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産学官民交流事業

2023.11.10 第237回東三河午さん交流会

1.日 時

2023年11月10日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

シンプルプラス 代表/ナチュラルビューティーコンシェルジュ 福田 美幸 氏

  テーマ

『石鹸の魅力とシンプルな暮らしのススメ』

4.参加者

27名

講演要旨

 私は、東栄町の月地区で石鹸と手作りコスメの店「Simple+」を運営している。東京生まれ、東京育ちで、こちらに来るまで東京でサラリーマンをしていた。趣味は、旅行やスポーツ、アウトドアなど。仕事の休みをもらっては旅行に出掛け、「いつかこんな土地で石鹸を作りながら暮らせないかな?」という夢を見ていた。そんな自由な暮らしを続けながらも、サラリーマンとしての働き方に疑問を持つようになった。そこで、もっと広い世界を知りたいと会社を辞め、オーストラリアに1年滞在し、帰国後は、英会話講師、外資系企業、テレビショッピングの会社などの仕事に就いたが、結局は前と同じ働き方をしているという事に気付き、改めて「自然に囲まれた環境で暮らしたい」と思うようになった。それと共に、スマートフォンやSNSの普及が進み、さまざまな情報をキャッチしては出掛け、色んな人と出会い、プライベートでも日々忙しくすることが多くなった。いつしか「1週間が7日では足りない」、最終的には「この生活をいつまで続けるのだろう?」と感じるようになり、こんな日々の小さな疑問の積み重ねが移住に繋がる第一歩となった。
 忙しい毎日を変えるために私が始めたのが「断捨離」である。物を持つという事は、実際のスペースだけでなく、頭の中のスペースも使っている。物を減らす事で、必要な物や情報に直ぐに辿り着けるようになる。私は、物に限らず、人との付き合いも断捨離した。「自ら必要以上の出会いを求めない」と言った方が良いかも知れない。必要以上の物が無くなることで頭の中が整理され、やらなくてはいけない事が明確になり、今まで見えていなかった情報が見えてくるようになり、最終的には夢としか思えていなかった移住へと繋がった。もう一つの大きなきっかけは、東日本大震災である。当たり前の暮らしが、震災によって崩されるのを見て、少し崩れただけで何も出来ない自分の無力さにも気付かされ、「今しかない暮らしを大切にしながら、もう少し自分の力で暮らせるようになりたい」と思うようになった。また、定年があるサラリーマンとして働き続けることに対する不安もあり、「早めにリタイアすることで、少しでも自分らしい暮らしを長く続けられるようにしよう」と決心した。断捨離を始めたことで色々なタイミングやご縁が重なり、今から約7年前に東栄町の“地域おこし協力隊”として移住してくることが出来た。昭和、平成、令和と時代が移り、今まで正解、当たり前だと思っていた事が覆され、「正解は人それぞれ」と考える人が多くなってきた気がする。これからの時代、自分らしく、自由な働き方、暮らし方をする人を受け入れられる地域に人が集まるのではないだろうか。
 数ある移住先から何故、東栄町を選んだのか?趣味の1つだった自転車の活動で頻繁に長野に行くようになり、就職のお誘いもあり、一度は長野に行くことにしたが、「将来的に自分がやりたいことに繋がるのだろうか?」と考えた時に、「違う」と思った。そこで、都内で開催していた移住イベントに足を運んだところ、紹介されたのが「地域おこし協力隊」だった。協力隊として移住することで、移住のハードルでもある「家探し」や、「地域の人との繋がり」をサポートしてもらえると聞き、協力隊で移住先を探すことにした。その中で、東栄町が手作りコスメ教室の講師を募集していて、私が夢見ていた「自然に囲まれた場所での石鹸作りの夢が実現できるかも知れない!」という事でやってきた。
 東栄町移住後、先ずは協力隊として東栄町産セリサイトを使った手作りコスメ教室で講師として働きつつ、移住定住を進めている役場のサポートや、自分が得意とするランニングや自転車、アップサイクル等の活動も行い、石鹸の勉強はこちらに来て2年目から始めた。「何で石鹸なの?」とよく聞かれるが、これは単純に私が石鹸好きだからである。我が家は昔から固形石鹸を使う家庭だった。年頃になると香りの良いボディーソープや洗顔料等も出てきて色々試したが、やはり石鹸ならではの洗い心地が好きで、気付けばいつも石鹸を選ぶようになっていた。石鹸の歴史は古く、今から約5千年も前、自然の暮らしの中から生まれたと言われている。私が作っている石鹸は材料のオイルに極力熱を加えず、オイルが持っている美容成分を残したまま石鹸にする「コールドプロセス製法」を用いている。製造から約1ヵ月の熟成期間を経て、やさしい使い心地の石鹸が完成する。自然への負荷も少なく、石鹸水は約24時間で自然に還元されると言われている。石鹸を使うと石鹸カスが流れ、そのカスはプランクトンの餌となり、それを食べた魚が二酸化炭素を吐き出す。その二酸化炭素を植物が吸って実を付け、その実を人間が絞ってオイルにし、また石鹸を作る事が出来るという循環が生まれる。肌への影響も少ないと言われている。肌の上には数百兆個の菌がいると言われており、これらの菌がバランス良く働く事で美肌へと繋がるが、石鹸は肌に必要な常在菌を落とし過ぎず、汚れだけを落とすため、汚れが落ちた肌はまた元の状態に戻ろうと自然に自分の力でベストな状態に回復する。このような石鹸の良さを知ったことで、より石鹸が好きになった。
 勉強を進める中で、石鹸には香りだけでなく、ハーブやハチミツ、お酒等、様々な素材を取り入れる事が出来るという事を学んだ。そこで、東栄町らしさが伝わる素材を使って、東栄町でしか作れない石鹸を作ろうと考え、完成したのが地元東栄町の酒蔵「森山酒造」の「蜂龍盃純米酒石鹸」である。何故、森山酒造なのか?これは、移住して間もない頃に森山酒造の酒蔵を見学した事がきっかけだった。300年以上続くその歴史と、機械任せではなく、職人の勘と手作業で作り上げられているお酒は、私の中ではとても特別に思えた。当時、森山酒造のお酒は製造量が少なく、販売先も限られていたため、良いお酒なのに認知度が低いと感じていた。また、後継者の問題もあり、「このままでは終わってしまうのではないか?」と危機感を覚え、お酒の石鹸として販売する事で、普段お酒を飲まない人にも認知されるようになるのではないかと考えた。もう一つは、お酒に含まれるこうじ酸やアミノ酸は美しい肌を作り上げる効果があると言われており、「お酒=美容」という良いイメージもお酒で作ってみようという動機になった。Simple+の純米酒石鹸は酒粕ではなく、飲めるお酒をお水の代わりに贅沢に使用している。真っ白で、もっちりときめ細かい泡が出来るのが特徴である。森山酒造は昨年、先代から息子さんに代替わりして、現在は小田原で製造を続けている。東栄町から離れてしまい残念であるが、純米酒石鹸も製造を終了することにした。間もなく完売となる。
 純米酒石鹸の他にも、東栄町産セリサイトを配合した「SERICITE WHITE SOAP PREMIUM」という石鹸を今年4月から販売している。セリサイトは別名「絹雲母」とも呼ばれる雲母の一種であり、現在、日本で化粧品グレードのセリサイトを採掘しているのは東栄町のみだそうである。東栄町産セリサイトは海外の物と比べると非常に純度が高く、その白さときめ細かさが特徴となっていて、国内だけでなく、海外の有名コスメメーカーでもファンデーションの原料として使用されている。ただ、それを石鹸に配合している会社はまだ見当たらない。私自身もたまたまファンデーション作りの講師をしていたことで、「石鹸にしてみたらどうなのだろう?」と試してみたところから生まれた。特徴は、東栄町産セリサイトを100%使用し、雲のようにふんわりとやさしい泡が沢山出来て、その泡が持続することである。セリサイトの細かい粒子が毛穴の汚れやざらつきをやさしく取り除き、洗い上がりはしっとりという今までにない使い心地の石鹸になっている。特に小鼻の周りやTゾーンのテカリや、ざらつきが気になる方、カミソリ負けにお悩みの男性からのリピートが高い商品となっている。パッケージは、女性でも男性でも手に取っていただけるよう配慮した。セリサイトのようにクレイという泥のパウダーやスクラブを配合した洗顔料は昔からあるが、セリサイトソープの洗い上がりは、そちらとは全く異なる新しい洗顔料だと思っている。先日、この技術を特許出願した。この石鹸をきっかけに、セリサイトの新たな活路が生まれ、より愛知・東三河という地域の認知度が上がれば良いと思っている。
 Simple+の石鹸の値段を見て「高い」とおっしゃる方もいらっしゃる。ただ、1個の石鹸を使い切るのに大体3ヵ月位掛かる。使い終わる頃には肌の調子が良くなっているのを実感していただき、将来的にはスキンケアに使うお金と時間の必要が無くなり「お得だった」と実感してもらえたら嬉しい。
 開業場所については東栄町だけでなく、実家のある東京や他の観光地等との比較もしてみた。東栄町は断トツで交通手段の不便さがデメリットとなるものの、お客様には自然を感じながら、ゆっくりと過ごしていただくことが出来る。そもそも私がこちらに来た理由は「自然豊かな土地で自分らしくシンプルに暮らすこと」であった。結論として、最大の決定点は「人」であった。東栄町には、よそから来た人の小さなチャレンジを純粋に喜んで応援してくれる町民がとても多いと感じている。
純米酒石鹸の販売を機に東栄町で開業したが、石鹸を販売するだけでは食べていけないと判断し、教室を開く事で、自分で作って、お気に入りの石鹸を持って帰ってもらおうと考えた。それに加え、外部講師を招いた普段の暮らしがより豊かになるような講座、東栄町産セリサイトを使ったファンデーション作り体験も提供している。開業にあたっては、手作りコスメティック体験「naori」との差別化を図るため、体験は一日一組限定にし、4,000円という料金設定にした。更に、昨年より町内の小学校での出張講座や中学校の社会学習の受入れなども行っている。子供だけでなく、会社の福利厚生の一環として大人の方にも受けていただきたいので、興味を持たれた方は、お声掛けいただきたい。
 最後に「Simple+の想い」についてお話させていただく。ロゴはただの筆記体に見えるが、「S」の滑らかな曲線は無限大をイメージし、永遠に続く「美」を表している。「i」の上の点は「S」から滴り落ちる清らかな水。横に連なるのは緑豊かな山々。空には光り輝く星が「+」として表現されている。ロゴの背景にあるグレーは、霧・雲・日本、何と思ってもらっても構わない。Simple+は、「みんな違ってみんな良い」という考え方を大切にしている。そして、屋号は断捨離の経験から来ている。必要以上の物を手放し、シンプルな暮らしを始めたことで、少しずつ自分の時間を持てるようになった。そういった余裕が自分の気付きに繋がり、迷った時にも直ぐに本来あるべき姿に軌道修正出来るようになったと感じている。また、背負う荷物が減った分、必要な物事に対して身軽に動けるようになり、良いご縁をちゃんと掴めるようになったとも実感している。
 Simple+の事業テーマは、「そのままのあなたをより美しく輝かせるために」である。石鹸を通じて、石鹸の良さだけでなく、そのままのあなたの美しさに気付けるような活動をしていきたい。固形石鹸は自分で泡立てないと泡が立たない。お気に入りの石鹸を丁寧に泡立てた時のその感触や香り、洗い流した後の肌が生き返った感覚などは、石鹸でないと味わえない特別な時間である。忙しい時こそ石鹸で気分を落ち着かせ、頑張った自分を労わってみてはいかがでしょうか。