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産学官民交流事業

2024.05.22 第475回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2024年5月22日(水) 18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

(公財)豊橋市国際交流協会 会長 松井 孝悦 氏・事務局長 竹岡 美代子氏

  テーマ

『外国人に選ばれるまち “TOYOHASHI” へ』

  講師②

愛知大学 国際コミュニケーション学部 准教授 伊藤 潤 氏

  テーマ

『日本における危機管理DXの現在地~能登半島地震にみる災害情報共有システムの課題~』

4. 参加者

78名(オンライン10名含む)

講演要旨① 
 豊橋市国際交流協会は、平成元年4月、さまざまな国籍や多様な文化を背景とした人々が、安心して暮らせる地域づくりの推進を目的に発足した。平成25年4月には愛知県より公益認定を受け、「公益財団法人豊橋市国際交流協会」として新たな一歩を踏み出した。令和3年7月にはemCAMPUS EASTに移転、まちなか図書館やまちなか広場と隣接し人々が集う環境になったことで、これまでになかった連携事業の実施が可能になった。
 事業内容は定款で定めた4つの柱をベースに事業を展開している。1つ目の柱の「国際交流・国際協力事業」では、まちなか広場・emCAMPUS一帯で毎年11月、市民と外国人が一堂に集う「インターナショナルフェスティバル」を開催している。「インターナショナルフェスティバル」の参加者数は、以前「ここにこ」で開催していた時は約3,000人であったが場所をemCAMPUSに変更して非常に人数が増え、昨年は約5,500人が集まった。多国籍の人が集まって自国の料理を楽しみ、文化を発信する場になっている。留学生交流事業は、奉賛会のご厚意による祇園花火の体験や、日本語を学んでいる外国人学習者と市民総踊りに参加して市民との交流の輪を拡げている。祇園の花火は桟敷席を用意していただき、こんな近くで花火を見たことがないといつも喜ばれている。豊橋まつりは、市民総踊りに外国人が浴衣を着て参加しており、なかなかできない体験と非常に好評である。友好親善事業では、豊橋市の海外提携都市である4市を中心に、海外から来訪する訪問団の受入れを行っている。留学生支援事業は、豊橋総合動植物公園など市の8施設を無料で利用できる「留学生パスポート」を交付し、留学生が地域へ出かけることで一般市民との交流機会を創出している。
 2つ目の柱は「多文化共生事業」である。地域に暮らす外国人市民が自立した日常生活が送れるよう、日本語ボランティアの運営による「にほんごきょうしつ」を開催している。全く日本語が話せないゼロレベルから日本語検定試験対策クラスまで、各レベルに応じたクラスを毎日開講し、日本語指導のみならず精神面でのサポートや情報提供などのアドバイスも行っており昨年は557名が受講した。また、学んだ日本語で「スピーチ」を披露する「日本語スピーチコンテスト」も例年開催している。東三河の日本語スピーチコンテストとして、豊橋も含めた東三河各地区で選抜された発表者が出場するコンテストとして広域で開催している。外国人児童サマースクール事業は、夏休み期間を使って学校や地域住民が連携して日本語学習や夏休みの宿題のサポートをするもので、児童が不登校にならないよう2学期へつなげている。外国人総合相談窓口「インフォピア」は、生活や仕事 ・医療・教育 ・子育てなど在住外国人の困りごとに対して、さまざまな相談業務を行っている。コロナ禍ではどこでワクチンを受けられるかといった相談などを中心に年間に5,483名の相談があり、外国人からは頼りにされる窓口となっている。
 3つ目の柱「人材育成、市民活動支援」では、国際交流・多文化共生を推進するためのボランティアを育成している。自主的な活動を支援するため日本語指導やボランティア活動について学ぶ養成講座を開催し、日本語ボランティアの育成とスキルアップを図っている。また災害時に情報弱者となる外国人を支援するため、災害時通訳ボランティアの登録・育成を行っている。地域在住の外国人や海外経験のある日本人から、世界各国の衣食住など身近な話題をテーマに異文化を紹介する国際交流サロンも実施している。令和5年度新規事業の「オンラインバーチャルツアー」は、インスタグラムのライブ配信により生の現地の暮らしを体験できるものとなっている。また外国人講師から学び基礎的な語学力を養う外国語講座として、英語や中国語がメインであるがポルトガル語やフランス語の教室も開催している。他に毎年8月を国際協力意識の啓発月間と位置付け、国際協力に関する映画上映会や講演会を開催している。
 最後4つ目の柱になるが、「情報の提供」では、協会の事業案内、活動紹介、地域の国際交流団体などの情報を広く提供する機関紙「コミュニステーション」を年に2回発行している。日本語・英語・ポルトガル語・中国語・タガログ語の5言語によるホームページやSNSを使った情報提供は、多言語で幅広い層に向け各種事業案内や活動紹介などの情報発信をしており、特に今年4月から開設したFacebookでは、主に外国人の方に向けた情報提供を行っている。その他として窓口のエントランスでは、来館者が気軽に利用できるよう情報提供スペースを設け、フリーWi-Fiの利用や海外雑誌・英字新聞など各種資料の閲覧が可能となっている。
 次に豊橋市で暮らす外国人の現状について話をする。都道府県別外国人住民数から見てみると、愛知県は東京都に次いで2番目に外国人住民が多い。愛知県内でも豊橋市は名古屋に次いで2番目に外国人住民が多く、外国人比率も高く5.65%、約20人に1人となっている。豊橋市の外国人住民数推移をみると、1990年の入管法改正以降ブラジルを主とする南米諸国出身の市民が急増し、2008年には外国人人口が20,000人を突破した。同年のリーマンショックにより景気が後退すると、その影響を受けた多くのブラジル人住民が日系人帰国支援事業などにより帰国し、ピーク時の約13,000人から半数を下回る人数にまで減少した。外国人住民数は2015年を底に再び増加に転じ、コロナ禍による若干の減少はあったが現在は再び20,000人を超えている。こうした増減は入管法の改正と景気が大きなポイントになる。
 豊橋市の国籍別外国人住民数で2008年の外国人人口が20,000人を超えた時は日系ブラジル・フィリピンなど身分に基づく在留資格の方が上位をしめていた。2024年3月時点では東南アジア圏の人口増加が顕著であり、2018年の入管法改正によりベトナム・インドネシア市民がその数を大きく増やしている。ベトナムとインドネシアはほとんどが技能実習生だと思うが、技能実習生は市民との接点がなかったり実態が把握できないところがあるが、ベトナム語やインドネシア語の通訳を入れてしっかりフォローできる体制にしていこうと考えている。在留資格別では、2018年と2024年を比較すると永住者・定住者などの身分・地位に基づく在留資格者が減少し、東南アジアから来豊する技能実習、特定技能を身につけた外国人材が増加している。
 外国人労働者に対する制度について、今年2月政府は技能実習制度に代わり育成就労制度を創設する方針を決定した。これにより、受入目的は「人材育成による国際貢献」から「人材確保と人材育成」となり、外国人の労働者としての受入れが明確化された。新制度では、職種は特定技能の12業種になり在留資格の移行を円滑化するとともに、企業は外国人材の長期的な雇用が可能になる。また、外国人は同じ職種に長く従事することでキャリアを築くことができ、特定技能2号では在留期間が無期限、家族の帯同も可能になる。その一方で、転籍制限の緩和により、条件の良い地域への人材流出も懸念される。1年経ったら転職もでき企業を変わること、住む街を変わることも可能になるため、これまでは企業側が選んでいたものが、これからは外国人が企業・地域を選ぶというように大きく変わる。いずれ外国人の間で日本人同様転職サイトが流行るのではないかとも思っている。このように受入目的が変化する中、豊橋市の浅井市長は令和6年度の予算大綱で、「多くの外国人が住む街として国籍に関わらず暮らしやすく、就労しやすい環境をいち早く整え、外国人材が集い地域社会を支える一員として活躍する先駆的な多文化行政のモデル都市を目指す。」と述べている。
 こうした状況下、国籍にかかわらず暮らしやすく地域社会の一員として活躍できるTOYOHASHIを目指して、当協会は豊橋市や関係機関と連携してさまざまな取組を行っている。emCAMPUSへの移転を機に3つの事業を拡充した。最初は、em CAMPUS FOODとの連携で食をテーマとしたシェフと豊橋技術科学大学のチュニジア人の留学生による国際交流サロンを実施した。続いて、まちなか図書館との連携事業で毎月「外国絵本の読み聞かせ、親子の会」というイベントを実施している。これは地域に暮らすネイティブの講師が、母国の暮らしや文化などに触れながら母国語と日本語で絵本を読むイベントであり、「子どもの読書活動優秀実践図書館」としてまちなか図書館は文部科学大臣表彰を受賞している。最初に話をしたが「インターナショナルフェスティバル」は、駅前立地を生かしまちなか広場や大豊商店街と連携することでより多くの方にご参加いただいている。em CAMPUSに移ったことによってこうした新しい事業の拡充ができている。
 外国人市民の環境整備として相談業務の拡充として社会保険・年金制度やメンタルヘルスなど、各種の専門相談会も定期的に開催している。こちらは豊橋市が相談員5名でポルトガル語・英語・タガログ語の相談に対応しており、4月よりベトナム語・インドネシア語の相談にも対応となった。当協会の外国人総合相談窓口「INFOPIA」も相談員3名でポルトガル語・英語・タガログ語・ベトナム語の相談に対応している。それ以外の言語については、タブレット型端末による対応が11言語と、多くの言語に対応できる状況である。6月からは当協会もインドネシア語の相談に対応するように準備している。その他、通訳付きの各種専門相談会も定期的に実施している。
 外国人の日常生活向上については豊橋観光コンベンション協会との連携事業になるが、「外国人にやさしいまち 施設認証ステッカー」配布事業を行っている。これは外国人にも日本人にも暮らしやすい街づくりの推進を取組のひとつとして計画しているもので、今後増加が見込まれる外国人材、インバウンドの観光客も視野に入れた「外国人にも日本人にも暮らしやすいまちづくり」推進の取組である。外国人市民から聞き取りした日々の暮らしの困りごとから一定の基準を設け、施設・店舗の取組=利用しやすさの可視化を実施する。具体的な内容としては、メニューの外国語表示、写真掲載、スタッフの外国語または「やさしい日本語」対応可、Wi-Fi環境の有無、電子マネー決済の導入などである。取組を実施している事業所へ、ステッカーを配布し店舗等に提示いただき、二次元コード読取りで取組内容がわかり、対象事業所は協会WEBページからも情報提供する仕組みにしたいと思っている。観光コンベンション協会の協力をいただき、市内の多様な団体とも連携を取って今後も推進していく。
 続いて日本語教室の拡充である。豊橋市には80か国以上の外国人市民が暮らしている。日本での滞在が10年以上であるにもかかわらず日本語がほとんど話せない方もおり、豊橋市では、共通言語としての日本語を学習する機会の充実として、この秋冬にかけて2つの新規事業をスタートする予定である。国際交流協会では土日を中心に、毎日開催している「にほんごきょうしつ」に、対話交流型の会話クラスを増設し、初期日本語教室の学習修了者の受け皿を用意するとともに、入門・漢字検定など既存のクラスと合わせて学習者が段階的にステップアップできる、またどのレベルからでも学習ができるようさらなる充実を図っていく。すべての外国人市民が不自由なく生活を送れるような日本語を学ぶ機会を提供したいと思っている。
 次は災害時支援である。能登半島地震も記憶に新しい中、あらためて災害への備えの重要性が浮き彫りになった。言葉が通じなかったり、文化の違いなどからさまざまなリスクに直面し、災害弱者になってしまう外国人を支援するため、災害時通訳ボランティアの登録・養成を行っており平成22年に設置し現在の登録者は12国籍107名で16の言語に対応している。登録者のうちインドネシア・ブラジル・パラグアイ出身の外国人3名が、日本赤十字社愛知県支部で全国初の外国人指導員として活躍している。また、通訳者だけでなく地域住民も外国人のサポートができるよう「やさしい日本語」を習得するための講座も開催している。
 続いて、外国人材の活躍である。外国人市民が自身の能力を開発しながら地域社会で活躍できるよう機会を提供している。当協会では、外国人相談員2名、ベトナム人通訳1名、事務職スタッフ1名を採用し日々業務に取り組んでいる。先程紹介した「外国絵本の読み聞かせ親子の会」は、これまでに32名の外国人ゲストが世界16か国17言語によるお話会を開催した。そして災害時通訳ボランティアは登録者の半分が外国人ボランティアである。「とよはしザ・ワールド」は、地域のエフエム局であるエフエム豊橋との連携事業で、これまでは外国人材による母国紹介を行ってきたが、今年度よりリニューアルして、市民の方が気軽に利用できるように外国ルーツの店舗や施設を紹介しているので機会があれば聴いていただきたい。
 多文化共生情報提供の充実として当協会はウェブページやFacebook、インスタグラムを運営しており、特に今年の4月に開設したFacebookは正しい情報をタイムリーに多言語発信するものとして、豊橋市が提供する緊急情報や災害情報などの情報提供を行っていく。
 関係機関との連携は、豊橋市の多文化共生・国際課、防災危機管理課、市民協働推進課などと連携をしている。日本赤十字社愛知県支部とは救急法、幼児安全法や赤十字研修指導員研修の提供を受けており、先程も述べたがこれにより全国初の外国人指導員が3名誕生し、彼女たちは日々赤十字社の研修に母語で参加し日本語でも研修を行っている。当協会は平成29年に多文化共生事業の連携協力に関する協定を締結して、令和4年には事業推進取組が評価され感謝状を受領することができた。他にも名古屋出入国在留管理局・ハローワーク・東海税理士会・JICA・JICE・NHK名古屋放送局などとも連携をしている。そして市内の大学・高校、38ある国際交流団体、ボランティア、市町村国際交流協会との総合拠点機能を担えるように連携の強化を図っていく。そして各種団体の活動をバックアップするハブの役割を果たせるよう進めていく。
 最後に当協会の事業を通して皆さんが参加いただけるものを紹介する。最初は留学生活動支援事業「グローバルラウンジ」である。市内3大学に通う外国人留学生と市民が自由に集い、日本語や英語で気軽に交流しながらお互いの理解を深める場として、毎月第3土曜日午後1時からエムキャンパスのインターナショナルスペースで開催している。令和4年度の半ばからスタートしたばかりの新しい事業であるが少しずつ認知され、毎回60名~80名ぐらいの方が参加するイベントとなっている。高度外国人材と交流できるチャンスであるため、ぜひご参加いただければと思う。当初は人が集まるか心配であったが、豊橋技術科学大学の国際交流クラブの学生が積極的に参画してくれており参加者がとても増えている。新年度の2回目は6月15日の土曜日、入場無料・予約不要で途中入退場も自由であるので、ぜひご参加いただければと思う。
 次は、当協会の事業運営、日本語指導、ホームステイ、通訳・翻訳、災害時通訳ボランティアなどさまざまなボランティア活動の場としてである。ボランティア活動を通して、当協会の事業をお手伝いいただきながら、外国人との友好や理解を深めていただきたいと思う。
 最後に当協会は、事業の多くを豊橋市の補助金に頼っている。活動にご賛同いただき参助会員に加入いただけると嬉しく思う。

講演要旨② 
 私自身の研究分野は、防災学の分野ではなく政治学が専門である。現在所属している国際コミュニケーション学部では、政治学と国際関係論系の授業を担当している。専門分野となると安全保障に関する研究をしている。なぜ防災なのかというと、この研究テーマに着手するきっかけになったのは自衛隊の災害派遣に関する部分であり、その後もう少し大きなテーマということで海外の制度も含めて、国内で大規模災害や有事が発生した場合における政府または自治体の意思決定メカニズム、もしくはそれに関連する制度に関する研究をしているからである。
 本日の講演内容のひとつは能登半島地震の対応に関するものである。能登半島地震対応におけるデジタル技術の利活用が一体どういうものであったかを簡単に紹介させていただく。その上で、日本の防災分野や危機管理分野におけるデジタル化、もしくはデジタルトランスフォーメーションDXをどう進めているのかの話をする。加えて、愛知県や東海圏の自治体などのデジタル化やDXの現状についての話をする。
 最初に能登半島地震の話であるが、能登半島地震は今後日本が直面する大規模災害のモデルケースになると思う。特徴は従来の災害であれば被災地で被災された方を避難所に誘導するという形が一般的であったが、今回の能登半島地震は広域避難ということで、能登半島で被災された方を金沢市などへ移動してもらう2次避難、もしくはその途中の段階で県の施設に移動してもらう1.5次避難を実施したという点が大きな特徴である。また能登半島地震対応における復旧スピードが、例えば熊本地震と比べて速くないということが頻繁にメディアで取り上げられている。どうしてこうした事態になっているのかというと、能登半島地震の特徴や特殊性があると思う。ひとつは、地理的特性、つまり半島であり公共交通も基本的に自動車、道路に依存しているということであり、その生活インフラである道路が完全に寸断した状態であった。私が訪問した3月時点でも、自動車専用道路である「のと里山海道」はまだ一方通行であり、しかも直前になって通行止めが解除され、一般車両が片側を通って輪島までいけるという状況であった。通行止めが長い期間続いてしまっており、支援を外部から入れようとしても届かない、重機等を搬入することが難しい状態であったことが特徴である。
 もうひとつの特徴は、能登半島が過疎や高齢化の進んだエリアということである。能登半島のほとんどの自治体は過疎化が進み、現在進行形で人口が減少していたエリアになる。社会インフラの老朽化もかなり進んでいて、近年能登半島で地震が頻発していた影響もあり、インフラが脆弱化したところに地震が起きた。3月の段階でも、ほとんどの過疎エリア、特に珠洲市、輪島市においてはマンホールが飛び出している場所がたくさんあるなど道路が使えない状況になっていた。また、橋も橋脚の部分が沈んでしまうという形になって使えないものが多くあった。このような状況から復旧が始まるという状態であり、しかも能登半島地震を契機に、労働生産人口にあたる多くの人々が能登を離れていた。3月に避難所を訪問した際も、そこには高齢者の方しかいない状況で、広域応援で入っている自治体関係者が数名いるだけであり、そのため建物解体・撤去作業が進まないという状況となっていた。輪島市の火災があった中心市街地について、1月の状態と3月になった時点の写真を比較しても全く景色が変わっていない、つまり復旧が全く進んでいない状況であった。東海地方の自治体は能登半島の支援に入っているところが多く、その事例を持ち帰って今後の対策を検討することになると思う。
 それでは、実際デジタル技術はどれくらい利活用されたのか。メディア等でよく取り上げられるのはドローンの話が多かったと思う。今回は2つ取り上げ、ひとつは被災者データベースと呼ばれるもの、次が災害時に自治体が使う情報システムである。今回の能登半島地震対応でデジタル技術のある種の成功事例として扱われることが多いのが、被災者データベースの構築である。被災者データベースが必要になった背景は、先程話をした広域避難、2次避難、1.5次避難を実施した結果として、多くの人が自分たちが暮らしていた自治体から離れて別の場所に避難する状況が発生、実際にどれくらいの人がどこに避難しているのかを把握するのが難しくなったことである。そこで、デジタル技術を使ってこれを把握することを石川県が検討した。被災者台帳は、災害対策基本法の関係で必ず作らなければならない。これを正確な情報に基づいて作成するためのシステム利活用である。石川県の報道資料からになるが、被災者データベースということで、被災者の氏名、住所、被災の状況、どこに今いるのか、さらには要配慮事項についてもデータとして取り込み、それを6市町がデータベースにアクセスすることで必要となる被災者台帳の作成が可能になることを考えて作られ、災害関連死の防止、被災者への支援の必要な内容を正確に判断できるようになった。
 ここで注目される点は、官民連携によってこれを実現したことである。実際には自治庁と民間企業の協力があって実現できたシステムである。「防災DX官民共創協議会」という地方自治体99団体、関連企業が339社加盟している民間コンサルティング会社等が運営している組織がある。石川県がそちらに声をかけて加盟している企業ということで、データベースとシステムの構築に関しては「SOMPOホールディングス」が音頭を取って「Palantir Technologies Japan」がデータベースを作成した。また、避難所を移動される方や自宅に戻られる方を把握するため、スムーズに実現する方法として今回はJR東日本の「Suica」を使用した。このようにして民間企業との官民連携という形で実現することができた成功事例となった。
 もうひとつ注目を集めたのが災害情報管理共有システムと呼ばれるものである。石川県は総合防災情報システムを持っており、NTTデータ関西の「EYE BOUSAI」というシステムを導入していて、これは比較的新しいシステムであった。実際にこれを使って石川県に災害時における情報が集まってくる。このシステムを使うことで、効果的かつ効率的な意思決定や状況認識の統一を実現するためのCOP(共通作戦図)形成がサポートされる。災害時にはすべての情報を集めて、その上で関係者が全員に状況認識の統一をすることが強くBCP上求められるが、それを作るためのデジタルツールが災害情報管理共有システムである。このシステムに情報を市町が入力しなければいけない。なぜなら国に報告義務があり、消防庁4号様式で被災情報について報告しなければならないからである。Lアラートの関係もあり、被災した市町が県が用意しているシステムに入力し、県はそれを使って国に報告するという流れになっている。ところが、今回これを運用しようと思った時に問題が発生した。それが何かというと、ひとつは入力されている情報と現地の情報が合わないことである。どうしてかというと道路が寸断されてしまっており、市町の職員がどこに誰がどれだけ避難しているかを把握するのが難しくなっていたからである。自治体の職員も被災者であり、こうした状況の中で正確な情報を集めるのはとても難しい状況であった。また、市町の職員は膨大な業務量で目の前の対応に追われ、県のシステムに入力する時間がなくどうしても遅れが発生した。
 もうひとつ大きな問題となったのは、実際現地に支援に入る自衛隊やDMATが独自の情報システムを使っており、そちらに情報を入力している。システム間で石川県の「EYE BOUSAI」と自衛隊が使っているシステムとDMATが使っているシステムが連接できるか、情報共有ができるかというと、基本的にできない。さらに、仕様が異なりシステムとシステムを繋ぐハブの役割を果たすAPIを使ってもなかなか連携がうまくいかない。よって入力作業の負担、二重入力が発生する。そのため自衛隊やDMATが持っている情報は口頭報告になり、データとしてうまく残らない。こうした事態が発生することは、私を含めて多くの研究者がこれまでに指摘してきたことであり、内閣府防災もこの問題は把握していたにも関わらずまた問題が発生した。
 能登半島地震対応の特徴であったのは避難所のデータ集約・可視化アプリということで、石川県のシステムに避難所情報を入れる前に「SAPジャパン」が作ったシステムに情報を入れて、そこでクリーニングをして「EYE BOUSAI」に流すことによって正確な避難情報ができるシステムを作ったことである。これも石川県のデジタル通信課から「防災DX官民共創協議会」に連絡があり、実際現地にスタッフが派遣され、「SAPジャパン」「LINEヤフー」「サイボウズ」「NTTデータ関西」「日本IBM」が協力して情報共有できる状況を作ったということで、何とかやり取りができるようになった。このようにデジタル技術の利活用が実施されたわけであるが、大きな課題を抱えているという現状があらためて顕在化した。
 次に、防災分野におけるデジタル化やDXはどのような形で進んでいるのかについて話をする。デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術の活用に合わせて組織・プロセス・組織文化に「変革」をもたらすことであり、一般的には3段階紹介されている。1つ目がデジタイゼーションと呼ばれるアナログでやっていたことをデジタルデータにすることである。2つ目にそれを使って業務をデジタル化することがデジタライゼーションとなり、ここまでが俗に言われるデジタル化である。3つ目として、これらを使ってビジネスや行政のやり方を根本的に変えることがデジタルトランスフォーメーションとなる。
 続いて、危機管理分野について説明する。危機管理でDXをやることは、デジタル技術の活用に合わせて既存の組織・手法・モデルに「変革」をもたらし、新しい危機管理の仕組み(システム)を創出することである。防災は自然災害対策が日本の法制度上は想定されており、防災DXと言えば自然災害対策分野におけるデジタルトランスフォーメーションの実現である。国のデジタル化に関する文書の中で出てくる話であるが、国はこの話をずっとやっており、毎回挫折をして、また新たな政権で新たな看板として出てくるということを繰り返している。その証拠として、阪神淡路大震災の後に兵庫県は「フェニックス防災システム」を導入した。その時に提言していたことは、「関係機関の間で情報を共有する仕組みができていない、今後の方向としては、広域連携のために情報システムの標準化を図るべきだ、情報共有を推進する仕組みをするべきだ」と言っていた。これが20年前の話である。今はマイナンバーカードがあるが、当時は住基ネットでこれをやるという話もしていたが実現していない。日本の防災DXはどのような状況かというと、防災デジタル化についてレベルはデジタイゼーションとしてアナログのデータをデジタル化するという基礎的なところで足踏みをしている状況である。現在想定されている防災DXの方向性として日本政府は、災害対応に役立つ情報を集約し、災害対応機関で情報共有(データ連携)を行うための基盤という形で防災デジタル・プラットフォームを作ろうとしており、次期総合防災情報システムを今年度より稼働させている。これが日本の防災DXの国レベルの政策の現状の話である。
 次に都道府県の状態や地方自治体の状況はどうなっているかについて話をする。近年、私自身は民間の財団から研究助成をいただき、この調査活動をしている。それが全国における危機情報管理システム(CIMS)・災害情報管理システムの現状である。危機情報管理システムとは何かというと、先ほど紹介した石川県における「EYE BOUSAI」である。災害対策本部、EOC(緊急事態オペレーション・センター)における指揮・調整活動を支援するICTベースの情報共有・意思決定支援ツール、ソフトウェアであり、それがクライシスインフォメーションマネジメントシステムと呼ばれ、さまざまな被災情報や気象情報が一元的に映し出された地図を作ってくれるシステムである。実際、多くの大手企業が関わってシステムの開発を行い、政府並びに自治体にシステムの提供を行っている。多くの提供ベンダー存在するため、各社が提供するシステムを、全国の都道府県がそれぞれ使っている。最大手は「NTTグループ」であるが「NEC」「JRC」「IBM」などが作ったものを使われており、最近もある県はあるベンダーのシステムから別のベンダーのものに乗り換えをするなど日々変わっていくものであり、クラウドで運用している自治体もあれば、従来型のオンプレミスでシステムを使っているところもある。もし庁舎が被災したら、オンプレミス型は機能しなくなる可能性があり、最近はクラウド型が主流になっているが全国の自治体で運用環境はバラバラである。
 さらに、災害情報管理システムの機能といって、各県のシステムが持っている機能はどれだけあるのかを比較すると、自治体間で大きな格差がある。観測情報についても、システムで取り扱えるものについて自治体間で差がありバラバラである。また、システム間連携ができるのかと聞いたらほとんどの自治体間のシステムができないというある種のスタンドアローンな状況であった。先程話をした次期総合防災情報システムの設計に影響を及ぼしたSIP4Dというものがあるが、それに連接できると答えているのが25都道府県、つまり半分といった状況である。平時から外部システムにアクセスする運用訓練もほとんどされていないため、何かあったらぶっつけ本番の運用になる。災害時における組織間の情報共有というのは極めて重要であるが、こうしたシステムの状況から結局手段が大量の紙とファックスとメールになってしまうため、現地に大量の人を送り込まなければならなくなるのが今の日本の現状である。
 昨年度から政令市や中核市に関しても研究を始めているが、さらに県レベルよりも分散傾向が強まる。これがつなげられるかという問題になるが、つながっていないという回答が多い。自治体の職員は県のシステムに情報を入れなければいけないため、二重入力の問題が発生し非常に大きな作業負担を迫られている状況になる。これが都道府県や地方自治体が使っているシステムの状況である。日本の危機管理分野のデジタル化の現状としては、全国のあらゆる組織が使っている情報システムの整備状況がバラバラであり、システムの仕様に統一規格がなく、導入及び運用に関する明確なルールもない。それぞれ自治体の事情があり、民間企業の事情がある。その結果、導入及び運用は各県各自治体、さらにはシステムを提供するベンダーの自主性にすべて依存しているためInteroperabilityが期待できなく相互運用性が極めて低いことが能登半島地震であらためて顕在化した。自治体間で極めて大きなデジタル格差が発生しており、水平間でも垂直間でも情報共有に支障をきたしている。各自治体、各組織が使っているシステムの理解度、習熟度にもかなり大きな差があり、日本の危機管理は今でも紙とコピー機とファックスとホワイトボードが大活躍することとなりどこの災害対策本部にいっても、依然としてホワイトボードでやり取りをしている。
 2020年代の半ばにも入ろうとしているのにこうした状況が発生する背景についてはきちんと総務省も把握している。ICTへの投資が低迷してきたことは、人材が足りないということであり、多くの組織がデジタル化への不安感や抵抗感を抱えてしまっている。また日本の法律や行政制度は、ICT普及以前の様式を考えた慣習に依拠している。だからこそ世界的なデジタル化のランキングを見ると、日本はほとんど最下位に近い位置にいるのである。危機管理分野という緊急時に使う分野に関しては、今後の方向性として、情報システムの標準化に向けた統一規格作成及び導入、運用ルールを再検討しなければいけない。この分野における技術進化のスピードは急速であり、生成AIは典型例である。日本の行政や立法措置はその特性上このスピードには追いつけない。民間主導の官民連携で共通仕様・ルールを策定し、業界内に普及・定着させる必要性、つまり業界が自分たちで共通仕様というルールを作ってそれを定着させていく取組が重要になる。こうした意味で「防災DX官民共創協議会」がひとつの試みとして進められている。
 平時に使えないものは緊急時には使えないため、なるべく皆さんが普段使われているような汎用性の高いシステムであることも重要である。同時に、デジタル時代に適応した防災及び危機管理制度のあり方という意味を根本的に再検討しなければいけない時期に来ている。危機管理に関しても持続可能な形でオールハザード型の自然災害、技術的な事故、私が専門としている人為的な有事、大規模テロや戦争などに対応するための総合的危機管理体制への移行が求められており、それはデジタル化を通じた破壊的イノベーションである。今までのやり方を捨てなければならないし、その覚悟が日本には求められている。今であれば、まだ日本で実現できるだけの力があるが、これからその余力がなくなっていく。余力のあるうちにこれが実現できるかどうかが大きな鍵になる。