2026.03.06 第260回東三河午さん交流会
1.日 時
2026年3月6日(金)11:30~13:00
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム
3.講 師
農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー 小川 晴那氏
テーマ
『クマを正しく知って、正しく畏(おそ)れる』
4.参加者
34名
講演要旨
私は東栄町の地域おこし協力隊として普段は鳥獣被害対策の普及啓発に取り組んでいる。本日伝えたいことは、恐れるではなく畏れるとタイトルに入れたように、クマをただ怖いと恐れるのではなく、正しく知って距離を取っていくことの重要性である。私は東栄町で古民家を借りて生活しているが、庭先で育てた野菜は猿に食べられ、庭にあった盆栽は鹿にかじられた。人間が思っている以上に動物たちは頭が良く、食べることに関しては人間が思いつかないようなところからアタックしてくる。こうした動物の個体数について、昭和初期から後半にかけて激減した時代があった。そこから国は動物保護の政策に移り、1995年までは雌鹿の捕獲も禁止されていたが、数が増えて捕獲の方向に変わってきた。
鳥獣被害対策に対してマイナスなイメージを持つ人も多いと思うが、それを使って逆に地域を元気にできないか、横のつながりのコミュニティを作れないかと思っている。私は地域おこし協力隊として活動しているが、地域おこし協力隊は都市部から地方に移住した方が問題解決に取り組むような制度になっており、東栄町は任期が3年である。私は1年目なのであと2年間、鳥獣被害対策の普及啓発を中心に取り組んでいきたい。大学では農学部で学び、ツキノワグマの研究に没頭し、クマの糞を数えきれないほど採集した。授業で鳥獣被害について学び、将来は愛知県で鳥獣被害対策の仕事に就くことを志していた。その後新潟県の鳥獣被害対策の会社で経験を積み、念願の愛知県を拠点とした鳥獣被害対策というスタート地点に立った。大学で修士号を取得し、農林水産省の農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー、鳥獣管理士准1級、狩猟免許(第1種、わな、網)といった資格を保持しており、狩猟も行っている。
普段の地域おこし協力隊の活動としては、町民の皆さんの基礎知識底上げのためけもの通信という広報誌を作成し回覧板と一緒に回覧している。また、鳥獣害対策の相談役として町民の皆さんに対し畑などの現地へ駆けつけアドバイスもしている。他に、町の仕組みづくりとしてクマ出没対応マニュアルの改訂や交付金の鳥獣捕獲以外の新たな使い道の検討などを行っている。鳥獣害被害対策は、町の皆さんの課題でもあり、地域ぐるみで取り組んでいく流れを作り、町内で動物がどこに出没しているか、今どこにいるのかといったことをデータ化していきたいと考えている。また、東栄町は人口が2,700人を切ったところであり、その人口以上の野生動物と暮らしていくのは大変だと思うため、豊橋や浜松の自然に興味がある方と一緒に鳥獣被害対策に取り組み、関係人口を増やしていきたいと思っている。
日本には2種類のクマがいる。本州を中心に生息をしているのがツキノワグマで、胸の白い三日月模様が特徴であり、平均的な体長は約1.2m、体重は約60㎏である。もう1種類は日本では北海道にのみ生息するヒグマという種類であり、平均的な体長は約2m、体重は約200㎏である。ヒグマの方が圧倒的に体が大きく、出会って被害を受けたときに致命傷となりやすい。クマの1年の過ごし方として、冬は12月頃に冬眠し、栄養状態が良ければ雌は2月頃に1~2頭の子どもを出産する。春は体力回復のため、山菜類を食べ歩く。夏になると子どもは1歳半で親離れをする。また、繁殖とエサが分散しているため行動範囲が広がる。秋は冬眠のために餌をたくさん食べる時期である。堅果類が少ないと人里に来てしまう年もあり問題になる。クマの餌は季節によって異なっている。冬眠明けは草類や新芽を食べていることが多く、冬に死んでしまった動物を食べたりもしている。夏はクワやヤマザクラの実のような液果類を食べていることが多い。秋はミズナラ、コナラ、ブナなどの堅果類やサルナシやカキなどの液果類も食べる。また、アリやハチなどは夏・秋通じて食べている。
クマの出没が多くなる季節について、毎年コンスタントに多くなる季節は夏である。これは餌が分散していることに加えて、親離れする個体がいること、繁殖のため雄が雌を求めて広範囲に活動することがその理由である。但し、年によっては昨年のように秋に出没が増えることもある。これは、秋が冬眠に向けて脂肪を蓄える時期であり、クマは1年に摂取するエネルギーの80%をこの時期に食べ物から得るため、ブナやどんぐりをはじめとする堅果類が凶作となると、食べ物を探して集落の近くに出没するケースが増加する。集落の近くで、柿などを食べると、餌場として認識してしまい、事故につながる可能性が高くなる。
またクマは嗅覚や聴覚は優れているが、視力はあまり良くないため、しゃがんでいる人など動かないものには気づきにくいといわれている。こうして山菜取りをしている人とクマがバッタリと出会ってしまい、人が急に動くとクマの方もびっくりして事故が起きてしまうことが増えているそうである。臭いは天候や場所によっては流れてしまう場合もあるので、クマ鈴など、音の方が確実であると思う。
クマは朝方と夕方に活動が活発になる動物である。私は大学の研究室でクマを捕まえてGPSと活動量センサーが付いた首輪をつけて逃がして、そのクマがどういう場所でどういった活動をするかの研究をしていたが、その時は、メスの個体は昼間よりも夜の活動が多く、オスの個体は夜よりも昼の活動が多かったが、これは性差というわけではなく個体差であると考えている。このように夜型になる個体もいれば、昼型になるような個体もいるが、朝型と夕方に活動量が多くなるのは変わらない。集落に近い方が人間活動との関係から夜型になりやすく、集落から遠いと昼の活動が多くなるといわれている。
昨年末、今年の漢字として選ばれたのが「熊」となり、皆さんの関心が高かったことを改めて感じた。毎日のようにクマのニュースを見て、怖いなと思われる方も多かったのではないかと思う。環境省が各県の出没件数や事故件数を統計データとしてとりまとめ、ホームページに掲載している。令和3年度以降では、最も多かった令和5年度の目撃件数23,879件に対し、令和7年度は49,226件と倍に増えている。場所でいえば秋田県は、令和5年度の3,663件から令和7年度13,483件と3倍以上となり、全国の約27%となっており、東北地方の目撃情報増加が顕著であった。一方、西日本はR7年よりもR6年の出没が多く、地域によって状況は大きく異なっている。
人身事故件数については、令和5年度の198件から令和7年度は214件と約1.1倍となっており、目撃情報よりは増加率は小さい数値となっている。愛知県内については、令和5年度の目撃情報が19件であったのに対し、令和7年度は21件と微増であるが例年並みといえると思う。クマの個体数は、増えている地域が多いといわれているが、四国では減少している。クマに対する考え方は、駆除と保護の両方に偏りがちであるが、紀伊半島や四国と同様に愛知県内のクマも保護対象として、愛知県がレッドリストに入れており、駆除は控えて増やす方に進めるといった政策になっている。このように同じクマなのに、県によって保護や駆除と政策に左右されてしまう動物である。鹿やイノシシは一律で駆除対象になっているが、クマは地区ごとに考え方変わり、その影響を受ける動物であることを覚えておいていただきたい。
クマが人を襲う理由として一番多いのが、クマ側が驚いて思わず攻撃をしてしまった事例が多いといわれている。もうひとつの理由として、親グマが子グマを守るためというのもある。あまり知られていないが、雄グマは自分の子どもではない子グマを殺してしまうという子殺しをする動物である。そのため、母グマはオスからどうしても子どもを守らなければいけないといった本能が強く、人が近くにいたときも、得体の知れない動物から子どもを守るために襲撃したり、追いかけてしまうことがあるようである。また一番厄介なのが、人が食べ物をくれる、または人自身を食べ物だと思ってしまっている個体だと、食べ物をめがけて一直線に人間の方に来てしまう可能性がある。しかし、本当にわからないことも多く、昨年は事故が多かったこともあり、その事故の要因を、研究者の人たちが研究してくれている。私の主観であるが、愛知県のクマは、人との距離感をしっかりと保てるクマで、人がいれば、人を認識した時点で逃げてくれるクマだと思っている。早めにクマに気がついてもらえるよう対策を怠らないことと、人と食べ物を結びつけないように、食べ物や食べ物の匂いがついたものを山に置いてこないことが大事であると思う。
それでもクマに出会ってしまった場合、どうしたら良いかというと、まずは落ち着くことが大事であると思う。クマ側が私たちの存在に気づいていようが、気づいてなかろうが、こちらが急に動いたりしてクマを驚かす行動は良くないので、まずは落ち着いて、クマ側が逃げてくれる距離を取ることが重要だと思う。犬などと同様に、クマも本能的に逃げるものを追う習性があるようなので、急に背中を見せて走って逃げることは避けるべきである。それでも近づいてくる場合は、防御姿勢が推奨されており、これは体の弱いところである腹部、頭首を守るような姿勢である。クマに襲われた人、攻撃された人の90%は顔を損傷しており、クマが攻撃するときには、立ち上がって手で殴るのであるが、その手が人の顔のあたりの高さになるため顔を損傷することが多いようである。なるべく顔を守るような姿勢を取っていただきたいと思う。
最後に動物との距離を保つにはどうしたら良いのかについて話をする。クマに限らず、動物は生存しやすい環境を選んで生きている。危ない、怖いといった自分の血筋が途絶えてしまうようなものは選ばず、安全に餌が食べられるような環境を好んで選択する。動物にとって危ない、怖いというのは、自分が襲われるような人間活動であり、隠れる場所のない環境や痛い怖い思いをした場所を避けるといった特性がある。逆に放置果樹や防護柵のない田畑で、もし人間が来たとしてもすぐに隠れられるような籔や木があればそこに居座ってしまう。こうした動物にとって安全かつ餌が食べられるような環境を減らし、彼らが怖い危ないと思うような環境を作ることで動物との距離は保たれると思っている。こうした対策をこれまでは個人で行うケースが多かったが、高齢化で対応が難しくなり農業をやめてしまう人も多い。行政においても鳥獣被害対策の担当者は限られており、他の業務と兼務のケースも多い上に、定期異動が多く知識の蓄積ができないという現状がある。困っている問題は共通であり、地域で動ける人が動けて、動けない人がサポートをしていくというような地域ぐるみの対策ができないかということを考えている。加えて関係人口の創出により、他の地域の方にも手伝っていただき、鳥獣被害対策で地域を盛り上げていけないかと考えている。
-scaled.jpg)
-scaled.jpg)
-scaled.jpg)
-scaled.jpg)