2025.11.07 第257回東三河午さん交流会
1.日 時
2025年11月7日(金)11:30~13:00
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム
3.講 師
(株)ビジネスリンク 代表取締役 西川 幸孝 氏
テーマ
『書籍出版の実情 ~著者として伝えたいこと~』
4.参加者
30名
講演要旨
2025年6月20日私の著書『だから報連相は、うまくいかない。個が育ち「決める力」を持つ集団のつくり方』を日本経済新聞出版〔日経BP〕から出版した。本日は私の仕事と出版についての話をする。
私はコンサルティングの仕事をしており、主に人事労務系の内容に関わることが多い。人事労務系を考えた場合は、仕事を行うのは人間集団であることが原点であり、そこにはモチベーションや人間関係などが関係してくる。世の中には多くのマネジメント理論が存在し、例えばモチベーションで言えば「マズローの欲求5段階説」や「動機付け衛生理論」など有名なものがあり、今でもこうしたものをベースに議論がなされている。これらの理論は間違っているわけでなく概ね正しいが、これはある一面に過ぎないと感じていた。というのは、原理的に見た場合、それとは違う原則が成り立つのではないかと長く考えてきたからである。この考え方に至ったきっかけが2つあり、ひとつは進化心理学を知ったこと、もうひとつは株式会社物語コーポレーションの社外取締役に2017年に就任し本年9月に退任したが、同社の中に入って感じたことである。
私の基本思想となった進化心理学とは、「ヒトは進化の結果、現在の肉体および心理作用(本能含む)を持つ」、「進化は1万年単位の時間を有することから、ヒトの肉体および心理作用は現在も狩猟採集時代の環境に最適化している(サバンナ原則)」、「ヒトは集団を形成して狩猟採集を行って生き抜いてきたため、集団形成本能を持つ」といった内容である。これをビジネスシーンに当てはめた時に私が考えるのは、「企業は人間集団であり、そこではヒトの集団形成本能が普通にはたらく」、1万年前の狩猟採集時代において農業生産が始まる前の心理作用と同じ心理作用がはたらくのではないかという仮説である。これは強い仮説ではないかと思っており、進化心理学が正しいとすれば人間はこうした集団を形成する心理特性を持っているため、企業が人間集団を組めば同じことが起きるはずである。ここに着目すると分かることが多くある。企業経営においては、人間が生まれながら持っている心理作用を踏まえて経営をする必要があるというのが私の考えである。株式会社物語コーポレーションについては、2019年に私が執筆して発刊された「物語コーポレーションものがたり~若者が辞めない外食企業~」がある。これは、創業者である小林佳雄氏の精神史と経営思想を取り上げた本であり、企業を単独で取り上げて単行本となった数少ない事例である。この本を執筆する過程において、考え方がまとまり私の基本思想が確立されていった。
他にクックマート株式会社も人事労務系の顧問として関わっている。同社社長の白井健太郎氏が執筆され、ダイヤモンド社から発刊された「クックマートの競争戦略 ローカルチェーンストア・第三の道」はかなり売れた本であり、アマゾンのレビューも多く、経営学者である楠木建氏が推薦文を書いている。この株式会社物語コーポレーションとクックマート株式会社に共通しているものは、個としての社員を、ポテンシャルも含めて引き出していく、本来力を持った個が集団を形成することで更に促進されることがあることを両社は進化心理学からではなく、直観と経験を持って経営者が気が付いて経営に取り入れていったことである。いずれも人間をトータルに捉える、機能や能力だけでなく、生身の人間としてその人に合った仕事をしてもらうといった考え方が共通している。
集団形成で一番重要なのはコミュニケーションである。人間はチンパンジーとの共通祖先から分かれていて、チンパンジーは起きている時間の20%程度を毛づくろいしている。これはノミやシラミを取っているだけではなく、触れ合いという肉体的なコミュニケーションになっており、これに変わる機能として人間は言葉が発達したという説が有力である。クックマート株式会社では社内SNSを戦略的に活用し、業務用に加えてコミュニケーション用のチャネルも用意されている。株式会社物語コーポレーションでは意思決定を重要視しており、そのために必要なこととして“明言する”“議論する”ことを重視していて、根回しはむしろ禁止されている。創業者の小林佳雄氏の考え方は、意思決定は訓練であり、繰り返さないと意思決定能力はつかないというものである。そのためには、情動反応として過去の体験の積み重ねが重要になる。同社は「Smile & Sexy」という“自己実現を目指す”経営理念のもと、素敵に自由に、正々堂々、人間味豊かな“物語人”が集う「個」が溢れる企業として、本能を含む生命体としての活力を解き放つための施策を行った結果として業績が上がっており、企業のアウトプットにダイレクトにつながっている。また先日株式会社ヤオコーなどの持ち株会社である株式会社ブルーゾーンホールディングスに加わったクックマート株式会社は、通常のスーパーマーケットと比較して坪当たりの売上高が2倍であり、白井健太郎氏は経営者としてさまざまな工夫を行っている。この話は最初に紹介した2025年6月に日本経済新聞出版〔日経BP〕から出版した「だから報連相は、うまくいかない。個が育ち『決める力』を持つ集団のつくり方」の中で詳しく紹介しているのでぜひ読んでいただきたいと思う。
昨今出版不況と言われて久しいが、紙+電子を含む出版物の市場規模(販売金額ベース)は、1996年をピークに縮小傾向が続いており、2023年はピークの半分以下になっている。そのため初版部数も減少しており、かつては1万部スタートであったものが現在は3,000部程度となっており、マイナーな出版社では500部というケースもある。こうした状況であるが、本は依然強いコンテンツであると思う。というのは、本を出してみると読者からの反応としてダイレクトな問い合わせなどもあり、重要な媒体であると思うからである。出版形態は、商業出版、自費出版(実はこれが多い)などいろいろな形態がある。また、出版プロデューサーも存在し、これを使うことで合理的にプロの意見が入り、うまくいっているケースも多い。他に特殊な例として幻冬舎は、企画から全て丸抱えでやってくれるが、一般的に800万円から1,000万円程度費用がかかる。
次に出版に至るプロセスの話をする。企画の立て方は戦略的に考える方も多いと思うが、私の場合はまずアイデアを思いつき、それを温めて自分の中でどのように変化するかを見て、ラフな企画案を作成する。知り合いの編集者にその段階で相談して、企画を練り上げていく。そして編集者が出版社の本の出版を決定する企画会議に、自身が作成した企画書を上程し、そこで承認されれば出版が決定する。執筆の方法として、私の場合はパソコンで最初から最後まで順番通りに執筆するわけではなく、部分・部分を作成していき、最後に全体を組み合わせるといったやり方をしている。しかし、これはそれぞれの執筆者でやり方が異なっており、ライターを使う人も多い。但しライターに依頼する場合は、一流の人にお願いしないと内容が貧弱となる可能性が高いのが注意点である。今回執筆した「だから報連相は、うまくいかない。個が育ち『決める力』を持つ集団のつくり方」から私はAIを部分的に活用している。例えば、ここの表現が何かしっくりこないと筆が止まってしまった場合に、AIにこなれた形に直してもらい、それを参考に文章を修正するといった目詰まりの打開や事実確認のひとつとして役に立っている。AIを全て鵜呑みにせず、検証は必要となるが、現在はAIを使わないで執筆を進めることは考えられないと思っている。
原稿の校正と校閲は出版社が担当する。校正は字の間違いを見つけて修正するものであり、校閲では事実確認も含めて的確に文章が修正される。2011年に私が初めて執筆し出版した「小さくても『人』が集まる会社」の時は、全体スケジュールが押していて校閲者が赤ペンを入れる時間が1日しかなかった。しかし返却された原稿は、的確に私の文章の癖が赤のボールペンできれいに直されており、その仕上がりに感動した。編集者に頼んでその最終校閲した原稿を譲ってもらい、詳細に見直すことで自分の癖が良く分かった。修正された部分をリスト化し、現在も執筆する時に良くない癖が出ないよう気を付けている。
編集者との関係は大事である。日常的な付き合いがあると気軽に相談することができるため、時々一緒に食事をしながら雑談するといったことをしている。こうしたことからその1人の編集者だけでなく、その会社や別の会社の編集者にも関係が拡がり、若い編集者からは逆に相談されたりして関係性が深まっていくため、これからもしっかり付き合っていきたい。
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