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産学官民交流事業

2025.4.22 第486回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2025年4月22日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 准教授 小野 悠 氏

  テーマ

『公民学連携による地域デザイン:国際・地域・科学の視点から』

  講師②

浜松いわた信用金庫 ソリューション支援部 新産業創造室 金子 洋明 氏

  テーマ

『シリコンバレーでの経験とこれからの地域エコシステム構築
 ~グローバルトレンドを地域企業がキャッチアップするために~』

4.参加者

67名(オンライン7名含む)

講演要旨①
 本日は「公民学連携による地域デザイン」をテーマに、私自身の経験や研究を踏まえて、国際・地域・科学という三つの視点から話をする。
 私は現在、豊橋技術科学大学で国際都市計画研究室を主宰している。ここでは、日本人学生と留学生を合わせて約25名が、都市計画の実践と研究に取り組んでいる。愛媛県松山市での2年間の実務経験を経て、今に至るまで、行政・民間・学術が連携して市民とともにまちをつくる仕組みを模索してきた。たとえば、松山アーバンデザインセンターでは、千葉県柏の葉をモデルとした公民学連携のまちづくりに携わり、専門家としての立場から、行政や民間、市民との協働の可能性を実践・模索してきた。
 まず「国際」の観点について。私の原点は、高校生のときに訪れたトルコ一人旅にさかのぼる。その後、大学時代を通じて約70カ国を訪れ、世界中の都市と人々の暮らしに触れてきた。その中で、「良い都市とは何か」「都市はどのようにつくられるのか」という問いに強く惹かれ、都市工学という分野に進んだ。都市工学は、建築や土木と並ぶ工学分野であり、自然科学、人文・社会科学の知見・視点も取り入れながら、都市という複雑なシステムの課題解決を目指す学問である。
 ただ、私の研究対象は、むしろ「都市計画がない都市」──すなわち、アフリカやアジアなどに広がるインフォーマル市街地である。これらは、スラムとも呼ばれ、急速な都市化の中で都市計画が追いつかず、市民自らまちを形づくっている場所である。私は、こうした空間が持つ可能性とダイナミズムに注目し、現地に滞在しながら調査を重ねてきた。特に2014年にはケニア・ナイロビのスラムに半年間居住し、現地の人々の暮らしの中に入り込みながら調査を行った。
 インフォーマルな空間は一見「無秩序」に見えるが、実際には、住民同士の関係性や独自のガバナンスが形成されており、土地の区画や建物配置にも一定のルールが存在する。法律の外にあるからこそ、創造性と市民主体性が色濃く現れる。このような場所の地図をつくるところから調査は始まり、現場に根差したデータを集めている。
 こうした経験が、思わぬ広がりを見せることもある。たとえば、最近では宇宙開発のシンポジウムに招かれた。きっかけは、インフォーマル市街地の形成プロセスが、権利関係も整っていない月面の都市開発と似ているのではないか、というユニークな視点であった。制度の外で空間が形成されていくプロセスには、共通する学びがあると考えている。
 また、制度が機能しない状況でまちが再構築されるという点では、災害復興も類似の事例である。私たちの研究室では、福島の原発被災地や、東三河地域を対象とした災害復興に関する調査も行っている。特に南海トラフ地震の発生が懸念される中、被災後の仮住まいや都市計画のあり方など、官民が協力して備える必要がある課題にも取り組んでいる。
 「地域」の視点からは、自治の再構築にも関心を持っている。たとえば、自治会のDX化は、地域に対する住民の関与を促進する重要なステップだと考えている。地域づくりを「自分の部屋を模様替えする」ように、もっと身近に感じてもらえるような工夫が必要である。市民が気軽に地域に手を加え、愛着を持って暮らせる環境づくりこそが、真の地域デザインだと考えている。
 最後に、「科学」という視点である。私は現在、日本学術会議若手アカデミーの代表を務めている。ここでは、さまざまな分野の若手研究者とともに、日本の科学の現状と未来について議論を重ねている。科学者の過度に競争的でハードワークな研究環境や、資金・人材不足といった構造的な問題に対して、提言をまとめ、エビデンスをもとに社会に発信している。研究は個人の興味・関心だけでなく、より良い社会を実現すための手段でもあると考えている。また、その一環として、科学好きの市民と研究者が連携し、日本の科学を元気にするNPO法人JAASを立ち上げた。こうした活動がメディアにも取り上げられ、多くの方と科学の未来について語る機会が増えてきている。
 まとめると、私は、都市計画のない都市における市民の主体的なまちづくりに希望を見出し、それを理論と実践の両面から支える研究を進めている。そして、地域社会においては市民参加を軸とした仕組みづくりを模索し、科学の分野では、科学・学術の可能性と課題を社会に広く伝え、より良い未来を切り拓こうとしている。公民学の連携が生み出す創造的な地域デザインの可能性について、皆さんとともに考え実践していけたらと思う。

講演要旨②
 最初に浜松いわた信用金庫の紹介をさせていただく。当金庫は昭和25年4月10日に設立され、今月の4月10日で75周年を迎えた。預金残高は2兆8,086億円、貸出残高は1兆3,407億円(2024年3月末時点)で営業店は87店舗あり、静岡県浜松市、磐田市、袋井市、湖西市、掛川市、御前崎市、菊川市、牧之原市、島田市、周智郡、榛原郡吉田町、愛知県豊橋市、北設楽郡が営業区域である。職員は全体1,600人ほどいるが、その中で現在バンコクとスタンフォード大学にそれぞれ1名が駐在をしている。
 私は、高校まで浜松で育ち大学で4年間県外に出て、Uターンで浜松に戻り浜松信用金庫に就職した。海外に全く興味がなかったが2019年1月に浜松信用金庫と磐田信用金庫の合併があり、当時このまま地域の金融機関として生き残っていけるのか危機感を持っていた。そうした時にスタンフォード大学駐在者の公募があり、外から当金庫や浜松、そして日本を見つめ直してみたいと思い応募し選ばれた。アメリカには妻、小学生の長男と長女を帯同して行った。駐在中に子供たちにはいろいろな世界を見せてあげたいと思って様々な場所を訪れたが、子供たちは目の色が違う、肌の色が違うといったことは全く関係なく学校で過ごしていたために、大人は本当にバイアスがかかりすぎていると感じた記憶がある。
 アメリカで過ごした2年間は、「環境」が大きく異なったこともあり、私自身のキャリアと人生にとても大きな影響を与えた。その要因としてマインドセットやマインドチェンジとかよく言われるが、時間軸が日本と異なる部分、場所が当然違い、完全に外国人として扱われて英語もままならないため言いたいことが伝わらない、会う人も様々な国の方といった環境に置かれて必然的にマインドセットをした。この時マインドセットにおいてやはり環境は非常に重要なのだなと痛感した。
 当金庫は、2017年7月より米国シリコンバレーの中心地にあるスタンフォード大学へ職員を1名派遣し、シリコンバレーにおけるエコシステムの研究を行うとともに、遠州や東三河地域の産業の活性化につなげることとして、将来を見据えた当金庫にとって有益な情報を獲得し、提案することを実践している。私は3代目として2022年から2年間駐在し、現在は4代目が駐在している。また、2026年から駐在する職員も既に決定しており、現在FUSE(フューズ、詳細後述)にてスタートアップ支援や中小企業の新規事業の開発のサポート、投資業務などを経験した上でアメリカに渡航する予定となっている。信用金庫にとっては、地域が非常に重要である。地域が衰退すれば信用金庫も当然衰退を辿ると思っている。こうした中でEV化、労働人口の減少、サプライチェーンの崩壊など様々な地域課題がある。そして中小・中堅企業が発展するための新規事業への取組の起爆剤に当金庫がなることが必要だと思っている。地域経済が衰退すると、当金庫は貸出金収入ダウンによる将来的な収益減少が危惧される。従来は創業の案件は事業計画を提出してもらい、そこから検討するというようなスタイルであったが、これは創業希望の事業者にとってハードルとなる難しい面が多い。当金庫は、それよりももっと前の段階で何か起業したいと思っている人を支援するためにFUSEを開設し、スタンフォード大学への職員の派遣にチャレンジしているといった事情がある。
 アメリカに派遣される前に何をやるかを自分自身で決めて経営会議で発表した。そしてスタンフォード大学では米国・アジア技術経営研究センター客員研究員として在籍し、シリコンバレーの世界最先端技術や企業に集約する人材・情報、ビジネス・資金などのエコシステムを学び、地域のエコシステム醸成に貢献するための活動を行ってきた。指導いただいたのはスタンフォード大学米国・アジア技術経営研究センター所長のリチャード・ダッシャー氏であり、メンターとして公私を含めて駐在員生活のサポートをいただいた。毎週1時間同氏とミーティングを行っていたが、スタートアップの評価の仕方などスタンフォード大学ビジネススクールのレポートを読解して、それを基に議論をしているとあっという間に1時間が経過しているといった感じであった。特に何をしなさいといった指示はなく、自ら行動し、自ら課題を見つけ、自ら考えたことを伝えていた。こうした内容をレポートにまとめてリチャード・ダッシャー氏に見てもらい、日本に送るといった活動をしていた。また当金庫が投資しているシリコンバレーのベンチャーキャピタルにも非常にお世話になった。スタンフォード大学にいる時以外は、ベンチャーキャピタルに出向いて、シリコンバレーの他のスタートアップ企業に触れる機会を多く持つようにしており、彼らスタートアップの技術が日本で活用できないかを模索していた。
 シリコンバレーはアメリカ合衆国カリフォルニア州の沿岸部にあるエリアであり、正式な名称ではなく、IT関連企業が集積したエリア一帯の通称である。サンフランシスコまで含めると全長70㎞弱ぐらいの距離に多くの起業家が集まっている。このシリコンバレーの真ん中にスタンフォード大学がある。シリコンバレーにいる日本人も海外の人も必ず言うことは、「バッターボックスに立つ、そして三振でもいいからバットを振る、トライする」である。自分に力不足を感じても打席に立つということがまず第1条件。打席では見逃し三振ではなくチャレンジしてバットを振れとのことである。失敗はつきものであるが、私が非常に強くシリコンバレーで感じたことは、常にトレーニングをして成長しなければ成功しない。バットを振るだけでなく、振って成長するように自分自身を磨かないといけないことである。ニューヨークなどアメリカの東海岸にもエコシステムがあるが、東海岸のエコシステムが大学などを中心とした中央集権型で形成されているのに対して、シリコンバレーはスタンフォード大学が別に中心でもなく、Googleが中心でもなく、Appleが中心でもないような形で、中心に核となる対象がない自律分散型のエコシステムになっており、これは世界中で唯一無二なエコシステムであると感じていた。
 活動の事例として、NVIDIAについてまとめたレポートを、時価総額1位のこの会社のことを1人でも多くの当金庫の職員が見てくれれば良いと思い作成した。自身も学びながら作り、AI半導体のバリューチェーンや日本の企業がどう関係しているかについて、当金庫の職員が知らずに外回りをするより、知って営業に回った方が良いと思ったからである。アメリカ西海岸ではAIを含んだ半導体産業が盛んであり、半導体に関連した会社が潤っていて、ゴールドラッシュと同じような表現もされている。
 私が駐在しているとき、取引先の日本の中小企業と投資先のスタートアップを対象にプログラムを企画し、シリコンバレーでワークショップやピッチを行うイベントを開催した。スタンフォード大学では同時通訳を入れてデザインシンキングのワークショップを行った。宿泊は大きな一軒家を借りて14人が1つ屋根の下で1週間過ごした。日中も夜も事業のプレゼンテーションとフィードバックを毎日繰り返してブラッシュアップしていく1週間であり、日本財団の支援をいただいて、私たちが企画して実施した。
 私が現在所属し、当金庫自ら運営している起業家支援拠点「FUSE」について紹介する。FUSEは、当金庫のシリコンバレーにおけるアクションからスタートし、地域に新事業が生まれる土壌や種をまいていくエコシステムの場として、また、未来へ踏み出す新しい地域金融の姿として挑戦し発信し続ける場所として生まれた。シリコンバレーでは、カフェでもどこでも起業家がプレゼンテーションをして投資家と話をする光景が見られた。しかし日本の地方ではそうした光景が全く見られない。それならば自分たちで場を創るといった流れでFUSEが立ち上がった。今会員数は260ぐらいの企業および個人事業主などといった状況である。当金庫の職員が10名運営に携わっているが、外部出向経験者が多く、個性的だがやるべきことはやるといったメンバーが集まっている。ベンチャーキャピタルへの投資、スタートアップへの投資、ビジネスプランコンテストなどアクセラレーションプログラムの実施、産学官連携を担当している職員もおり、特に静岡大学、浜松医科大学、豊橋技術科学大学の先生にも「FUSE-ON CHALLENGE」など協力いただいて運営をしている。また「Doer Tribe Hamamatsu」という学生にアントレプレナーシップを理解し、肌で感じてもらうためのコミュニティ運営もしている。皆さんの一般の金融機関のイメージは融資や財務、補助金の相談をする場所といった感じではないかと思うが、私が所属しているFUSEは事業開発も含めたオープンイノベーション、ファンド、テクノロジーの紹介といった取組内容をスタートアップやお客様、中小・中堅企業の方々などに話している。まだそれだけでは不足であり、大手上場企業へのスタートアップの紹介、相互の連携といった活動もしていて、コミュニケーション取っているのは新規事業の開発・投資担当者が多い。アクティブに動いて、例えば投資しているベンチャーキャピタルのコミュニティに入るといった活動もしている。
 最後にFUSEのイメージについて、私が整理したものを紹介する。FはFuture(未来)、スタートアップの成長を加速させる役割で、国内に留まらず、世界へ挑戦できるマインドやビジネスを共に創出することで地域起業家の底上げ効果を生み出す。UはUrge(刺激)、中小企業に対し、最新トレンドやテクノロジーを受け入れてもらい、既存事業業界の危機感を刺激する役割である。新事業への意識を駆り立て、社内外の改革に取り組む動火線に火をつけるような役割をやっていきたい。SはSynergy(相乗効果)、大学や各種団体との連携や社会および地域課題に対する取組との相乗効果をもたらす。金融機関のネットワーク力を最大限活用し、共創に向けたハブ機能を発揮する。EはEmpowerment(成長)、当金庫職員の責任と権限に基づきリスクを恐れず、既成概念にとらわれずに考え、デジタル変革や新しい組織の役割などの変化を受け入れる。主体的でイノベーティブな人材育成の役割を果たす。当金庫職員1,600人が挑戦して成長できるような場所である。そんな仕組みを分かりやすく説明するために「未来」「刺激」「相乗効果」「成長」という言葉を付けた。FUSEの役割としてお客様・地域・内部に対しても何か刺激的な発信を続けていければ良いと思っている。皆さん浜松に来た際にはぜひお寄りいただきたいと思う。