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産学官民交流事業

2023.12.26 第470回東三河産学官交流サロン

 

 

1.日 時

2023年12月26日(火) 18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 教授 渋澤 博幸 氏

  テーマ

『都市地域と産業の経済分析について』

  講師②

クックマート株式会社 代表取締役社長 白井 健太郎 氏

  テーマ

『競争嫌いによる競争戦略 ~クックマートの競争戦略~』

4.参加者

74名(オンライン参加者7名含む)

講演要旨①
 この話をいただいた時、最新のトピック的な話が良いかとも思ったが、私が豊橋技術科学大学(以下技科大)に学生の時から30年以上在籍し、これまでやってきた研究について紹介する方向性でまとめている。東三河の産学官交流サロンなので、東三河とかその周辺の地域のことを思って実施した研究を中心に、最近の活動の話をする。
 研究室は、建築・都市システム学系社会システム研究室という名前であり、教授の私と助教の崔明姫という中国出身の先生と一緒にやっており、全体で14名ほどの学生が在籍している。研究室のホームページには、本研究室の分野は経済学と社会工学に関するもので、その中心になるのは政策論や計画論であり、これに工学的な考え方を取り入れた新しい分野の確立を大きなテーマの一つとしており、社会経済や環境に関して興味ある学生が研究を行っている。研究内容としては社会経済や環境を対象としたシステム分析・将来予測、産業構造の評価指標の開発、政策・計画プロジェクトの支援システムの開発などである。ちょうど今学生は卒業研究の発表会、修士の予備審査会が終わった状況であるが、それぞれがテーマを決めて研究している。主に観光、防災、交通の関連分野が多く、その中の2~3割が東三河地域の内容であると思う。
 私が最初にこの地域のことについて研究を始めたのは、豊川流域における水の需要と供給の地域経済ということで2000年くらいの頃から20年以上やっている。水は東三河地域の生活経済活動にとって重要な資源で、豊川用水が完成し農業や産業が発展した。豊川水系、豊川用水と東三河の地域経済の関係をしっかり勉強しようということを2000年頃から続け、地域計量経済モデルの手法でこの地域を描写してどのような特徴があるかということをやっている。モデルに使う変数は、市町村別に人口、産業、生活・土地・財政関連、用水使用がある。これを市町村別に集めて、足し合わせ東三河はこうなっているというような分析をしている。35年間くらいの期間において、東三河地域の社会経済の変化と産業の動きがどうなっているかについて前年比平均の変化率を見ると、プラスマイナス6%くらいの変化が毎年入っている。少し前はプラスであったが、最近は人口が減少している中、マクロでは少し安定する状況に来ていると思う。
 次は三河港の経済効果というテーマで、これは2014年くらいからやっている。三河港は我が国の中央に位置し,地理的な優位性を誇る物流拠点で、自動車貿易はトップクラス、豊橋市・田原市・豊川市・蒲郡市にわたる港湾であり、この地域の経済の主要な場所であるため勉強する必要があると思い、三河港及び周辺の後背地域の立地する産業がもたらす経済効果を明らかにするということで研究を進め、町丁大字の従業者と地域間産業連関表を利用して経済効果を計測している。エリアの選定では、三河港の真ん中に点を打って、そこから半径5キロの地域の間にこうした産業があり、その産業がこの地域の周辺にどういった経済的な貢献をしているかというのを調べている。これが、愛知県の経済に何パーセントの貢献をしているかとか、愛知県外にどれだけの波及効果をもたらしているかということを分析している。
 次のテーマが三遠南信自動車道の経済効果である。2014年に経済効果はどのくらいあるかということで、愛知大学の三遠南信地域連携研究センター戸田先生から話があり実施したものであるが、道路の経済効果、産業クラスターが将来できていく場合の効果、東三河・遠州・南信州の3つの地域でどのように連携が進めば、より強力になるのかといった分析を行った。三遠南信で新農業クラスターや次世代輸送用機器産業クラスターができたらどういう効果があるかというのを分析すると、東三河・遠州が効果は大きいといった結果であった。また、この3地域の中でどの産業間のつながりを強くしたら良いかを分析をし、輸送産業は当然であるが、農業や食品関係、サービス関係のつながりを強くすると良いのではないかとの研究も実施した。
 次のテーマは三河湾の水環境と地域経済ということで、こちらは2015年くらいからやっている。三河湾は閉鎖系の海域で汚染物質が溜まりやすく、環境問題も生じやすいということで、三河湾の水環境と地域経済の関係を調べていくということをやっている。私の先生というか研究グループにおいては、実はこの分野の専門家が多く、助言してくれる先生が多かったため、三河湾の水環境と地域経済の関係を常に分析をしていたということがある。
 洪水と地域経済のレジリエンスというテーマは、2021年くらいから、比較的最近行っている研究である。最近は雨の降り方が変わり、洪水が起きやすくなっている。今年の6月も豊川で氾濫があったが、豊川、この研究は矢作川も対象にしているが、行政が出している洪水の浸水想定エリアというハザードマップの情報を利用し、もし豊川で大規模な洪水が発生したらどのような経済被害が出て、それが周辺の地域にどのような影響があるのか、それがどのように回復をしていくのかという、水害と地域経済のレジリエンス性、地域の経済の回復力がどのぐらいあるのかを研究をしている。ハザードマップで仮に赤いエリアで洪水が発生すると地域の生産水準がどのぐらい落ちるかというと豊川は30%ぐらい落ちるとか、矢作川の場合であると40%ぐらいで回復する場合にはどういう回復の仕方があるのかといった研究を、現在も続けている。
 次のテーマは環境配慮型自動車と地域経済である。これは2009年ぐらいから実施しているもので、愛知県に居住する者として自動車産業のことが気になるということで始めた。環境配慮型自動車というのはハイブリッド・電気・水素自動車であるが、この生産のシフトが気になるところであり、特に電気・水素自動車の生産が拡大したらどのような経済効果が起きるのかということである。最初はそうした研究を行っていたが、エネルギーとの関係が重要であり、環境配慮型自動車と枯渇性・再生可能エネルギーの関係を見ていかないといけないと感じた。電気自動車、水素自動車が生産拡大したら全国、愛知県の産業にどういった影響があるか、こうした分析をしており、最近は細かいデータも集まるようになり、全国の産業にどういった経済的な影響があるかというのも分析できるようになった。電気自動車が増えていった場合の経済分析は、赤だとマイナスであるが、およそいわれている通りのような結果も示せるようになってきている。
 最近の活動テーマということでは、インバウンドに代表される国の観光立国という政策もあり、観光のこともやっていた。しかし、突然コロナが来てしまい、観光関連産業はダメージを受けたので、それをきちんと見ておく必要があるのではないかということで、観光関連産業の調査を最近行っている。いろいろな支援政策があったため、それがどのような効果があったかというのを調査し、12月1日、「アフターコロナ時代の観光と都市地域の未来」というタイトルのシンポジウムを実施、報告した。そこでは講師を招いて、全国では「観光立国基本計画と観光による地域づくり」、東三河地域では「ほの国東三河における観光ブランディング戦略」、南信州では「南信州の観光地域づくり」という話をしていただいた。
 直近で動いている行政との研究では、豊橋市の補助金の事業があり、最新の項目を中心に豊橋市大学研究活動費補助金事業として「豊橋北部地域の観光展開の可能性に関する調査(豊橋・新城スマートIC)」というものを実施している。高速道路に豊橋市初のスマートインターチェンジができるということで、将来の地域開発を想定し、観光を新しく展開するということで、アンケート調査を実施、学生が頑張ってアンケートを解析している。
 私が大学で実施してきた研究はこのような話であるが、他の地域のことをやっている研究者と違う点は、これを英語に翻訳し国際学会などで発表しているということである。本来ならば、地域のことをやって地域にフィードバックするのが自然かもしれないが、私はそれを海外に伝え、論文とか学会発表を行い、本になっている。こうした書籍は、編著者が多く、いろいろな先生が地域の多様な問題を、多く国の地域の問題を入れて、地域情報も含めて出版するという形で情報を発信してきたものである。私の分野は学問的には「地域科学」という「リージョナルサイエンス」と呼ばれているものであり、地域のことを科学的に探究して、それを世界中の人が集まって情報を共有し、いろいろな問題・課題、成功例、世界中の地域の問題を集めて、それをまた地域に戻し世界全体が良くするような学術の分野である。私事であるが、1954年に設立された地域科学の国際的な学術組織である「国際地域学会」、この組織において来年副会長に就任する予定であり、海外への活動を一生懸命やろうと思っている。こうした仕事ができるようになったのは、この地域のことを勉強して、この地域のことを海外で発信してきたおかげであり、この地域で勉強して良かった、と思っている。引き続き、この地域のことをよく調べて、それを海外に発信していきたいと考えている。
 東三河発展のための地域への提案や思いについて話をする。熊本の人吉市にいく用事があり、その時買ったお茶の裏側にこうしたキャッチフレーズが書いてあり、私がやっていることに近いと感じ、地域が発展するためには非常にいいキャッチフレーズと思って今回紹介する。「お茶が人と人をつなぎ、お茶が人と地域をつなぎ、お茶が地域と世界をつなぐ」である。地元の農産物という土産品で人をつないで地域をつないで世界をつないでいくということで、共感した。このお茶を技科大に変え、「技科大が人と人をつなぎ、技科大が人と東三河をつなぎ、技科大が東三河地域と世界をつなぐ」これをやっていけばこの地域は発展すると思う、私も技科大の一員であり、その一員として人と人をつないで地域をつないで地域と世界をつなげていきたいと思っている。
 最後に「研究活動のご支援をお願いいたします」と配布資料に書いている。基本的に地域のことを調べたりするため、学生が地域に出て皆さんにいろいろ教えてもらったり、話を聞いたりする機会が多くある。そうした学生がいたらぜひご協力をいただきたいと思う。また、大学としては、外部資金獲得などもいわれており、私も海外にこれから出てくる機会が増えると思うが、最近は海外の渡航・滞在費用も高騰しており厳しい状況となっている。研究費等も含めてご支援をいただけるとありがたく思う。

講演要旨②
  私は昔から「競争」というのがあまり好きでなく、受験勉強、運動会、マラソン大会など他人との競争となると全くテンションが上がらないタイプである。こんな私がどのように会社をやったら良いのか、という中から生まれてきた戦略が、クックマートの競争戦略である。私は、東京で、広告代理店、キャラクタービジネス、インターネット関係といった全くスーパーマーケット(以下スーパー)とは関係のない仕事をしていて、30歳になった時に連れ戻されるような形で戻ってきた。ローカルスーパーという昔ながらの業界に自分が「異邦人」としてやってきたら、割と面白い会社になったのである。
 先日、これをまとめた『クックマートの競争戦略』(ダイヤモンド社)という本を出版したが、中身は「競争嫌いによる競争戦略」である。競争戦略というと、すごく抗戦的で戦いが好きみたいなイメージを持つかもしれないが、私は全くそういうタイプではなく、いかにして同じジャンルにならないようにするか、競争しないようにするかということばかり考えてまとめた本である。
 最初にクックマートがどんな会社かという話をする。食品スーパーのクックマートは1995年創業ということで、業界としては全国でも最後発のスーパーになる。父が創業者であるが、私が高校生の時に突然スーパーをやるといい出した。今更、オーバーストアの中でどういうことだと周囲からもいわれたが、なんとか軌道に乗せ成長してきた。東三河から浜松という「ド・ローカル」で12店舗を展開、豊川に4店舗、豊橋に4店舗、浜松に3店舗、湖西に1店舗となっている。地域密着で展開をしており、全国展開や急成長することを志向していない。特徴は、とにかく人手と手間をかけて価値を創造しているということである。スーパー業界は通常、人員を削減し、なるべく少ない人数で売上の最大化を志向しているが、当社は逆に積極的に人を投入し、普通の効率化やAIができないことをやろう考えている。店舗面積が小さい店ではあるが、1店舗あたり120人から150人が働いている。今ではドラッグストアなどいろいろなところが食品を扱っているが、一番違うのが生鮮食品である。ここが魅力的なスーパーが、本当の良いスーパーであり、人手と手間をかけないと実現できない。それで圧倒的な売り場と商品を作っていくということをやっている。こうして売上客数が業界の常識を大きく超えるようになり、クックマートは1店舗平均すると300坪ぐらいとそう大きくない店舗面積であるが、普通の同規模のスーパーが年商ベースで15億円程度といわれる中、クックマートは、1店舗あたり27億円、大きい店では37億円を超えるという通常の倍の売上のあるスーパーであり、坪あたりの売上は、おそらく日本でも一番に近いと思う。こうした積み上げで、東三河では最大規模の小売業となっており、12店舗で315億円を売り上げている。来店客数は年間で1000万人を超えており、東京ディズニーランドに匹敵するお客さんが来ている。帝国データバンクでも東三河の同業者中第1位という評価をいただいており、マイペースにやっていたら割と成長していた。他社を見てどうするか、マーケティングで考えてどうするかということよりも、自分たちのコンセプトに忠実に、「己のガラパゴス」を突き進み、「振り返るとわりと強くなっていた」という、これがクックマートのパターンだと思っている。その中身を紹介する。
 クックマートの競争戦略の起点は「業界の常識への違和感」である。一般的に小売業の世界は、戦後、「チェーンストア理論」ということで、同じようなタイプの店を大量に出店し、規模拡大により効率を上げていくという考えが広がっていった。これが大企業のベースになっており、コンビニが一番わかりやすい。大手3社に集約され、基本的には同じものを同じ値段で売っている。食品スーパーも、この流れがあってチェーンストアで大型店を推進していった。このやり方は確かに合理的なのだが、私が思う一番の問題は「働く人が楽しくない」ということである。人間も全部マニュアル化、何をどこで、いくらで売れということが決められていて、創意工夫ができないというつまらなさがある。何でもものが手に入る時代では、お客様も全然地域性がない、安いけど欲しいものがない、どこにいっても同じ店でつまらない、ということで離れてしまう。食品スーパーは、全国チェーンとかシステム化になじまない商売だということが、私がクックマートに来て感じたことである。
 食品スーパーは「どうしようもなく」ローカルなものである。例えば豊橋と浜松は車で簡単に往来できる距離であるが、ずいぶん食文化が違う。私はこれをスーパーは3重の「ナマモノ」を扱っているということだと思っている。一つが生鮮食品を扱っているということ、それからローカル性、地域性が非常に強いということ、最後にお客さんと働いている人、人間も一種のナマモノであるということである。この3重のナマモノを扱う特殊性、これを私は「魔境」と呼んでいる。実際、過去に、スーパーの業界にあらゆるグローバルな企業が進出してきた。世界一の小売業であるウォールマートやフランス代表カルフール。最近だとアマゾンが生鮮食品を扱い、ユニクロのファーストリテーリングが生鮮に乗り出したこともあったが、これだけのすごい企業がやってもうまくいかず、結果、日本、生鮮から撤退している。魔境に喰われてしまったということであるが、大企業やエリートがやっても合わないというか、非常に難しい商売であると思っている。こうした中、クックマートが大企業やIT企業よりもうまくできることはないかということを常に考えている。大企業はネット・規模・効率、こうしたスケールを追っていく商売だと思う。それに対してクックマートはそれを追わないという逆をやっている。ネットに対するリアル、規模に対するローカル性、効率に対する人間性の追求、こうしたことをやり、「地域の活気が集まる場所」を作っている。スーパーの定義を、ただ食品を売っているという場所ではなく、「地域の活気が集まる場所を作っている」と定義したところから独自性が出てきたと思っている。これを「リアル×ローカル×ヒューマン=地域の活気が集まる場所」と呼んでいる。
 独自のコンセプトが見えると、会社としていろいろな戦略が見えてくる。中でも特に「何をやらないかをはっきりする」というのが一番肝心だと思っている。独自のコンセプト「地域の活気が集まる場所を作っている」に照らし合わせるとやらないことがどんどん明確になっていく。例えば普通のスーパーにあって、クックマートにないものは、(価格訴求の)チラシを出さない、ポイントカードがない、ネットスーパーがない、深夜営業をしない、マニアックな商品構成をしない、タバコの販売を(全店ではないが)やめている、業界団体に加盟しない、急拡大しない、大型店舗を作らないなど。何をやらないかをはっきりさせた上で、組織を磨き上げ、組織文化、中にいる人たちがどれだけ充実して働けるか、ここに注力しているのがクックマートの特徴である。それを「組織戦略至上主義」と呼んでいる。
 ここが一番大事な話であるが、クックマートはもともとデライトという社名だった。デライトという英語の解釈は「楽しむ、楽しませる!」としており、社名をそのまま経営理念としている。この「楽しむ、楽しませる!」という言葉は非常にシンプルであるが奥が深い。「自分が楽しんでいると周りの人も楽しくなってくる→周りの人を楽しませていると自分も楽しくなってくる」という、一種の「無限ループ」に入っていく。これは個人でも会社でも同じことだと思っており、クックマートという会社でいうと、楽しむということが、社員にとっての楽しい職場を作っていくということ、それをやっているとお客さんにとっての楽しいお店ができるという、この当たり前のことを追求している。よい組織文化を作っていくと、それに共鳴した人が集まってきて、自分たちで主体性のあるプロの商人になる。その人たちが内発的な動機によって地域に価値をもたらすという流れになっていて、とにかく自発的な商売を楽しむ人を集めてそういう人を育てていくという会社である。つまり大企業のシステムでやるというのとは全く違う発想である。
 それを私たちは「仕事を通じて人生を楽しめるプラットフォーム」と呼んでいる。給料が悪くない、休みもとれるといったことは大切であるが、同時に、楽しさ・成長という動機づけ要因も必要である。ただしここは「現世」であり、100%完璧にするのは難しく、社員に経営側も一生懸命やっていることを伝えて理解されることが重要と思っている。そのためのいろいろな仕掛けがある。例えば社内SNS。クックマートがユニークなのは普通、社内の情報共有というと、業務に関する話が多いと思うが、プライベートの話を積極的にしている。SNSによって一緒に働く仲間がどんな人なのかということが非常によくわかって、会社が一種のコミュニティになっている。店が異動になっても「ああ、あの人ですね」ということがよくわかるので、非常に温まった状態をキープできる。もう一つ、業務用のSNSというのもあり、ここでは、みんなが勝手に「こういうものが売れました」とか共有して横展開され、上からの指示命令ではなく、自発的に広がっていくということができている。他にも各種の研修の機会があるが、その中でユニークなものとして社長研修の「哲学カフェ」というのがある。社員を10名から15名ぐらい集めて、社長に対して仕事はもちろんであるが、プライベートのことも何でも質問して良いという話をし、車座になって全員で人生の悩みを問答するということをやっている。なぜこれをやろうと思ったかというと、社員の仕事の話を聞いていると、仕事の悩み以前に人生の悩みが多いなと思い、それはモノの見方=視点が少ないために悩んでいるなという印象があったためである。社長が聞いて「こんな見方もあるのではないか」と違う視点を提示してあげることによって楽になる人も多く、同時に社長がどういうことを考えているかを社員に直接知ってもらう機会にもなっている。また、社内アンケートを毎年やっており、会社に対する課題や不満を聞いている。それを一個一個愚直に潰していく地道な作業を数年間やると、だいぶ不満がなくなってくる。これを毎年進化させ、5連休制度、未消化の有給買い取り制度、正月の3連休、育児の短時間勤務を延長、長距離通勤手当、退職金制度など、数々の社内制度が生まれた。ただ、全てを聞くわけではなく、クックマートのコンセプトに合っていることは取り入れ、そうでないことはスルーする。
 「楽しむ、楽しませる!」ということが理念であり、どうしたら楽しむ方向に持っていけるかを全社で考えているが、楽しむというのは単純なようで結構難しい。「楽しむは一日にしてならず」ということで、数々の失敗をする中で自分に向いた方向を知っていくしかない。それぞれの個性、気質、体質、好きなこと、得意なことは全く違い、自分に合ったものを知って合った場所にいく。それを大事にしていくことがエッセンスである。「大人は自ら楽しむものである」ということを伝えており、楽しんでいる人の中からリーダーが現れる。「神輿は自ら担ぐものである」ということをいつも社員に話して、石垣における「野面積み」のような組織にしたいと表現している。石垣は同じような石を全部揃えてきれいに積むというやり方もあるが、私たちは、大小・凸凹のあるいろいろな石を組み合わせて強固な石垣を作ったほうが見た目にも面白く、強くなると思っている。ローカルな普通の人々がそれぞれの良さを生かせるような組織、それが大切である。ローカルの人は非常に面白い、素朴ですごく良い人が多いと思っている。東京のエリートが考えた一律の人事制度とかそういうものは全然合わない。「魚とひたすら対話したい」といった個性的な人がいるので、そういう人にどうやったら楽しく働いてもらえるか、という感じで考えている。
 最後にまとめると、これから、時代のフェーズが全く変わってくると思っている。今までの高度成長期の人口増加環境のやり方、単純な規模拡大のチェーンストアのやり方で店を増やしていくのは困難になると思っており、これからの時代にあった形の会社像を考えている。日本のほとんどの地域で人口が減っていく中、どういうことがこれから良いのか、東京視点ではないローカルならではの会社を作ることこそ私がやりたいことであり、人事を中心として、コミュニティ、クリエイティブ、学びがある、「ローカルの普通の人々」が活きる会社にする方向で進んでいる。「楽しむことが最高の戦略」と思い、これからもやっていく。