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産学官民交流事業

2025.10.03 第256回東三河午さん交流会

 

1.日 時

2025年10月3日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

南栄町協議会 理事・副代表    白井 紀充氏
  同    法人サポーター 岡田 陽氏

  テーマ

『南栄エストニア計画 ~地域の未来をデータで描く~』

4.参加者

28名

講演要旨
白井 紀充氏
 私はレコード店シライミュージックの長男として産まれ、小学生の頃からプログラミングとドラムをはじめた。2000年Amazonの日本進出からCD販売を止めて楽器専門店に業態を変え、ドラム販売の専門家としてECの世界へ飛び込んだ。2010年代のSNSを活用した成功事例として日経デジタルマーケティングにも紹介され、インターネットを使う人に刺さるアプローチが注目を受けて、ドラムセットなどオリジナル商品の開発においては、有名アーティストからも指名されるように、商品企画力が評価されている。
 さて、戦後の発展によりかつては「豊橋市の副都心」と言われた南栄地区。しかし、1970年代を境にその発展は徐々に陰りを見せ始めた。郊外に大型の商業施設ができ顧客を奪われた個人商店は、車社会の進展で駐車場の確保に苦戦し、ますます顧客を減らしていった。さらに2012年の愛知大学名古屋キャンパス開設に伴う豊橋校の学生数の減少、2015年のユニチカ工場撤退による就労者人口の減少も重なり、1996年には45店舗を数えた地域の事業者は現在3分の1程度にまで数を減らしている。一方で、2018年に豊橋市によって制定された「立地適正化計画」により南栄地域は「都市機能誘導区域」として医療・商業・金融・行政・文化・スポーツ・福祉・教育などの施設を集積し「歩いて暮らせるまち」として居住を誘導する施策がとられている。このように行政による都市機能誘導が図られているものの、南栄地区では南栄発展会が四半世紀も前に解散してしまい、地域の事業者による意思疎通や意見の集約が図られないまま放置されている状態が続いていた。こうした中、私の店の近くにあり、いつも食事に通っていた「吉野家」が2023年9月曙町に移転してしまった。このような状況に危機感を感じた理事で代表の山﨑正平氏、理事で副代表の私白井、理事で常務理事の山﨑嘉大氏、理事の桜田純一氏によって、2024年1月「南栄町協議会」が設立された。
 ここで本題の南栄エストニア計画について話をする。なぜエストニアかと言うと、IT先進国として有名であり、行政手続きが100%オンラインで可能となっている。また南栄と合わせた時の響きが良いことも重視した。最初に仮に作った目標として、「コンドーパン」が明日作るパンの数を予測できたら面白いという形であった。実はメンバーはローカルSNSの「Discord」というアプリケーションを使っており、ITリテラシーが高めなオタクな人たちが多く、さらに活動記録を全て「Googleドライブ」でスプレッドシートにして生成AIに投げて報告書を作ってもらうといったことをしている。またSNS関係では、役員合計のフォロワー数が7万数千人になり、これを使ってPRできることも強みである。
 先程愛知大学名古屋キャンパス開設に伴う豊橋校の学生数の減少の話をしたが、そのエビデンスを得るためコンピューターを使ってカウントすれば良いと考え、私は自作のアプリで店の中と店の外の道路の人流をカウントしている。このあたりは本当に自分で作れるために、見たいデータをどういう数字として出すかという部分を自分たちでカスタマイズできるというのがかなり良い。いわゆる数理モデルなどを使い、その数字を演算からかなり高い精度で予測するといった大それたものではなく、南栄の店舗で働いている人の実感している数字と、実際にカウントした数の差異が分かれば良いぐらいの形で考えている。カメラの画像からコンピューターがどちらの方向に何人向かったかをずっとカウントしている。私の店舗は南栄駅の前にあるため、駅に出入りする人の数もなかなかの精度でカウントしてくれる。他に店舗の前を行き交う自転車の数をカウントさせると、土日も意外と自転車が多いという私の実感と異なる数字が出てきた。平日学生の通学の自転車が多いというのは分かるが、土日も一般の人が割と自転車を使っていた。また店で高校生や大学生と話をしていると、自転車は駐輪場に入れなければならないというようなリテラシーが高い。しかし、そこに店舗の人は気がついていない。駐輪場所など自転車に関係することが厳しくなった時期に、周りにあるコンテンツに高校生や愛知大学の学生が自転車で来ることが難しくなり、南栄の駅周辺の「ミスタードーナッツ」や「モスバーガー」などが撤退していった。そこで自転車の案内板を有料会員も含んだ南栄サポーターと一緒に「サイエンスコア」にある「メーカーズラボ」でアクリル板を切って作成している。実際の効果として、当店でも駐輪場を明確にしたことで駐輪マナーが良くなり、駐輪しやすくなって新しいお客さんも来てくれるようになった。
 さらに、南栄町協議会の新しいメンバーとして宿泊所を作るという人が出てきた。南栄駅近くにかつて写真館「ホタルヤ」として親しまれた建物があり、これを買い取って「ホタルヤプロジェクト」として民泊よりも広い可能性を持つ旅館業法に基づく宿泊所の開設を目指している。南栄町協議会は今80人ぐらい登録があるが、その人たちが手伝ってDIYで改装を進めており、10月中には許可が下りて11月ぐらいにオープンできると思う。また、「コワーキングスペースZHK」もオープンして、コミュニティスペースが南栄に増えてきているという状況になっている。
岡田 陽氏
 ここからは南栄エストニア計画の方を深掘りした話をする。南栄エストニア計画としては、地域にデジタルツール、デジタルを使ったコンテンツを浸透させていくところに重きを置いている。加えて浸透させていくのにあたっては、人の部分もケアしないといけない部分がある。デジタルに対しての捉え方を交通整理して、シンプルにデジタルの理解度を深めていく。一般的に人によってはデジタルに対しての抵抗感があり、いかにハードルを下げるかが重要になるため、岡田会という勉強会を実施している。
 私は大阪で生まれ育ち、新卒でものづくりに興味を持ち、面白そうな会社と思って武蔵精密工業株式会社に入社、豊橋市に住んだ。同社では機械設計など、フィジカルな部分のメカの部分を主に担当していた。同社は新規事業に積極的あり、新しい価値の提供を考えた場合、デジタルの方が多様な提供価値の形をフレキシブルに作れると気づき、リスキリングしてものづくりエンジニアからITエンジニアになった。ここも実は重要なポイントになっており、もともとものづくりを10年やっていたエンジニアが、ITエンジニアに転身した経験を踏まえてデジタルは簡単だと言うと少し信憑性、安心感が上がる。現在、会社としては立体空間のメタバースを活用したシステム開発や、AIエージェントの部分の構築というところを駆使しながら、顧客の課題をヒアリングして、AIを含めてツールをカスタマイズした形で課題解決の価値提供を行っている。
 エストニア計画の岡田会は、毎月第3金曜日19時から定例で行っている。これまで継続して実施しており、中身としては基礎知識、ツールの紹介、データ分析のやり方やコツといったテクニカルな部分も伝えている。南栄エストニア計画として、南栄にどのようなアプリケーションを浸透させれば良いかを形にした方が理解しやすいため、そこも並行した形で一緒に作っており、アイデアや構想が広がっている。例えば、信号の時間から最速でいけるルートを出してあげるといったものがある。このデジタルの捉え方を交通整理する部分が一つのポイントになっており、デジタルにあれもこれもできるということを求めがちであるが、それだけではなく、ウズラカッターがウズラの卵しか切れないがとても便利で良いといったように、デジタルに関しても10人のうち2~3人が高評価をすれば良いといったものもある。いろいろなパターンのデジタルのアプリケーションを南栄エストニア計画の岡田会を通じてどんどん作り、皆さんに共有するといったことをやっている。基本的にお酒を飲みながら雑談することがメインで、たまたま話題がデジタルだったといった緩さも持った上でデジタルを身近に捉えてもらうことを浸透させていこうという想いもある。このデジタルインフラを整備していくことは電子的耕作である。農業は、土を耕して種をまいて水をやって芽を出していく。デジタルを地域に浸透させていくことも同じであり、人に理解してもらい、レクチャーをして人を育て、アイデアやこんなツールがあったらいいなという種に水をやって作っていくことは耕作行動と同じ形になり、電子的耕作である。
 地域でどうAIエージェントを活用していくかというところで今2つの構想を立てている。1つ目は、白井さんの方で人流データを取ってもらい、人流データで「コンドーパン」のパンの販売数を予測し、Excelでリスト化までしてもらう。このノウハウが蓄積されていけばパン屋さんに限らず、飲食店での在庫の最適化や、電気代の最適化などの予測ができ、それをマネジメントしていくことに重きに置いている。2つ目は、孤独死の問題をAIエージェントで何とかならないか考えている。まだ構想段階であるが、見守りサービスとして活用を考えた場合、AIエージェントの良さは自分からやってくれて自律的に動いてくれる。そのため、AIエージェント側から高齢者に話しかけ、アクティブに見守りを行って高齢者とAIがどんどん会話をして、その会話の内容を蓄積していき、お年寄りの知恵袋を出してもらう。それをAIが学習して子ども教育にもつなげていく。学校では教えてくれないことを、高齢者の方のノウハウを蓄積し、地域の中に落として子どもたちに還元していく。こうした可能性がAIエージェントならではの部分でもあり、地域社会に貢献していくポイントではないかと思っている。
 最後にこの活動を進めていく行動様式の特徴がある。実はエスニア計画と言いながら、実際にきっちりした計画は立てずエフェクチュエーションというやり方でやっている。このやり方は、手持ちの資源を使った状況に応じた柔軟な計画であり、行動しながら未来を創っていくものである。新規事業もそうであるが、新しいことをやっていくにあたっては、こうした方法がマッチする部分が多く、状況に合わせたフレキシブルさがエフェクチュエーションの行動様式になる。こうして南栄エストニア計画では、メンバーがフレキシブルに、好奇心持って前進させていくやり方で進めている。