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産学官民交流事業

2023.06.27 第464回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2023年6月27日(火) 18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 准教授 大村 廉 氏

  テーマ

『豊橋市スマートシティ化の動向』

  講師②

LOAグループ グローブ(株)/神谷薬品(株) 代表取締役社長 神谷 東樹 氏

  テーマ

『農福心連携のソーシャルビジネス 都市型水耕栽培の可能性について』

4.参加者

63名(内、オンライン参加者 12名)

講演要旨①

 私の研究室名は「ユビキタスシステム研究室」という名称で、日常の周囲にある「物」をスマート化し、人の活動の支援を行うシステムの開発、ハードウェアの開発からAI技術を用いたデータ処理、アプリケーション開発まで実施している。オープンデータ、スマートシティのコンテキストは、主にアプリケーションとして使うことによって情報技術がどのように地域文化などに組み込まれていくかということを研究の一環として実施している。また、豊橋市と連携し、ボルトの締結力を遠隔から監視するシステムを開発し、豊橋市が管理する浜田川橋に取り付け、データ収集を行っている。その他、ウェアラブルとかネットワークなど、いろいろ幅広くやらせていただいている。
 「スマートシティ」とは、防災、エネルギー・水・廃棄物、金融、自動走行・自動配送、教育、見守り・安全、健康・医療・介護をデジタル化してより便利にしていこうというコンセプトで、数年前から言われるようになった。スマートシティの世界の例として、「スマート・バルセロナ」(スペイン)は、交通や環境などモニタリングシステムやアプリを導入(駐車違反確認の自動化、ゴミ回収の最適化、散水栓や噴水、街灯の自動制御)、視覚障がい者向け公共交通サービス、市民参加型合意形成プラットフォームの導入を行っている。また、「ヘルシンキ」(フィンランド)の公共交通機関のワンストップサービス、「シンガポール」の行政サービスのデジタル化(99%)などがある。日本の例として、「千葉県柏市」の病院遠隔チェックインシステム、道路の予防保全システム、地域エネルギーマネジメント、また「兵庫県加古川市」の住民参加の政策立案の導入、「広島県福山市」のオンデマンドモビリティと街の回遊性向上、「茨城県つくば市」の顔認証による「手ぶら外出」などの開発がある。これらは総じて、Well-Beingの向上と同時に、都市の持続性の確保を大きなコンセプトとしているところが多い。
 「日本のスマートシティ」というと、福島県会津若松市でアクセンチュア株式会社が入って行われているということでよく話題に出てくるが、地元のいとこに聞くと、スマートシティはあまり意識されていないのが実情のようである。20代とか若い方は便利さを享受しているが、我々の親世代は電子決済のものが使えないという状況が発生しており、全体がスマートシティという取り組みによって幸せになっているかというと、限定的にとどまっているのが実情である。スマートシティで「行政サービスが非常に便利になり、世の中ハッピーですよ」というようなコンテキストで語られることが多いが、そこは落ち着いて見ないと危険かと思う。もちろん、取り組みは絶対に進めていくべきであるが、何かドラスティックに変わっていくかというとそうでもなくて、ちょっとずつ便利になり、10年後、20年後になると全く変わってくるというのが個人的な私見である。過度に期待せず、しっかり一つ一つ進めていくことが大事である。
 スマートシティの対象分野は、エネルギー、交通、流通、それからヘルスケア、子育て、防犯・防災、環境、商業、産業、公共サービス、インフラ、市民参加、データ活用などがあるが、豊橋市も2022年5月に「スマートシティ推進方針」を出し、取り組みをスタートさせている。イメージとして、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3からスマートシティの実現ということで計画が立てられており、現在、フェーズ2からフェーズ3に移行している段階と伺っている。これに関して、私が関わっているものをリストアップしたのでご紹介させていただく。
 まず、エネルギー分野として、サーラエナジー株式会社と公益社団法人東三河地域研究センターが中心となって「スマートシティ勉強会」というのを不定期で開催している。日本経済研究所の方が取りまとめを行っており、Well beingとは何なのか、それに対してWell-Beingに対する指標はどういうものがあるのかというところ、いわゆるKPIになるようなものをリストアップし、それに対して豊橋市が持つ強み、弱みの分析を行い、その上で豊橋市がどのように進めていくべきかという問題の洗い出しなどが行われている。その中で、エネルギー分野としての考えをレポートとしてまとめ、豊橋市に働きかけを行っていくという取り組みが行われている。次に、医療・ヘルスケア分野として、地域医療ネットワークとしての「青竹ネット」という地域医療機関参照システム、「東三河ホイップネットワーク」という患者さんを含めた専門職の方々の情報共有プラットフォームが整備されている。現在、豊橋ハートセンターと豊橋技術科学大学で「スマートホスピタル共同研究講座」を開設し、次世代医療ネットワーク、セールスケアを豊橋地域でどのように組み上げていくかを議論している状況である。
 それから、商業・観光の取り組みとして、株式会社TSPを2022年7月に創業し、街中の混雑状況のリアルタイムデータ収集のシステムを組み込んでいる。「ヒートマップ」という方法で、時系列で混雑状況が可視化できるようになっており、天気情報をデータベース化し、イベント情報を含め、何か起こったときに人の動きがどう変わるのか予測できるようにしている。これを街の活性化や商業施設などに提供し、Toyo Payとの連動も検討するなど、商業の活性化に役立てていただこうと動いている。交通については、豊橋市のバスや市電の現在位置をリアルタイムで見られるシステム「のってみりん」や、「知の拠点愛知重点研究プロジェクト」で豊橋市の公用車、タクシー、配送業者の車両に運転警報システムを付けて、データをクラウドにあげる取り組みを行っており、危険運転箇所の洗い出しやドライバーの分析などに活用している。
 子育て分野では、「赤ちゃんの駅べびほっ」というアプリで、まちなかの施設でおむつ替えや授乳ができる施設等をリストアップして、地図上に可視化するシステムがある。防災に関しても、3Dマップの作成と同時に、その3Dモデルを活用した防災シミュレーションなどによる分析が計画されている。環境・リサイクルについては、「530(ごみ丸)」というスマートスピーカーやリサイクルショップなどを一覧的に地図上で確認できるアプリ「ゴミの持ち出しマップ」がある。農業も、アグリテックコンテストやアグリミートアップという取り組みが行われており、データ活用のところでは、オープンデータのカタログサイトでデータベース化され、それを可視化するシステムとしてオープンデータ東三河「みてみりん」が整備されている。
 先ほどの分野に当てはめるとかなり広くカバーされており、個人的な意見としては「豊橋市は結構取り組みが進んでいる」というのが正直な感想である。しかし、十分にデジタル化されているかというとそうではなく、それぞれのサービスを繋げてまた新しいサービスにしていくことが大事である。現在、豊橋市はフェーズ3として「都市OSの整備」を掲げているが、都市OSはいろいろな分野を貫いて連携基盤を作るという話なので、そこに期待したいと思っている。
 学術的には、2001年頃、日本の情報処理学会に知的都市基盤研究グループが立ち上がり、2003年頃にユビキタスコンピューティング研究会に引き継がれた。2004年頃、「u-Japan」構想が総務省から出され、「今後はユビキタスなのだ」という議論がなされ、その後「Cyber-Physical Systems」、「Industry4.0」、「デジタルツイン」などの言葉が出てきて、このような概念がどんどん浸透していった。学術国際会議などを見ると、いろいろなスマートシティに関する研究会がなされており、昨年ISC2の学会に参加したが、非常に面白い学会で、研究者だけでなくてその都市政策に関連する実務者も参加して議論する場になっている。「スマートシティコンテスト」なども実施し、認定が行われている。トピックとして、申請ベースでスマートシティ技術やプロジェクトを学会の中で表彰するということが行われており、他の自治体とのコラボレーションや仲介をしてもらったりすることができる。個人的には豊橋市もこのようなものに応募して、スマート化のいろいろな取り組みをPRしていけると良いと思っている。

講演要旨②

 グローブ株式会社は、豊橋市伝馬町のビルの中に植物工場をつくり、施設外就労場所として障がい者の方たちに働いていただいている。私は、伊藤忠プラスチックス株式会社でファミリーマートの商品開発に関わり、「食」というものに約5年間携わり、今年70周年になる神谷薬品株式会社に帰って来た。「薬」は良く使えば非常に素晴らしいものであり、どのように使うかが大事だと思っている。私自身、経営をしていくにあたり、なぜ会社をやらなければならないか非常に悩んだ時期があり、その時京セラの稲森会長の「会社というのは全従業員の物心両面の幸せのためにある」という考えに非常に感銘を受け、「幸せとは何だろう?」というところをずっと勉強してきた。そこで、「自立する喜び、働く楽しさを創造することで物心共に幸せな社会をつくる」ことをミッションとし、会社を設立した。
 「幸せ」とは「Well・Being」の向上が大事であると言われている。日本の幸福度ランキングは今年47位で少し上がってきている状況であるが、評価6項目の中の「寛容さ」が138カ国中136位で、先進国の中では圧倒的に低くなっている。慶應義塾大学の前野教授によると、「Well・Beingとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態のこと」と定義されている。精神的な幸せとか健康的な幸せと比べ、福祉についてはどのような取り組みが良いのかあまり研究がなされていない。今は「叱られない時代」で、メンタルが非常に低くなっている。叱られないとなるとコーチング的なアプローチが非常に大事になり、幸福度を上げるためにコミュニケーションが大事になってくる。私たちは、「からだ」として食育無農薬野菜、「こころ」として園芸療法(バイオフィリア効果)、「社会的なつながり」として多様性の体感・寛容さの向上により、障がい者の自立支援、Well・Being、そして企業価値の向上ということで社会課題の解決をし、ソーシャルビジネスを進めるということで「LOAグループ」を作った。
 障がい者就労支援には障がい度の違いにより、A型とB型がある。また、一般就労ができない方を対象にした就労支援というのがあるが、本日の話題である「農福心連携」による可能性について3つの観点からお話しさせていただく。日本の障がい者数は約964万人で、65歳未満で手帳を持っている方の中で、身体障がいと知的障がいは見て分かるが、精神障がいは分からない。近年、精神障がいが大きく増えており、障がい者さんの離職率は3ヵ月で3割、そして1年で5割以上となっている。現在の障がい者法定雇用枠は、100人に対して2.3人であるが、企業側の理解が進まないという問題があることと、働いている障がい者側にも経済的自立が困難、安全・安心な職場を求める、人間関係を築くのが難しい、そしてより仕事が高度化しているという問題がある。企業側の視点で見ると、採用時の見極めが困難であること、法定雇用率達成における企業の魅力としての発信が難しいこと、精神障がい者の増加に対するメンタルヘルス対策が重要である、などの問題がある。企業としては、ストレス等の問題で1カ月以上の休職者が今全国で9%の事業所で出ている。社会としての課題は、多様性を認め合う社会において、就労している障がい者さんが958万人中約6.7%しか働けていないという現状がある。障がい者さんが働ける場所を作るということも、実は社会の中での非常に大事なところである。
 障がいと食育の関係についてお話しさせていただく。平成24年から令和4年にかけ、義務教育児童数は1割下がり、特別支援教育の児童数は2割上がっている。子どもの精神障がい、発達障がいは、クラスで3人と言われるほど増えている。この原因は、遺伝というのも一つあり、妊娠中の環境というのもあり、子育てではないというのも分かっている。分かっていないのは、どのDNAがそれに当たるのか、また親からどのくらい引き継ぐのか、遺伝ではないというのがどのぐらいの因子なのか、具体的な環境とは何かというのはあまり分かっていない。農薬も私自身は必要だと思っているが、時と場合、使いどころはやはり知っておく必要があると考えている。農薬使用量と自閉症など発達障がいの有病率を見ると、日本は非常に高くなっており、少しでもこのような因子を取り除く必要があると考えている。
 昨年、158万人が亡くなり、79万人が生まれた。この少子化に対しても実は少し影響がある。5.5組に1組が不妊で悩んでいるという事実がある。日本は世界のトップクラスで体外受精などの不妊治療が多い。妊娠できない不妊治療世界一が日本である。ハーバードの研究では、農薬を取った人と取らなかった人では、妊娠率が18%、出産率28%下がり、流産のリスクが36%上がる、精子数が半分に減るという結果が出ている。
 障がい者、企業、社会の抱える課題をみんなで解決するというところで、今回の取り組みがある。一つ、障がい者に関しては、まずそれが分かる人たちと一緒にいることで、心理的安全性があり、その人に合わせたステップが踏めるという環境を作ることが大事であると考えている。まず、この植物工場の中で例えば「農業は楽しい」というのを踏んでもらい、そこから「一般の農業に行こう」という人が増えてくれたら良いと考えている。また、企業としては、ある企業において仕事が切り出せなくなった時の受け入れ先になれること、また園芸療法の活用により障がいやメンタルで病んだ方の社会復帰前に働くという意義を見直す機会を提供できるという取組みが可能である。社会としては、多様性を認め合う社会、「福祉から雇用へ、誰もが自分らしく生きる社会をつくる」ということで一歩踏み出せるのではないかと考えている。
 「マイファーム」は棚を買っていただく方式で、自分で水耕栽培をやりたい方、障がい者さんと一緒に体験したい方、無農薬を健康経営に中に取り入れたい企業の方たちにご契約いただいている。また、学生向けの「水耕体験」も実施している。葉物野菜や花が育てられ、その中でも栄養豊富な「ケール」はお勧め。完全密閉型の水耕栽培は、虫が入って来ないため、苦みやえぐみがなくなる。また、抗酸化作用で肌の老化を防ぎ、免疫力をアップさせる特定機能性食品野菜の生産にも取り掛かっている。未病対策としては、ものを育てるという園芸療法でストレスを緩和すると同時に、人と少しでも関わりつつ、少しずつ自立していくということがこの中で一緒に出来ていくということが大事になってくる。
 日本基金の農福連携の効果というところで、精神面の情緒の効果としてレポートが出ているが、表情が明るくなった、感情面が落ち着いた、意欲の向上があった、という結果が出ている。当施設に来ていたいただいた方からは、「明るくてきれいな施設」、「みんなに優しい」、「野菜の作業で楽しい」、「ほかで体験できない」ということを言っていただいている。また、全然話せない人たちがチラシを配りに行ったり、店頭で売りに行ったり、イベントに一緒に出てくれたり、少しずつ自立してくれていると感じている。
 障がい者と企業と社会の抱える課題を解決するソーシャルビジネスというのをこのLOAグループで進めているが、ノーベル平和賞のムハマド・ユヌス先生と一緒にセミナーをやらせていただく機会があり、そのご縁で当施設の開所にあたり、お祝いの映像を送っていただいたのでご覧いただきたい。(略)
 日常の一歩先の未来について、具体的にどうやって進めるのかといったところを是非一緒に作っていただければとサポーターを大募集している。この活動をみんなで広めていきたい。