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産学官民交流事業

2022.07.19 第453回東三河産学官交流サロン

1.開催日時

2022年7月19日(火) 18時00分~20時30分

2.開催場所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

愛知大学 地域政策学部 教授 蒋    湧 氏

  テーマ

『地域研究のためのデータサイエンス手法と事例』

  講師②

新城市長 下江 洋行 氏

  テーマ

『しんしろツーリズム ~地域資源を活かして~』

4.参加者

88名(内、オンライン参加者 15名)

講演要旨①

 本日の講演のキーワードは、「地域研究」と「データサイエンス」の2つ。私の専門は、数学・経営工学・情報科学であり、データ工学・空間情報科学の研究分野で、地域防災・地域産業に関する研究を行っている。
 データサイエンスの背景を考える場合、産業革命の歩みと情報化社会の進歩というキーワードがある。1995年のコンピュータ、インターネットによる第3次産業革命をきっかけとして、デジタルデータが大量発生した。2030年には汎用AIや全脳構造による第4次産業革命に突入することが予想されるが、その中のデータサイエンスの役割、特にデジタルデータの役割について紹介する。
【事例】通信技術の進歩とビッグデータの発生
 携帯電話の登場から、デジタルデータが大量発生した。特徴は、固定電話から携帯電話へ、有線から無線へ。これから携帯電話のカタチは消えてしまう可能性がある。電話そのものがなくなり、どこでもモニターになる時代が来る。
【事例】携帯の位置情報に潜んでいる「人流の情報」
 携帯電話の普及に伴い、携帯電話から大量に位置信号が発生し、人の流れに関するビッグデータがリアルタイムで収集できる。それは、都市計画、災害リスク、まちづくりなど、広範囲に活用できる。こうした情報社会から日々生まれた「ビッグデータ」を利活用するための科学を、「データサイエンス」と呼ぶ。
 データサイエンスの特徴は、学際的な科学手法であり、情報を掘り出すための学問(数理統計、情報科学、人口知能)と新たな知見を創出するための学問(社会科学、地理学)があり、これらの融合により分野を超えた文理融合型研究領域になる。愛知大学が取り組んでいるGIS(地理情報システム)は、データサイエンスの範疇に含まれる学際的な科学手法である。
 GISとは、日本語では「地理情報システム(System)」であるが、地理・時間・空間情報をデジタル化し、コンピュータなどを利用して分析やプレゼンテーションできる「地理情報科学(Science)」「地理情報サービス(Service)」である。近年ではサービス面でのGIS利用が著しく、社会で役に立っている。また、これからは、EBPM(根拠に基づく政策立案)が必要になり、根拠の獲得にデータサイエンスが有用となる。
 2018年に浜松市の防災訓練に参加した。避難訓練の基礎的単位は近所の人達の「班」で、ロープを使ったグループ避難、人力車や担架を使った避難などを見学したが、これらの自主的避難を科学的に検証出来るかどうかということが、次の研究につながった。
【政策研究の事例(1):共助型津波避難行動】
 全域104世帯、高齢化率38%の渥美半島某集落の津波災害リスクを検証。津波の第一波が到達するまでに、集落全員が避難所にたどり着くことを課題とした。アンケート調査で世帯ごとの自助力を判定し、住宅建物の重心点を用いた世帯自助力の地理分布、高齢独居世帯を中心とした集落共助力の地理分布、移動総距離最短の共助体制の構築、道路と津波浸水、道路に沿った最短避難経路の算出、徒歩速度を考慮した避難行動の再現、以上のデータを重ね合わせ、GISを活用することで一つのまちの中に、共助型の避難計画を作ることができる。今後は実際に避難訓練を行い、GISによるシミュレーションとの相違点を改善していくことが重要である。
【政策研究の事例(2):産業技術の集積】
 研究の背景は、自動車産業における100年に1回の大変革である。課題は、サプライチェーンの脆弱性の評価(Just in Time → Just in Case)と産業転換に備えた「産業技術集積」の実証研究である。自動車産業は転換することになり、地域の生産力が余ってくる。どの方向に転換するのかが大きな課題となる。どのような技術がどこに集積しているかを明らかにする必要がある。このデータが今はないので、研究のテーマとした。
 自動車部品産業における「入れ子(Nestedness)現象」のグラフ化、共起係数(2つの部品が同じメーカーから「生まれる」確率)に関する分析、隣接県に関する空間分析を行った結果、愛知県、静岡県は自動車産業(技術)の集積があることがわかる。今後は、自動車以外の新しい産業への転換をどうするか、従業員数や技術力など各企業の細かいデータ分析を用いて研究を進め、当地域のどのようなノウハウ・技術力を持っているかを明らかにしていきたい。
 愛知大学地域政策学部でのGIS教育は、「地域に根ざしたGIS研究・教育」をコンセプトに、GISを学部教育の一つの柱にしている。現在4名のスタッフで「研究」「教育」「地域連携」に取り組んでおり、東海地域では愛知大学を含む2つの大学しか「GIS学術士」の資格を取得できない。今後、学部教育だけではなく、高校生や社会人、地域住民へのGIS教育にも力を注いでいきたい。

講演要旨②

 かつて実家の「赤引温泉」に従事していた観光事業者という立場から、今は市長という立場になり、新城市の観光振興に積極的に取り組んでいこうと強い想いを持っている。昨年11月の市長就任の際、「新城市の10年後に責任を持つ」というマニフェストの中に、5つの目標と36の提案を示した。5つの目標は、①将来に責任を持つ行政改革、②安心して暮らし続けられるまち、③市民の安全を守るまち、④次世代が夢と希望を持てるまち、⑤人が集まる元気なまち、である。「人が集まる元気なまち」として、8つの提案をしているが、本日はこの中の『新城ツーリズム(食・自然・歴史・スポーツ・健康・温泉)で経済効果を観光事業者が実感できるアクションプランの実施』についてお話しをさせていただく。
 新城市の人口は約44,000人であり、人口動向は転入が約1,200人・転出が約1,500人で社会減が約▲300人となっている。また、死亡が約650人・出生が約250人で年間約▲400人となっており、合わせて年間約▲700人の人口減少が進んでいる。特に、転出は20代前半が最も多く、10年後の人口は50,000人から39,000人、生産年齢人口59%から48%、高齢化率は28%から42%になるというそれぞれの推計がある。少子高齢化、人口減少により過疎化が進む地域には、地域の外から人と財をもたらす「観光」に力を入れることが強く求められている。また、観光客が増えているという現状を好機と捉え、観光客を地域に呼び込み、観光客一人ひとりの消費を拡大させ、地域全体に循環させる仕組みを構築することで、地域経済の活性化に結び付けることが極めて重要であると考えている。
 観光では「稼ぐ」ことが求められている。観光には、「食べる、移動、買う、遊ぶ、寝る」という商売として稼ぐ機会が多く、地域の様々な人がメリットを感じられるはずである。そのためにも、経済効果を観光事業者が実感できるアクションプランを実行していく必要があり、プロセスについては現状分析、目標設定、基本戦略構築、実践、検証という流れでPDCAサイクルを回していくことが大切である。
 現在の具体的な取組を分野ごとに紹介する。
【武将観光】
 来年の大河ドラマで「どうする家康」で取り上げられる。鳳来寺や長篠の戦いなど、新城市には歴史的な名所がたくさんある。この大河ドラマを契機に、各機関と連携の上、観光振興に取り組んでいきたい。また、令和7年(2025年)は「長篠の戦い450周年記念」となり、武将観光で地域を盛り上げていきたい。
【モータースポーツ】
 全日本ラリー選手権「新城ラリー」は、平成16年(2004年)に参加車両60台、観戦者2,000人程度で始まったが、現在は実行委員会が立ち上がり、参加車両160台、観戦者50,000人を超える規模になった。今年11月には世界ラリー選手権、来年は20回メモリアル大会が開催される予定である。
【じてんしゃのまち新城に向けて】
 令和8年(2026年)愛知県で開催されるアジア競技大会で、新城市は自転車競技の会場となる予定である。「愛三レーシングチーム」の合宿&ファン交流会、並びに桜淵公園クリーン活動、サイクルツーリズムに係る地域おこし協力隊2名の登用など、自転車競技を定着させる取り組みに力を入れている。
【トレイルランニング】
 「DA MONDE TRAIL」は、愛知県民の森で「一般社団法人ダモンデ」が主催する3時間耐久トレイルレースである。2015年にスタートし、年2回開催されている。大会コンセプトは「フェスのようなトレイルレース」で、地域の人達によって運営される手作りでコンパクトなローカルトレイルランニングレースで、家族や仲間とチームを組み、豊かな自然の中で気軽に楽しめる大会として定着している。
【フィッシングツーリズム】
 魚釣りが体験できるフィッシングツーリズムなど、清流の自然を活かした観光も進めている。「塩瀬BASE」は、寒狭巴川塩瀬地区エリアの名称であり、このエリアを漁協と協力して運営する釣り人の総称である。数年後は、渓流釣りだけでなく、キャンプやマウンテンバイクなど様々な遊びのBASE基地になることを想定している。
 持続可能な観光に取り組む理由は、①「地域資源の維持・管理」という発想から、地域の魅力を維持する努力が必要である、②地域によっては、継続的にお金を獲得する仕組みがないと存続自体が危うい、③インバウンド誘致を目指すなら、SDGsへの取り組みに対応していないと選ばれない時代になる、という点からである。観光で「稼ぐ」ことを目指すのであれば、観光の「資源」の価値が損なわれないよう維持する努力は、社会全体の価値観の変化を抜きにしても必要不可欠である。観光を考えるすべての地域が「持続可能な観光」を目指すべきである。持続可能な観光でない場合は、自然環境破壊による観光資源価値の低下、人口減少による経済的な停滞等により、観光地としての魅力が喪失してしまう。「持続可能な観光」は、経済・環境・社会の観点から望ましいあり方を考え、管理することが必要である。
 持続可能な観光の「望む姿」は、「経済」「社会・文化」「環境」を軸に、地域住民の「望む姿」を議論すること、どの程度経済的に成長したい(旅行者を呼びたい)のか、どの程度社会や文化・環境を守りたいのかを「地域の総意」として考える。重要なのはバランスである。旅行者を一切受入れないという決断もあるが、それでは経済が持続可能でなくなってしまうので、どの程度旅行者を受入れるかという「議論」が必要になる。
 持続可能な観光の課題は、同じ地域内でも観光従事者と一般住民で旅行者受入れへの温度差あること、一般住民は観光のもたらす地域経済への恩恵が見えにくいため、観光に対して消極的になっているケースが多いことである。解決策としては、経済、環境、社会・文化の視点から「地域の望む姿」は異なるため、地域にあった方法を検討していくこと、また観光客満足度・住民満足度を可視化することが必要不可欠である。
 地域資源を活かした「新城ツーリズム」に積極的に取り組んでいくので、是非、皆さまのご協力をお願いしたい。