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産学官民交流事業

2025.8.26 第490回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2025年8月26日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 建築・都市システム工学系 准教授 横田 久里子氏

  テーマ

『東三河の水環境』

  講師②

Craif(株)CLO 法人部門責任者 豊田 高行氏

  テーマ

『名大発スタートアップ Craif が挑戦する最先端のがん対策』

4.参加者

62名(オンライン参加10名含む)

講演要旨①
 水環境として、空から降ってきた雨粒が地上に降り注ぐ。それが一部地下に浸透しながら、あるいは地表の表面を川となって流下していき、最終的に海に流れ込む。その海水が蒸発して大気中の水蒸気となり、雨粒の条件が整えば重力に逆らうことなく地上に降ってくる。こうした水環境の中で、私の主な研究対象は河川である。
 私が研究に際して心掛けていることは、川の流速、流量、濁り成分、プラスチックごみなど目に見える“もの”の定量化と、ミネラル分や栄養塩、亜鉛、水銀などの微量成分、濁り成分の中身など目に見えない“もの”の定量化である。これらを数値化して解析する目的で、研究室の学生とともに現地調査を中心に活動している。研究の対象としてはその水質が三河湾に対して貧栄養・富栄養、貧酸素水塊の発生を引き起こすというようなものと、水性生物への生態影響が考えられるものをターゲットに研究をしている。本日は、栄養素では窒素とリン、プラスチックでは大きなマクロプラスチックと小さなマイクロプラスチックについて触れる。また川は、晴天時と降雨時では大きく様子が変わってくる。加えて、上流から下流にかけてどのように水質が変わっていっているのかを紹介したいと思う。
 愛知県内のアサリの漁獲量は、20年間全国1位を続けていたが、2024年に北海道に抜かれて2位に転落した。この地域の特産であったアサリの漁獲量が激減していることが、海の異変を現わしていると思う。私がターゲットとしている1つは赤潮で、もう1つは赤塩が発生した後の影響ということで、苦潮(青潮)がある。瀬戸内海等ではもう赤潮、青潮が発生しなくなっているような貧栄養が問題になっているが、三河湾は令和5年でも赤潮も青潮も発生していて、毎年継続して発生する状況が続いている。赤潮は、プランクトンが異常に増殖し、そのプランクトンが持っている色素が赤色であれば水面が赤色に見えるものである。苦潮(青潮)は化学物質が水面に出てくると大気の酸素と結合して水の色が青色に見えるため、青塩とも呼ばれる水質の現象である。他にも少し古い事例であるが2011年には、三河湾の水質悪化に伴いアサリの稚貝が大量死する事案が発生したが、貧酸素水塊が原因と言われている。水の中に酸素が供給されるルートは大きく2つあり、1つは、海藻などが光合成をすることによるものである。それ以上に水の中に酸素を供給するのは、私たちが吸っているこの21%の酸素を含む大気が、水面から水の中に溶け込んでいくものである。しかし気温が高い夏場の水の特徴として、表層は暖かい水、下の方は冷たい水になっており、暖かい水と冷たい水では重さが変わってくる。冷たい水は重いので海の底にあり、重い冷たい水の上に暖かい軽い水が乗っている状態になる。そうすると成層化と言って重いものの上に軽いものが乗って安定し、水が動かなくなることにより表層に溶け込んだ酸素が下の方に回らず、底層に酸素が供給されない状況になる。また底の方には生物の死骸等が沈降しており、これを微生物が酸素を使って分解していくと、酸素が全くない貧酸素水塊という水の塊ができ、これが問題になる。2020年になり環境基準に新しく底層の溶存酸素量が追加されるなど、水環境も時代背景や環境を重視しながら様々な見直しが行われている。
 それでは、海の水は何の影響を受けるのか、それは私たちが生活している陸域である。三河湾にはそこに流入する川があり、上流から下流に水は流下していく。その過程で様々な水の浸透によって河川の流量が増えていき、その中に多様な物質が溶け込んでいる。水田などの農地、家庭、下水処理場、工場等の排水が川に流れていき、そこに含まれる物質も一緒に下流に流れていく。こうした排水の中には窒素やリンなどが含まれており、これが三河湾に流入すると富栄養化が進行し、プランクトンが異常に増殖するようになって赤潮が発生する。赤潮が発生するとプランクトンがたくさん存在するため、呼吸をすることにより水の中の酸素を消費してしまう。さらに生態系のメカニズムとしてライフサイクルがあり、プランクトンが死滅すると海の底に沈降していくが、普通の生態系以上のプランクトンの死骸が海底に溜まっていくことにより貧酸素水塊が広域に拡がり、そこには有害な硫化水素等も含まれている。これが海の底に留まっていれば問題ないが、強い風が吹くと水は風の勢いで簡単に動くため、吹送流として表層の水が移動すると湧昇流として海の底の水が表層に出てくる。こうして表層において大気中の酸素と貧酸素水塊が接することとなり、水の色が青白く変色する苦潮(青潮)が発生する。これは有害な硫化水素を含んでおり、酸素がない水の塊であるため、アサリの稚貝が生息しているような干潟域に青潮が移行してしまうと、大量にアサリの稚貝が大量死するというような漁業被害が発生する。ここまでが研究の背景である。
 三河湾に対しての陸域の影響として、河川の水質調査を行っている。一番大きいのが一級河川である豊川であり、他にも東三河地域では約40の川が流入している。これら河川において、潮汐の影響を受けない下流端で調査して水質分析を行った。河川には全窒素や全リンの環境基準はないが、三河湾には環境基準がある。三河湾の全窒素の環境基準は0.6mg/ℓ以下、全リンは0.05mg/ℓ以下という環境基準であるが、三河湾に流入する全ての河川からこの環境基準以上の水が流入していた。そこで多くの川の中で、どの川が三河湾に影響を大きく与えているのかを考えた場合、この濃度だけを見ていても不十分である。環境基準で測っているものは1ℓあたりの物質の量であるが、三河湾へ流れ込む川の流量が大きく異なり、濃度に流量を掛け合せて私たちは負荷量というものを見ている。これは、その川の断面から1秒間あたり何gの窒素やリンが流入しているのかというものを計算したものである。例えば、豊川は全窒素について梅田川の濃度よりもはるかに低いが、負荷量で見ると梅田川よりも約10倍程度負荷が大きくなっており、三河湾に対しての負荷量で見ると決して小さくないということが分かる。豊川の流量は三河湾に流入する東三河の河川全体の約8割であり、梅田川の流量は豊川の25分の1程度であるが、全リンの負荷量は豊川の14倍となっている。このように全窒素では豊川、全リンでは梅田川が三河湾に対して大きな影響を与えている。豊川は森林河川、梅田川は農地河川であり、加えて市街地河川の柳生川も主な調査対象としている。
 次に視点を変え、梅田川と柳生川において上流と下流で水質がどのように変わっているのかを調査した。梅田川の場合、上流と下流を比較すると流量が220倍になっていた。それに対して浮遊物質量は470倍、クロロフィルは1,400倍、リン酸イオンは1,000倍に増加しており、流量が増える以上の物質が水の中に溶け込んで下流に流下して三河湾に流入していた。これは私たちの人為的な活動が、川にそれぞれの汚染物質を流入させて負荷になっていることを表している。数字を単純化して流量を1とした場合に、浮遊物質量は2倍、クロロフィルが6倍、リン酸イオンが5倍という負荷になっている。同様に柳生川の調査結果を表すと、流量が1に対して浮遊物質量が10倍、クロロフィルが5倍、リン酸イオンが3倍程度の負荷となっていた。また川は、晴れと雨天では全く様子が異なる。梅田川では雨が降ると茶色の濁った水が流下していく。その時の水質の変化を調査すると、窒素は晴天時が高濃度のため、降雨により希釈され濃度は低下した。リンは晴天時に低濃度であるが、降雨により流出し濃度が増加しており、窒素とリンの流出の挙動が違うことが分かった。川や三河湾の水質を調査する場合、晴天時だけではなく降雨時の調査も実施しなければならない。
 5年前からプラスチックに関する研究も始め、梅田川と柳生川で実際に調査を行っている。プラスチックをマクロプラスチックとマイクロプラスチックという2種類に分別している。マクロプラスチックは、目で見える大きなもので主に5㎝以上のものである。調査対象は柳生川を市街地河川のサンプルとして,浜田川を農地河川のサンプルとして選定した。柳生川の調査地点より上流の流域面積は17.3㎢、平均流量は毎秒0.41㎥である。浜田川の調査地点より上流の流域面積は16.9㎢、平均流量は毎秒0.57㎥となっており、どちらも豊橋市から三河湾へ流入する河川で流域の規模はほとんど同じである。本来ならば、川の変化が大きいのは雨の時であるが安全に調査をすることが重要であるため、雨で増水した川の水が引いた後に、河川敷に漂着しているものを学生と一緒に採取している。決めた10m×2.5mの区域のプラスチックを全て採取する。雨が降って増水してプラスチックが漂着するとまた採取するということを繰り返している。降雨後調査では、浜田川で149.4g、柳生川で55.7gのプラスチックを採取した。プラスチックの組成を質量ベースの割合で比較すると、浜田川で最も大きな割合を占めていたのがPVC(ポリ塩化ビニール)で全体の51%を占めていた。2番目がPE(ポリエチレン)で40%を占めており,この2種類のプラスチックで全体の9割以上を占めていた.柳生川で最も大きな割合を占めていたのはPEで38%、次に多かったのがPET(ポリエチレンテレフタレート)で34%,その次がPP(ポリプロピレン)で22%であり、この3種類のプラスチックが全体の9割以上を占めていた。浜田川と柳生川を比較するとPVCとPPの割合に大きな違いが見られる。PEは農地ではマルチシートとして、市街地ではレジ袋やポリ袋等によく使われるプラスチックでありどちらの河川でも多く見られるプラスチックであった。浜田川で見られるPVCは黒いホースの切れ端がそのほとんどを占めており,農地で使われ廃棄されたものが河川に流入していると考えられる。柳生川で見られるPPはお菓子や食品の包装などに使われているものが多く、原形を保っているものや商品名を特定できるものもあった。PETは不織布等のポリエステル製品が特に多く,コンビニで貰えるおしぼりや制汗シートくらいのサイズのものが原形を保った状態で多く漂着していた。これは浜田川でも確認できたが、柳生川の方が漂着した質量が大きかった。
 他に晴天時調査も実施している。調査の方法は、川の中にネットを張り、全量このネットに引っ掛かったものを採取している。晴天時調査では、浜田川で0.21g、柳生川で3.59gのプラスチックを採取した。プラスチックの組成を質量ベースの割合で比較すると、浜田川で最も大きな割合を占めていたものがPEで全体の約95%を占めており、その全てが0.1g以下の微小なプラスチック片であり、PPは約5%であった。柳生川ではPEが69%でPVCが23%,PPが7%を占めていたが、浜田川と柳生川を比較するとPVCの割合に大きな違いが見られた。柳生川で採取したPVCはその大半をタバコの吸い殻が占めており、浜田川では一度も確認できなかったため、これは市街地特有のプラスチックと言える。
 次に組成毎の平均質量を比較すると,降雨後の浜田川と柳生川ではPVCを除いてほとんど差はなかった。PVCについては前述した黒いホースの切れ端の質量が非常に大きかったためこうした結果になった。降雨後と晴天時を比較すると、降雨後の平均質量の方が極めて大きく、浜田川は40倍以上、柳生川では3倍以上であった。このことから,降雨時にはプラスチックに大きな力が働くため重いものが流入しやすく、反対に晴天時は軽いモノが流入する傾向があることが分かった。しかし,晴天時の浜田川と柳生川を比較すると、その平均質量には大きな差があるが、これは柳生川では原形を保ったプラスチックが多く流下しているためである。浜田川のサンプルは全てが0.1g以下だったのに対して,柳生川では1gを超えるプラスチックも多く見られた。このように、柳生川では降雨のような大きな力が働かない晴天時においても質量の大きなプラスチックが河川に流入していることから、降雨以外にも質量の大きなプラスチックの流入原因があると考えられ、発生原因や流入原因が多様に存在していることが市街地河川の特徴だと言える。
 次に小さなマイクロプラスチックを見ていく。採取方法は川の中に入り、バケツを使って採取する方法で調査を行っている。マイクロプラスチックの中には、肥料被覆殻やタイヤ片も見つかっている。農地の浜田川と市街地の柳生川を比較すると、どちらも晴天時の方がマイクロプラスチックの流出量が少なく、市街地河川の柳生川より農地河川の浜田川の方がマイクロプラスチックの流出が多くなっていた。降雨時には上流から下流へ流量が7倍増加するのに対して、農地河川の浜田川では1,300倍のマイクロプラスチックが流下しており、かなり負荷のかかるマイクロプラスチックが流出していることが判明した。市街地河川の柳生川も150倍の負荷量になっているが、農地河川の浜田川と比較すると10分の1程度であった。こうして見ると、マイクロプラスチックの環境への負荷は、農地河川の降雨時に最も多く流出するということが分かった。
 次に雨の降り始めから降り終わりまでどのように変化しているかを調査した。梅田川では調査日に流量が1.5倍程度の増加したのに対してプラスチックの負荷は2.5倍に増えていた。雨が降った時は流量以上に負荷が増加しており、雨のピークよりも前に負荷のピークが出ているという結果であった。同じ調査を浜田川の上流と下流でも実施したが、浜田川の下流では5倍という梅田川以上の負荷がかかっていた。梅田川は流域に農地だけではなく市街地もある程度存在しているが、浜田川の流域は大部分が農地であるため、農地河川はマイクロプラスチックが窒素やリンと同様に環境負荷が高い地点であることが分かった。
 私が研究しているのは川であるが、川は川だけの問題ではなく、海の問題に直結している。海洋生態系の影響は、三大ストレスと言われている。1つ目の水温上昇は、地球温暖化で気温が上昇し、その影響により水温が上昇する現象である。2つ目の海洋酸性化は、海洋が二酸化炭素を吸収した結果、海水が弱アルカリ性から少しずつ酸性方向に変化する現象である。3つ目の貧酸素化は、海水中の溶存酸素量が低下する現象である。それ以外にもプラスチックごみも問題にもなっており、今後も学生とともに調査・研究を続けていきたいと思っている。

講演要旨② 
 Craif株式会社は、2018年創業のバイオAIベンチャーであり、バイオマーカー解析基盤とAI技術を活用した次世代がんリスク検査の開発に注力している。検査キットを用いて自宅などで採尿し、宅配業者に渡して結果を待つという非常に簡単なものである。当社のビジョンは、「人々が天寿を全うする社会の実現」である。
 当社が提供するがんリスク検査「マイシグナル・スキャン」は、その技術の先進性・革新性・将来性が高く評価され、中日新聞社賞、東京都ベンチャー技術大賞をはじめとする数々の賞を受賞している。この「マイシグナル・スキャン」は尿の中の「マイクロRNA」を解析して、自分ががんに罹患しているかのリスクを判定するものである。このスキャンでリスク判定できるのが10種類(食道がん・乳がん・肺がん・胃がん・すい臓がん・腎臓がん・大腸がん・卵巣がん・膀胱がん・前立腺がん)のがんであり、男性の場合は乳がんと卵巣がんを除く8種類、女性の場合は前立腺がんを除く9種類のリスク判定が可能である。日本でのがんによる死亡数の約8割をカバーしており、死亡数が1位の肺がん、2位の大腸がん、3位のすい臓がんなどもステージ1の早期から検知できるという特徴がある。自宅で簡単に受検できて食事制限などもないため、忙しい方にも受けてもらいやすい検査となっている。今年の7月にこれまで7種類のがんが特定できる状態であったところに、3種類追加して10種類となった。今後も医療機関との取り組みの中で判定できるがんの種類を増やいしていく計画をしている。検査結果は、リスクが低/中/高の3段階で示され、もし特定の部位のがんのリスクで中リスク以上の判定が出た場合、部位に応じて推奨される精密検査を案内している。
 当社は、健康な方の中からがんの疑いがある方を早期に発見して精密検査に送るといった役割を担っている。「マイシグナル・スキャン」の一番の特徴は、どの部位ががんの疑いがあるのかという部位特定ができる点と、早期で発見が可能なことである。がんを早期に見つけて、早期治療を実現することにつながる検査として採用いただいている。
 「マイシグナル・スキャン」は、検査で何を見ているのか。他にも血液・唾液・尿などの体液を使った検査があるが、それがポイントではなく、その中に含まれるどのような物質を見ているのかが非常に重要である。「マイシグナル・スキャン」で解析している物質は「マイクロRNA」というもので、昨年のノーベル賞の受賞対象にもなった近年医療界から注目を集めている。「マイクロRNA」は細胞が送るEメールのような細胞同士のコミュニケーションを仲介する機能を持っており、2000種類以上存在することが確認されている。がん細胞は増殖するために、様々な種類の「マイクロRNA」を、迷惑メールのように自分の周りの細胞に対して撒き散らしていることが分かっており、この特徴を利用してがん細胞特有の「マイクロRNA 」が尿の中に出ているかを解析して、がんのリスクを判定するのが「マイシグナル・スキャン」の基本的な仕組みである。この「マイクロRNA」のアプローチに関しては、がん細胞の大きさに関係なく、がん細胞が活動さえしていれば発現している特徴を生かして、早期ステージのがんに関してもリスク判定ができるといったものである。当社は、これまで20以上の特許を取得し、国立がん研究センターや大学病院など50を超える施設と連携して、今月時点で約5万件のデータベースを構築している。がんが確定された方の尿からがんの方に現れる特定の「マイクロRNA」の発現パターンを解析している。これまで当社が集めたデータの中から、各部位のがんの方には何番の「マイクロRNA」がどれくらい出ているのかという共通項を見出しプロファイリングをし、受検者の解析データが健康な方の「マイクロRNA 」の発現パターンに近いのか、あるいは特定のがんの方の「マイクロRNA」発現に近いパターンなのかを分析することにより、現在のがんリスクを判定するという仕組みである。
 また、「マイクロRNA」はすい臓がんに対して、既存の血液検査(CA19-9)を上回る性能を発揮するという研究結果を医学誌で公表している。すい臓がんは早期発見が困難で、早期発見できないと切除が難しく薬物治療が中心になる。現在、自覚症状がない方向けのすい臓がんの検査としては、血液検査、正確にいうと腫瘍マーカーによる検査が一般的である。しかし腫瘍マーカーは、がんと確定された方の治療の状況を確認するためのツールであり、早期発見にはあまり適していないと以前から言われていた一方で、代わりになるツールがなく現在も使われている。この腫瘍マーカーによる検査と「マイクロRNA」による検査の比較が論文の内容である。その結論として腫瘍マーカーによる検査は4割を切る精度であったのに対し、「マイクロRNA」を使った検査は9割を超える精度で発見できた。こうした取り組みより、人間ドックのオプション検査で「マイシグナル・スキャン」を扱っていただく提携の医療機関数は現在1,500軒以上となっており、より多くの方たちに早期発見のきっかけを作っていくといった状況である。また、企業側の福利厚生や健康経営の取り組みなどにこうした検査を取り入れていただくことにより、働き盛りの40代、50代の社員の方に早く病気を見つけて治療し復帰してもらうということで活用していただいている。
 ここでがんを取り巻く環境について話をする。日本人の2人に1人は生涯でがんに罹患する時代となっている。9割以上の方が生命保険やがん保険に加入している一方で、がん検診の受診率は全国平均として大腸がんでは4割程度で頭打ちとなっている。多くの方が病気になる備えをしている一方で病気を見つけに行く行為をしていないという事が大きな問題であると当社は考えている。こうした課題に対して当社は、簡便性・高精度かつがんの種類まで特定ができるというアプローチでこの問題解決を目指している。医学の発達によりがんが見つかった後の生存率が上がっており、早期発見できればさらに生存率が上がると言われている。また、がんの医療費に関して、年間4兆円以上という形で年々増えている状況である。今後も医療費が増え続けると、診療報酬の引き下げや、それに伴う医療機関の人員削減など医療を取り巻く状況が悪化していくことが予想される。がんは進行の度合いにより医療費の総額が大きく異なる。早期では手術で完了するが、進行が進んでしまった場合には薬物治療に頼らざるを得ないため、医療費が跳ね上がる。そして、患者本人も進行が進めば進むほど入院にかかる日数は多くなってしまい負担となる。こうしたことから、生存率や必要な医療費、治療内容、通院の負担全ての観点から、がんにおいては特に早期発見のメリットが大きいと考えている。
 東海エリアにおいては、産学連携で多くの取組を行っている。昨年の11月から今年の3月までは、膵臓がんの早期発見プロジェクトといった形で大学・医療機関・企業と連携をして実施した。目的は膵臓がんの事を正しく知っていただき、がんに対して正しく備える習慣づくりを目指したものである。300社を超えるサポーター企業がプロジェクトに参画し、社員の方などにウェブ上で受検できる簡易テストを通じて、生活習慣の傾向からがんリスクを判定する。リスクの高い方には「マイシグナル・スキャン」を無償提供するといった内容であった。
 北海道の岩内町では「マイシグナル・スキャン」を100名の方に無償配布をし、リスク判定が出たら岩内町の岩内協会病院および北海道大学病院で精密検査を行う肺がん早期発見のコンソーシアムを実施した。その中から肺がんのステージ0、大きさ4ミリ程度の肺がんを発見することができ、無事手術を終えて北海道のエリアのニュースでも放映され話題となった。第2弾として北海道エリアでは利尻町を中心とした離島におけるがん検診受診率の向上を目的としたプロジェクトがスタートする。現在のがん検診受診率を3年間かけて国が目標としている60%まで引き上げることに利尻町とともに挑んでいく。
 がんは種類にもよるが、15年から30年ぐらいかけて1㎝になると言われている。しかしそれ以降は、半年から2年で急速にがんの増殖が進むと言われている。たとえ話として、ひと昔前は虫歯になったら歯医者に行くというようなイメージだったが、現在は虫歯ではなくても、定期的にクリーニングに行かれている方も多いと思う。虫歯以外にも、歯周病などのリスクを歯医者でクリーニングをして点検をしてもらうことは大事だと考える人が増えていると感じている。がんも同じことが言えると思っており、がん検診の受検を定期的に実施いただくことが皆さんの生活を守る行動につながっていくと考えている。
 当社は創業してから今に至るまで、多くの方の縁と繋がりここまで進んできた。今ようやく基礎研究から臨床研究で論文を発表し、成果が出てより今後の社会実装に向けて拡大をしていくフェーズとなっている。まだ東海エリアや北海道中心であるが、全国に広げて、がんが「低い生存率で、つらい治療が待っている病気」ではなく、「虫歯感覚でちゃんと治療ができる病気」というのが当たり前になっていくような社会を作っていきたいと考えている。