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産学官民交流事業

2026.08.07 第264回東三河午さん交流会

 

1.日 時

2026年8月7日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5階 ザ・グレイス

3.講 師

株式会社UHOLABO 代表取締役 中村 孝典氏

  テーマ

『アイデアが地域の未来を変える 東三河から世界へ』

4.参加者

30名

講演要旨
 私は工科高校の教員として勤務し、生徒たちにものづくりの楽しさを教えていた。工科高校では、学校で学んだ技術を生かして製造業へ進む生徒が多く、私自身も工業高校出身であったことから、根底には「ものづくりに携わりたい」という想いを持っていた。教員となった経緯はあったものの、コロナ禍全盛期の2020年に学校が休校となり、「生徒が来ないなら教員はいらないだろう」と考え、退職を決意した。
 その後、株式会社UHOLABO(ウホラボ)を設立した。起業のきっかけは、地域で開催されたビジネスプランコンテストに「ベスト定規」という作品で応募し、特別賞を受賞したことである。これを機に会社を立ち上げ、本格的な事業展開へ踏み出した。起業の原点にあるのは、「あったらいいな!」という想いを形にすることである。日常生活や教育現場で感じる不便を改善する商品を作れば、購買意欲が高まり売れる商品になるのではないかと考え、教育現場向けの改善アイデアとして生み出したのが「ベスト定規」である。アイデアを生み出し商品化するプロセスは、「不便→発想→試作→改良」という流れとなっている。後から、「自分も同じことを考えていた」と言う人は多いが、大切なのはそれを実際に書いてみたり、試作品を作ってみるといった行動に移すことである。そして、周囲の意見を聞きながら「こうするともっと良くなる」という要素を盛り込み、試作と改良を繰り返すことで、最終的に良いものが完成していく。
 しかし、コンテストで賞を受賞し、製品が実際に店頭へ並ぶまでには、想像以上に厳しい道程であった。最初に大きなハードルとなったのが、特許や意匠、商標といった権利化の手続きである。「ベスト定規」という名称の商標や、商品の新規性についての特許・意匠権を確保しておかなければ、万が一商品が大ヒットした際に他社に真似されてしまう。この点に関しては、高校教諭の時に権利関係の授業で知り合った地元弁理士の方に親身に対応していただいたことで、スムーズに権利化を進めることができた。次は、製造と量産の壁が存在した。初期のアクリル製「ベスト定規」は、レーザー加工機で1枚ずつカットし、印刷を施してチェックや梱包を手作業で行っていたため、大変な手間がかかった。その結果、定価が1,430円と定規としては非常に高価になった。「ベスト定規」自体はどこで紹介しても高く評価されるものの、1,430円という価格も影響し、爆発的に売れるわけではなかった。安売りは避けたいものの、流通マージンを含めた適正価格の設定には現在も試行錯誤を続けている。また、大量生産のために金型を起こす方法もあるが、金型製作には5,000個から10,000個単位での出荷が必要であり、素人の需要予測では採算を合わせるのが困難であった。他に、資金繰りにも苦しんだ。試作や特許取得には多額の資金を要するため、金融機関に相談しながら融資を受けて事業を何とか進めた。しかし、製品の納期遅れなどのトラブルにより、特許を取得したものの未だに発売できていない商品も存在している。
 商品を広く認知してもらうため、東京ビッグサイトで開催される日本最大級の文具展示会である「ISOT(イソット)」への出展に挑戦した。当日はトラブルの影響で、ブースには「ベスト定規」1点しか並べられない状態であったが、大変な注目を集めた。これがきっかけとなり、TV番組のスタッフの目に留まり、全国放送で商品が取り上げられた。全国放送で紹介されれば爆発的に売れるかと期待したが、現実はなかなか厳しかった。認知度は上がったものの、実績のない新興メーカーの商品が、大手文具メーカーの製品のように全国の文具店へ一斉に導入されることはなかった。
 現在、当社は以下のような機能性文具を展開している。最初は、これまで話をしている「ベスト定規」シリーズである。これは、直線(定規)、円(コンパス)、角度線(分度器)、幅(ノギス)の機能を1本に集約した製図文具の革命である。初期のアクリル製から折れにくい素材へ改良し、手帳ブームに合わせて柔軟に曲がるタイプも開発した。また、2026年8月1日からは円谷プロダクションとのコラボレーションにより、歴代から最新まで60種類のウルトラマンや怪獣をあしらった「ウルトラマンベスト定規」を発売し、現在ヒット商品になりはじめている。
次は、「ドットポッチ(DotPotch)ノート」であり、ショウワノート株式会社のグループ会社である株式会社文運堂から発売いただいている。これは、三角形の頂点に基づく独自の「ドット」と「ポッチ」を配列した機能性ノートであり、直線だけでなく、正三角形や正六角形、立体図(等角投影図など)が簡単に描ける仕組みになっていて、文具業界の「文具屋さん大賞」ノート部門で第9位を受賞した。また、2025年12月10日から12日に茨城県水戸市で開催された原子力安全分野の国際ワークショップである「第10回 CFD4NRS ワークショップ」において公式試供品として採用された。
 続いて、黒板用アシスト定規「マンボウⅢ」である。こちらは、小学校の教員からの相談を受けて開発した製品で、磁石で黒板にピタッと貼り付き、円や30度・45度などの角度線が描ける定規である。従来の大型コンパスよりも使いやすいと、数学の全国協議会などで高い評価を得ている。学校用品の分厚いカタログに掲載されているが、商品の存在が教員にまだ認知されていない状況であり、どう知ってもらうかが課題である。
他に、未公開の開発中商品として「ポケドラ」がある。 通常は1本の定規であるが、分離して直角に組み合わせることで製図用ドラフターやハイトゲージとして高さを測定する機能も持つ画期的な商品である。特許も取得済みであるが、現在は開発が途中でストップしており、今後の展開を模索している。
 これまでの苦労や失敗を含め、今は人とのつながりこそが最大の財産であると実感している。豊橋市の本多電子株式会社の子会社であり、主にホビー用の超音波カッターを販売しているエコーテック株式会社の担当者が高校の先輩であったご縁から、同社の通信カタログに商品を掲載してもらい、静岡ホビーショーなどの大型イベントを通じて全国へ発信することができた。さらにそのつながりから、大阪の文具店を通じて株式会社文運堂の当時の社長さんに「ドットポッチノート」を紹介したところ大変興味を持っていただき、東京から直々に駆けつけてくださり、ノートの罫線に新しい機能を持たせた点を高く評価いただいた。現在その方は、ショーワノートホールディングス株式会社の社長を務められており、2025年12月よりショーワノート株式会社との協業プロジェクトがスタートした。大手文具メーカーが外部の個人のアイデアと組んで商品を出すのは珍しい取組だと思うが、現在、様々な新製品の共同開発プロジェクトを進めている。
 このプロジェクトは、未就学児童から小学生(概ね4歳から12歳)を対象に、子どもたちの「気づき」や「ひらめき」の芽を大切にし、“人間ならでは”の創造的な思考力を楽しく育む商品の創出を目指している。ここでは手を動かし楽しく試行錯誤しながら、多角的な視点で物事を見て、自分の頭で考え、「自分なりの答え」を見つけ出すプロセスを重視している。2026年12月頃から2027年1月頃のリリースに向けて、3つの商品を開発。
 一つ目は、「5㎜方眼ドットノート」である。このノートは、通常の5㎜方眼に、作図をするための補助点=ドットを付けた作図のしやすいノートである。つなぐと綺麗に正三角形や正六角形、立体図が描ける。ドット機能が追加されただけで、図形を描くスピードや図形の綺麗さが格段にアップする。
 二つ目は、「くるりん定規」である。机の上でプロペラのようにくるくる回る、見ているだけで「何これ、使ってみたい」と思わせる吸引力のあるこの定規は、簡単にコンパスにもなり、円が描け、針もなくて安全である。授業で常に使うスタメン定規に加えて、「セカンド定規」としてのポジションに立てる商品である。特別支援学級の生徒さんにも簡単に円が描ける成功体験を通じて考える力を育むことができるのではないかと考えて働きかけをしている。
 三つ目は、「ピカソなぬりえ」である。「4色定理」とは、「どんな地図も4色あれば塗り分けられる」ことが証明された数学の定理である。このぬりえでは、その定理をぬりえ遊びに取り入れ、隣り合う色の組み合わせを考えながら、楽しく図形に親しみ、幼児期から「順序立てて考える力」を育むことを目指している。自分で色を選択するアートな感性と、ルールと矛盾がないか判断するを同時に取り入れた幼児向けぬりえ市場では類のない商品である。この商品は、低学年の子どもだけでなく、シルバー世代の認知症予防の商品としての位置づけも考えている。
講演のまとめとして、本日皆さんに伝えたいポイントは以下の3点である。最初は、「経験は財産である」ということである。教員の世界から飛び出して様々な失敗を重ねてきたが、その経験や人とのつながりがあったからこそ、現在の自分や事業が存在している。
次は、「まずやってみる」ということである。教員時代も同様であったが、言葉で言うだけで自分では行動しない人が多く存在する。まず失敗を恐れずに挑戦し、行動を起こしてみることで初めて見えてくる世界がある。
 最後は、「メール、議事録、音声データなどで記録を残す」ということである。人間は時間の経過とともに重要なことを忘れてしまう。文章や音声で記録を残し、メモを取る習慣は、後から当時の経緯を振り返り、想いを形にしていく上で非常に大切な習慣となると思う。