2025.12.23 第494回東三河産学官交流サロン
1.日 時
2025年12月23日(火)18時00分~20時30分
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
(株)ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)
代表取締役 社長執行役員 山田 一登氏
テーマ
『細胞をもちいた再生医療等製品の開発と品質確保』
講師②
豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 准教授 東城 友都氏
テーマ
『身近な土壌が発電する ~エネルギーハーベスティング技術~』
4.参加者
63名(オンライン参加3名含む)
講演要旨①
本日は「細胞をもちいた再生医療等製品の開発と品質保証」というテーマで話をする。当社は皆さんの体を作っている細胞そのものを製品として扱う事業を行っており、愛知県蒲郡市に拠点を置いている。蒲郡の本社には管理機能だけでなく、研究開発・製造・営業のすべての機能が集約されており、他の地域に支店を持たないという非常に珍しい体制をとっている。設立は1999年2月1日で、現在は「再生医療をあたりまえの医療に」というビジョンを掲げて事業を推進しており、親会社は帝人株式会社である。
当社の事業セグメントは大きく分けて3つである。1つ目は患者さまご自身の細胞を使った再生医療等製品の開発・製造・販売を行う再生医療製品事業である。2つ目はアカデミアや他企業から依頼を受けて、再生医療分野における製品開発、製品製造の経験・ノウハウを活用した再生医療に関する受託サービスを行う再生医療受託事業である。そして3つ目が研究用ヒト培養組織の開発・製造・販売を行うラボサイト事業である。ラボサイト事業について補足すると、現在、化粧品などの開発においてヨーロッパを中心に動物を用いた安全性の実験が禁止されており、その代替法としてヒトの細胞から作った組織を用いた安全性を評価するための製品を開発・販売している。
1つ目の当社の主力である再生医療製品事業については、患者さまご本人から採取した細胞を培養して増やし、その患者さまご本人に移植する「自家移植」を対象としており、一人ひとりの患者さまに合わせた「究極のオーダーメイド製品」を提供する事業と言える。具体的な流れとしては、まず病院で医師に組織を採取していただき、それを当社が預かって細胞を増やす。その後、患者さまごとに厳格な出荷検査を行い、梱包・出荷をして、手術の時間に合わせて病院へお届けするというサイクルを確立しており、再生医療製品として当社は日本国内で5つの製品について国から製造販売承認を取得している。1つ目の製品は自家培養表皮の「ジェイス」で、これは国内第1号の再生医療等製品である。重症の火傷や、色が黒くなっている母斑、あるいは皮膚が剥がれやすい表皮水疱症といった病気の治療に使われる。2つ目の製品は自家培養軟骨の「ジャック」で、膝の軟骨欠損の治療に用いられるが、現在は変形性膝関節症への適応拡大に向けて保険手続きを進めている。3つ目と4つ目の製品は眼科領域の製品で、自家培養角膜上皮の「ネピック」と自家培養口腔粘膜上皮の「オキュラル」である。これらは角膜を治すためのものであり、もし両目の細胞が悪い場合でも口の中の粘膜が角膜に近い性質を持っていることを利用して治療を行う。5つ目の製品は、メラノサイトという色素を出す細胞を含んだ自家培養表皮の「ジャスミン」で、皮膚が白く抜けてしまう白斑という病気の治療に使用される。
ここからは、第1号の製品である「ジェイス」の開発と品質保証の歩みについて詳しくお話する。この製品の基礎となる技術は、1975年に米国ハバード大学のハワード・グリーン教授らが、マウス細胞とヒト表皮細胞を共培養することでヒト細胞が良好に増殖することを発見したことに始まる。日本では1985年に聖マリアンナ医科大学の熊谷教授によって、初めて広範囲熱傷への移植が報告された。
当社の設立は、蒲郡市にある眼科医療機器メーカーの株式会社ニデックが、21世紀に向けた新規事業として再生医療の可能性に注目したことがきっかけであった。当社は1999年、株式会社ニデックのほかに、富山化学工業株式会社、株式会社INAX(当時)、株式会社東海銀行(当時)から出資を受け設立された。設立当初、私たちは「細胞を増やして戻すこと」はサービス業として成立すると考えていた。しかし、事業を開始してすぐに厚生労働省から通知が出され、細胞加工サービスであっても薬事承認が必要であると定義された。私が入社した2000年頃のことであるが、これによって「こんなはずではなかった」という困難な状況に直面した。承認を得るためには、現在では廃止された「確認申請」という手続きを含め、膨大なデータを揃えて治験(臨床試験)を行う必要があり、最終的に「ジェイス」が承認されるまでに約10年、軟骨の「ジャック」にいたっては約13年という非常に長い年月を要した。当時は「細胞を用いた製品」に適合する適切なルールがまだ存在せず、国からも医薬品なのか医療機器なのか判断が難しいと言われる中で、私たちは手探りでデータを蓄積していった。開発にあたっては、多くの大学などと連携し、他の製品開発も含めて23施設から1,481もの研究用ヒト組織を入手し、細胞の特性解析を行った。例えば、ヒト表皮細胞がどれくらい増えるのか、不要な細胞が混ざっていないか、さらには染色体への影響やがん化の否定といった安全性試験も多岐にわたって実施した。今では体の組織から採取した細胞のがん化リスクは非常に低いと知られているが、当時はがん化しないことを証明するために、様々な試験をやり遂げなければならなかった。
製造施設についても、最初は小さな建物から始まったが、建設後に医薬品に近いレベルの厳格な基準が求められることとなった。国の認可を獲得するために、愛知県の補助金なども活用しながら、大規模な細胞培養施設を新たに建設した。また、再生医療において製造と同じくらい重要なのが「輸送」である。私たちの製品は生きている組織であるために、有効期限がわずか2日から3日しかない。組織構造を壊さないための特殊な製品パッケージを容器メーカーと共同開発し、細胞の生存を保てる狭い温度帯を維持するための輸送ボックスも用意した。また、手術の時間に合わせて確実に届けるため、もし台風などで交通機関が止まる恐れがある場合は、当社の社員が直接病院まで運んでいる。
こうして承認を得て販売が始まったが、それはゴールではなく、むしろそこからがスタートであった。再生医療という新しい医療を現場に浸透させるためには、医師や患者さまが当社の製品を理解することが重要であり、医師や患者さま向けの手引書を作成し、営業担当者が医療機関毎に講習会を行うといった丁寧に使い方の啓蒙活動を実施している。火傷の治療は、どの病院でも頻繁に行われるものではないため、医師が使い方を忘れていることも想定して、毎回しっかりと説明しミスが発生しないようサポートを行っている。
また、実際に多くの症例を経験することで、開発段階では分からなかった知見も得られた。使用する医師が工夫をされることで当初想定した使い方と変わる場合もあり、新たな方法などフィードバックを受けて他の医師にも伝えていくといった活動もしている。このように、最初の臨床試験ではっきりしなかったことも、実際多くの病院で試してもらうことで最適な使い方に導かれていくことを実感している。また、市販後のデータ分析に基づいた製造・品質管理のアップデートも必須である。例えば、やけどの患者さまに対して、当初は標準的な採取量として、10枚の製品を作るために3㎠が必要と想定していた。しかし、実際に数を作っていくと患者さまの年齢によって必要な皮膚組織の量が異なることが分かってきており、現在は年齢層に応じて必要な採取組織量を医師に周知するといった経験の積み重ねによるアップデートが品質を支えている。
このように、実際に研究を行って開発し、製品化してさらに事業化するまで多くのハードルがある。うまく回避したということは少なく、当社のこれまでの道のりは、いわば「地雷原」を歩むような困難の連続であった。しかし、当社がこれまで踏んできた地雷のひとつひとつ、そして乗り越えてきた経験が、実は他社には真似できない貴重なノウハウとなっている。現在では、そのノウハウを活かして、新しく参入する企業へのコンサルティングや製造受託を行うという新しいビジネスにおいて強みとなっている。
最後に、当社は「再生医療の町・蒲郡」として、地元蒲郡市との連携も深めている。小学生を対象としたサイエンス・ワークショップの開催や、再生医療への理解を深めるための「再生医療の日めくりカレンダー」を作成し蒲郡市内の小学校に配布するなど、次世代への教育にも取り組んでいる。白斑の治療に関しては、蒲郡市民病院や名古屋市立大学と連携し、日本で最も多くの症例を扱う体制を整えており、市民向けの公開講座も来年行う予定である。「再生医療をあたりまえの医療に」というビジョンの実現に向けて、現在まだ事業として安定軌道に乗るまでの途上ではあるが、全社一丸となって邁進していきたい。
講演要旨②
本日の講演題目は「身近な土壌が発電するエネルギーハーベスティング技術」である。私は現在、豊橋技術科学大学大学院工学研究科の機能電気システム分野に所属している。ここでは、材料を作製し、それをデバイス化して電力をうまく運用していくための研究をしている。専門分野は、電気・電子材料、電気化学、電気電子計測、そしてシミュレーションを用いた電池材料設計などである。経歴として、長野県飯田市の出身で出身大学は信州大学であり、大学院ではカーボンナノチューブの発見者の一人である遠藤守信先生の研究室に所属していた。当時は炭素材料を生体センサーとして生体に活用する研究を行っており、今回のテーマである微生物電池も、もともと生体や生物に興味があったことから発展したものである。博士号取得後は静岡大学での研究員生活を送り、炭素材料の研究成果により論文賞を受賞した。その後、豊橋技術科学大学の助教に着任したが5年の任期であったため、一旦外部の大学へ出て、再び戻ってきた。これまでの研究の概要としては、大容量リチウムイオン電池の高容量化と安全運用のための研究や、希少金属を安価なイオンに置き換えた低コスト電池の研究である。これらには炭素材料、無機材料、有機材料といった材料の合成から、電池出力を制御する回路設計までの幅広い知識が必要となる。こうしたセラミックス材料の研究に加え、現在非常に関心を持っているのが微生物の代謝活動を利用した微生物電池である。
微生物電池は、数十ミクロンからサブミクロンという目に見えないほど小さな微生物を利用するため、当然発電できる電力は非常に小さい。しかし、この微小な電力をいかに有効活用するかが本研究のモチベーションとなっている。主な用途として想定しているのは、農業や水産業の分野である。最近注目されているスマート農業・スマート水産業では、土壌センサー、温湿度センサーなどの環境データを測定し、経験に頼らない生産を目指している。電源については、先程話をしたリチウムイオン電池の導入も考えられるが、リチウムイオン電池はその材料自体が高価であるため、中小規模の農業への導入にはコストが見合わない。また、風力や太陽光発電は、無風時や夜間に発電できないという出力の不安定さがある。そこで、わずかなエネルギーを収穫するエネルギーハーベスティング技術の一つとして、微生物電池に着目している。スマート農業、スマート水産業等のシステムでは、センサーやカメラなどを使う。入力デバイスとしてセンサーで温湿度や土壌の水分量、養分などの情報、カメラで植物の生育状況といった画像情報を取得する。この取得したデータを無線通信などの出力デバイスを通じてサーバーへ送る必要があり、こうしたデバイスをうまく活用する技術が重要となる。こうしたセンサーやカメラを駆動させるための電源として、エネルギーハーベスティング技術に注目している。エネルギーハーベスティング技術には、光、湿気(水)、温度差、摩擦、圧力や振動などを利用するものもあるが、その中でも微生物電池は、有機物が存在する限り24時間天候に左右されずに稼働できる大きなメリットがある。
微生物電池の基本的な仕組みとして、土壌に2本の電極を挿すことで発電が可能になる。しかし、単純に同じ電極を2本挿しただけでは発電せず、片方の電極に発電菌を蓄積する必要がある。この発電菌は酸素を嫌う菌であり、嫌気性発電菌と呼ばれている。片方の電極側(負極)は酸素を完全に遮断した状態にすると、酸素を嫌う発電菌が電極に集まる。もう一方の電極(正極)に酸素を供給すると発電菌が逃げていき酸素のみ通気される。発電菌が土壌中の有機物を分解する際、二酸化炭素(CO₂)、電子(e⁻)、プロトン(H⁺)を放出する。これは人間が食べ物を摂取してエネルギーを得る生体反応と同様である。人間の場合は、酸素も使用する。発電菌の代謝活動中に電極間へセンサーなどの外部負荷を接続すると、電子が移動して電流が流れ、エネルギーが供給される。正極側では、電子とプロトン、そして酸素が反応して水が生成され、継続的な発電が行われるのである。この土壌型微生物燃料電池は、微生物の代謝と土壌中の物質移動に依存するため、取り出せる電力は数10μW~数100 μW級と微小である。この特性は、材料や回路設計の改良だけで劇的に改善できるものではなく、生物学的・物理学的な制約に根差した本質的な特性である。しかし、この出力レベルを「限界」と捉えるか、「設計条件」と捉えるかで、技術の価値は大きく変わる。太陽電池や二次電池の代替として高出力を競う技術ではなく、小さな電力を外部補給なしで、長期間・自律的に供給できる点に本質的な強みがある。微小な電力エネルギーであるが、コンデンサー等に蓄積し、瞬間的に放出することでデバイスを動かすことが可能になる。
この応用例として尿糖計測がある。円筒形状の容器の正極、負極の間に短絡しないようセパレーターを入れ、負極にあらかじめ発電菌を培養しておくと電池が構成できる。ここに尿を入れると、含まれる尿の糖分が計測できる。というのは、糖の濃度が高くなると、発電菌が糖を分解して発生する電流量が増加するため、それを測定することで糖分を計測できる。他に汗発電も研究されている。汗の成分として乳酸などがあるが、正極・負極を作り、負極に発電菌を培養しておき皮膚に接触させると、汗がある時に発電するためウェアブルセンサーや皮膚健康モニタリングへの応用が期待できる。このように微生物電池は小さなエネルギーであるが、様々なアプリケーションへの応用が考えられる。
農業用センサーは、低電力でも土壌水分・温度・養分などの測定が可能であり、微生物発電の電池交換不要という特性は、広域・長期運用に有利である。また、取得したデータの送信についても、常に通信するのではなく、データが溜まった段階で通信するという形であれば微生物電池が使えるのではないかと考えている。一方で、農業用監視カメラの駆動には大きな課題がある。写真1枚を撮影するには2W以上の電力が必要と試算され、これは微生物電池の発電出力の約10万倍に相当する。このため、電極サイズを大きくするだけでなく、エネルギーを一定時間蓄積し、必要な出力が得られた時にのみデバイスを駆動させる精緻な回路設計が不可欠となる。
微生物電池の性能は、土壌の採取時期や場所によって変化する。我々が採取している土壌について、9月に採取した土壌にはエロモナス菌、11月にはエンテロバクター菌が主に存在し、それぞれ発電時の電圧が異なることが分かっている。このように、土壌の採取場所や時期によって発電菌量や菌種が異なり、発電性能が変化する。嫌気性微生物が発電するメカニズムは、菌種が異なってもおおむね同じであるが、電流量をより増やすための電極作りを研究している。カーボンフェルトの表面に有機物を捕集できる分子を修飾することで、発電菌が電極に寄ってきやすくして電子の授受を効率化する試みである。
実際の研究プロセスでは、豊橋市役所から許可を得て市内の土壌を採取し、泥水を遠心分離して染色実験や電気泳動などにより発電菌の存在を確認する。発電菌の存在が確認できれば、実際に安い部材を使って簡易的な電池を作製し、有機物添加後の起電力や通電電流といった出力特性を確認し評価できる。発電菌の解析については、走査型電子顕微鏡や蛍光顕微鏡による観察、質量分析、リアルタイムPCR検査などを行って、菌の種類を把握する。同時に使用する電極の構造解析として、炭素欠陥量、比表面積、細孔径・密度等を測定し、電子伝導性や菌の住みやすい空間の広さを把握した上で、電池の評価や構造解析を進めている。
現在、回路設計の工夫により、コンデンサーに電力を貯めて瞬間的に放出することでセンサーの間欠動作を達成することを進めており、センサー自体の間欠動作の達成まで確認している。しかし、より電力が必要となるカメラの動作までは至っていないため、微生物電池のさらなる改良が必要と考えている。こうしたエネルギーハーベスティング技術を東三河地域の農業や水産業に適用することで、農作物の不作の低減、海産物の不漁低減という形で地域に貢献することを目指して今後も研究を進めていく。
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