライムの果実を簡単に押し出すことができて、しかも手が汚れない。この会社は今も私たちと共に活動し、支え応援し続けてくれている。私たちだけで始めたことから気が付けば沢山の方にサポートいただいており、多くの方に支えられて活動をすることができており、本当にありがたく思う。私たちが住む田原町はとても農業が盛んなまちであると同時に耕作放棄地や後継者不足の問題を抱えているのも事実である。フィンガーライムが東三河の新たな特産品になったら良いと思っている