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産学官民交流事業

2025.6.24 第488回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2025年6月24日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 総合教育院 教授 藤井 享 氏

  テーマ

『大学を基軸とする産学官連携による戦略的協創イノベーションの新展開』

  講師②

西日本電信電話(株) デジタル革新本部 技術革新部
IOWN推進室 担当課長 今井 徹氏

  テーマ

『IOWN構想とその先の世界』

4.参加者

56名(オンライン参加10名含む)

講演要旨① 
 私は株式会社日立製作所に約30年間勤務し、総合法人営業、BtoBマーケティング、営業戦略などを担当していた。その後国立大学法人北海道国立大学機構北見工業大学で2020年から約4年間研究と教育に携わり、マネジメント工学プログラム長として、工学や技術を俯瞰的に捉え、企業・地域・社会に役立てるための分析や戦略モデルに関する教育・研究を行った。昨年4月から国立大学法人豊橋技術科学大学に着任し総合教育院の経営学の教員を務めており、専門領域は、俯瞰工学、産業財マーケティング、技術経営、戦略的協創イノベーションである。俯瞰工学とは、工学技術を俯瞰的に捉え、地域・社会・企業に活かすイノベーション・研究開発のためのマネジメントの領域である。本日は、大学を基軸とする戦略的協創イノベーションの新展開について話をする。戦略的協創イノベーションは、私が提唱しているテーマであり、担当科目は、経営戦略論、技術経営論、マーケティング論、組織デザイン論などである。主な研究分野は、①製造業のIoT化とベンチャー・デジタルの優位性の比較研究(DX時代の企業戦略)。②グローバル・スマートシティ形成メカニズムの研究(都市の形成戦略)。③地域発ベンチャー・デジタルイノベーションの研究(新事業の協創戦略)の3つである。前任の北見工業大学に赴任した時、北海道でどのように経営学の研究をしようかと考え、地域発ベンチャーやデジタルイノベーションについて産学官金と協力すれば何か結果が出せるのではないかと思いこの研究をスタートした。本日ははじめにから入って、戦略的イノベーションに関する私の考え方・定義を紹介し、大学を基軸とする戦略的イノベーション活動事例について紹介して、産学官金協創活動によるどのようなメリットがあるかを最後に述べる。
 地方においては、出生率の低下と高齢化による人口の減少、都市経済圏への人口集中による過疎化、労働生産性の低さ、地域間の経済格差等により財政基盤の弱体化等が懸念されている一方で、強い第1次産業(農畜産・林業・漁業・水産業等)をはじめ、観光・インバウンド需要の増加にみられる自然観光・食(ガストロノミー)・体験型リゾート等、第3次産業の新興や地方の強みを活かした第6次産業化への転換の可能性がある。
 戦略的協創イノベーションとは、主体となる企業や大学・団体等が、自らの強みをベースに、ステークホルダーと連携して、工学・技術を俯瞰的に捉え、デジタル駆動型のサービスビジネスモデルを構築させる取組であり、課題発見~要件定義~ビジネスモデルの構築~マネタイズ(儲かる仕組み創り)~システム(アプリ)開発~運用マネジメントを行うという一連のプロセスである。こうした戦略的協創イノベーション実現のため、課題発見から要件定義をし、ビジネスモデルを作って、マネタイズ、いわゆる儲かる仕組みを作ってアプリを開発し、運用マネジメントを行うといった一連のプロセスに取り組んでいる。戦略的協創とサービスデザインとして大切なのは、ユーザーエクスペリエンスとして、ユーザーがサービスやシステムの利用を通して得られる顧客体験である。またカスタマーエクスペリエンスとして、商品そのものの価値だけではなく、あらゆるチャネルにおいてユーザーが感じた「感情的な価値」も含めた顧客体験を考えて、徹底的に討論することである。最初にリサーチとして、新たな顧客体験や新たなブランドを設計するための土台とすべく、ユーザーの生の声や実際の行動をデータとして収集する。次にアイディエーションとして、調査結果をもとにユーザーの本質的なニーズを導き出し、顧客体験をストーリーやシナリオに落とし込むビジネスモデル(マネタイズ)の検討をする。続いてプロトタイピングとして、情報アーキテクチャーやワイヤーフレームを設計し、デザインコンセプトを取り入れたインターフェースのデザインを制作、実際に触って検証できるプロトタイプ(アプリ)を制作する。最後に実装として、プロトタイプを本番環境で実装した後に社会実装化し、ビジネスにするという流れである。
 大学を基軸とする戦略的協創イノベーション活動事例として、道の駅「遠軽 森のオホーツク」における産学官協創活動を紹介する。道の駅は、全国に約1,200カ所あり、北海道は私の赴任当時128カ所で全国の約10分の1が北海道となっていた。遠軽町は北海道の道東に位置しており、寂れたスキー場を活かして道の駅が作られた。この道の駅「遠軽 森のオホーツク」において、キャッシュレスなど基本的なサービスを用意し、周辺の道の駅などの観光施設と連携した周遊観光ルートを創出、バスなどから食事のモバイルオーダーができる取組を行った。プレーヤーは、遠軽町役場、道の駅「遠軽 森のオホーツク」、株式会社日立ソリューションズ東日本、そして北見工業大学研究チームである。この3者でモバイルオーダーシステムを開発し、日本ホスピタリティ・マネジメント学会の北海道支部会を道の駅でオンライン開催したこともあり、マスコミ報道もされて話題となった。株式会社日立ソリューションズ東日本が開発用の実証モデルを無償で提供し、将来的には道内127カ所の道の駅への横展開を目指している。北海道の地方では鉄道インフラが整っておらず、住民の移動手段は専ら自動車であり、道の駅におのずと人が集まる。これをコンパクトコミュニティと捉え、繋いでいくような仕掛け作りができないかと取り組んだ。北見工業大学研究チームは、利用者アンケートやGoogleの書き込み、経営者・従業員へのヒアリングデータを収集し、共分散構造分析やテキストマイニングなど行ったが、大学は教育と研究の両面で貢献ができるとともに、学生の学位論文テーマにも活用された。株式会社日立ソリューションズ東日本は、デジタル・アプリ開発や、顧客協創型サービスビジネス展開のプラットフォーム構築を担った。また、課題発見型の「北大日立ラボ」とも連携した。大学が産学官活動のプラットフォームとなり、教育活動(地域型DX・リカレント講座、スタートアップ人材育成講座、地域課題発見ワークショップ)、研究活動(アンケート分析、防災意識調査)、社会実装化への取り組み(道の駅IoTデジタル化アプリ開発)を横断的に推進した。これにより、複数の業務を同時並行で進めることが可能となり、2022年9月には道の駅「遠軽 森のオホーツク」でモバイルオーダーアプリが稼働を開始し、2023年には道内3箇所で実証試験が始まり、美帆町の道の駅「ぐるっとパノラマ美帆峠」でも導入実証が進められ、学会フォーラムも開催された。
 続いて産学官協創による農畜産DX推進の事例として、牛(家畜)の自衛防疫ワクチン管理システム(アプリ)の開発に向けた共同研究を紹介する。オホーツク地域には、約10万頭の牛が存在し年3回程度のワクチン接種が行われている。このワクチン接種記録を、各町役場の職員がExcelや紙(FAX)で管理しており、管理方法がバラバラで、職員異動による引き継ぎ問題も発生していた。この課題に対し、ワクチン管理システム(アプリ)の開発を提案し、Excel管理をアプリに移行するものであるが、マーケットが広く、皆が困っているため、事業化の可能性が高いと考えた。遠軽町・湧別町・株式会社日立ソリューションズ東日本・北見工業大学は、2022年4月から地域課題発見ワークショップを実施し、課題を特定し、2023年4月には共同研究と事業計画策定を開始した。同年8月には申請アプリ、10月には接種アプリ、11月には月報アプリの開発が完了し、遠軽町・湧別町で実証試験が開始された。2024年にはオホーツク全18町役場への横展開、2025年度以降は北海道全域、日本全域へのスケール化を検討している。研究体制は、当時北見工業大学教授であった私と三枝昌弘准教授、株式会社日立ソリューションズ東日本の作井亨部長、遠軽町経済部の澤口浩幸部長が中心となり、金融機関(日本政策金融公庫)や獣医師会も参画し、地域創生に向けて協力して取り組んだ。
 これらの事例における産学官協創活動の役割とメリットについてまとめてみる。産業である道の駅「遠軽 森のオホーツク」は、役割として顧客アンケートデータの提供やヒアリングの協力を担い、メリットとして課題発見から課題解決に向けたモバイルアプリの導入という成果の入手ができた。また、これにより道の駅のトップランナーを目指すことが可能になった。同じく産業の株式会社日立ソリューションズ東日本などは、役割としてアプリ開発、ワークショップへの協力、学生や社会人に向けた課題発見型講座への協力を担い、メリットとしては、産学官協創による地域課題発見とユースケースの開発ができ、それが社会貢献活動や広報宣伝活動に繋がった。学である北見工業大学戦略的協創イノベーション研究室は、役割として学会発表、マスコミを通じた広報活動、教育・研究・社会活動など協創活動の推進を担う産学官協創活動のプラットフォームとなった。メリットとしては、共同研究プロジェクトの受入れによる調査研究活動の実施や教育・研究・社会活動の協力者の確保があった。官である遠軽町・湧別町は、役割として地域課題発見に向けた情報提供やワークショップへの参加を担い、メリットとしては道の駅の活性化や地域DX・観光DX・農畜産DXの導入、牛(家畜)の自衛防疫ワクチン管理システム(アプリ)の導入ができた。
 これら産学官協創活動における関係者内での合意事項は、①夢のある構想を語り、関係者(ステークホルダー)のウォンツを複数引き出し情報共有の上、各々が実現できる部分でオーバーリーチして、関係者のために努力・実現する。②目標の実現に向けたマスタープラン(中長期戦略)を作成・共有する。③1年・半年・3ヶ月・1か月単位での課題を明確化させ、必ず実現させる。小さいところから始めて短期間での成果を確実に刈り取る。④いくつかオプション(アイデア)を持ち、無理のない範囲で確実に前へ進む。 ⑤戦略(構想)は組織に従わないと実現できないため、 調整・合意をとれない組織は、後回しにする。以上の5つであった。
 地域創生や地域発ベンチャーが叫ばれる中、地域課題の発見から解決に向けた戦略的協創イノベーションは重要であり、DXの新興により地域でのDX人材育成も大きな課題である。知識と機動力を持つ大学が、教育・研究・社会実装の3つの側面で、これらの推進活動をコーディネートできるアクセラレーター的な役割を果たすことが求められている。

講演要旨②
 簡単に自己紹介させていただくと、私は西日本電信電話株式会社へ2007年に入社し、法人営業におけるSEやソフトウェア開発等の業務を経て、2023年7月より現職となり、IOWN推進室として企画統括(事業計画の策定や実行管理、室の総務業務)を担うとともに、各種講演等の実施、IOWN推進室での広報活動を推進している。NTTグループは、世界で900社以上の子会社があり、グローバルにビジネスを行っている。皆さん電話やインターネットの会社というイメージを持たれていると思うが、ソリューション、エネルギー、不動産事業など広範な事業を展開しており、時代に合わせて収益の構造が変化している。NTT西日本は固定通信が収益の中心であり、テレワークの普及、クラウドの進化、AIの拡がりにより固定通信の通信量が急激に増加している。こうした状況下において、本日話をする超高速・大容量、低遅延、低消費電力、帯域補償という特徴を持ったIOWNという光ベースの通信の発展に取り組んでいる。
 IOWNの概要について話をする。電信電話・通信の変遷として、1890年頃は1通話ごとに手動で交換手が交換作業をしていた。その後電話の利用が増加し、交換手の手動作業では輻輳してきたことから、交換機の自動化が図られた。そして現在では、IPに音声データを重畳したVoIPにより効率的な通信が実現しており100年以上かけて進化をしている。また1999年時点では通信の約9割が固定電話の利用であったが、2021年には約9割がインターネットの利用というように、固定電話からインターネットモバイルへと通信の中身が大きく変化している。こうして情報技術が進展することにより、動画の高精細化、データの3次元化、IoT化の進展もありデータ量が著しく増加している。2018年と比較すると2030年にデータ量は16倍に増加、それに伴い電力消費量も13倍に増加すると予想されている。こうしてデータ量の増加に伴った電力消費量の拡大により、環境に対する負荷の増加が進んでしまうことが危惧され、情報処理基盤の革新が必要とされている。そこでNTTが構想として進めているのがIOWN構想である。IOWNは技術の名前ではなく構想の名前であり、光を使って伝送することと、光を使った光電融合という技術を使い電力の消費を抑制するというものである。こうして光電融合技術により環境負荷を抑えるとともに、情報処理基盤を活用した経済の発展を同時に実現するという構想である。光電融合とは、ネットワークやサーバーの中は現在電気で動いているが、それを光に変えて実現しようというものである。現在IOWN2.0といって、サーバーに入る大きな基盤の部分までを光で実現するところまで開発が進んでいる。IOWNの通信の特徴として電気ではなく光を使用するため、大容量・高品質、低遅延を実現しながら理論上は電力効率100倍の実現が可能となっており、2030年の普及を目標に取り組んでいる。
 IOWNを理解するのに欠かせない3つの主要技術要素がある。1番目がオールフォトニクス・ネットワーク(APN)であり、ネットワークから端末までを光化することにより、圧倒的な低消費電力、大容量・高品質、低遅延が実現できる。2番目はコグニィティブ・ファウンデーション(CF)であり、社会システムを下支えする様々なICTリソースの配備や構成を最適化し、究極に省力化・自動化するマルチオーケストレーションである。3番目はデジタルツインコンピューティング(DTC)であり、モノとヒトのデジタルツインを様々に合成することで新たな価値を創出し、人間の能力限界を超えた膨大なヒト・モノ情報の融合により、未来設計・能力拡張・意思決定を実現し、革新的なサービス創出をもたらすものである。1番目のオールフォトニクス・ネットワークは、今皆さんがお使いの光インターネットは完全に全てが光というわけでなく、NTTのビルに各通信の機器があるが、そこはどうしても電気への変換が発生しており、電車に例えると乗り換えが発生して光から電気への変換が繰り返されているイメージであるが、これが光に置き換わり直通になるものである。これがどこまで実現できているかというと、NTTグループでは2023年3月「APN IOWN1.0」として商用サービスの第1弾をリリースしている。2024年8月にはIOWN国際回線として日本と台湾を結んだ実証実験を行った。本格的な全国に向けてのサービスとしては、2024年12月に「All-Photonics Connect powered by IOWN」として通信ネットワークの全ての区間で光波長を専有することで「高速・大容量、低遅延・ゆらぎのない新しいネットワークサービス」をNTT東日本とNTT西日本とでリリースしている。この特徴は、顧客の拠点間の通信を光で専有することで800ギガという高速・大容量を実現し、従来のインターネット回線をお使いの場合、ウェブ会議でフリーズしてしまうといったような経験があると思うが、これは通信のゆらぎが発生しているためであり、オールフォトニクスコネクトであれば、APNの技術により、ゆらぎのない通信が可能になる。
 大阪万博が10月まで開催されているが、NTTグループでは、NTTパビリオン「Parallel Travel」を出展している。それは3つの建物で構成されており、1つずつの建物を巡りながら、時空を旅する体験を楽しむことができる。ここの2番目の建物部分でIOWNの技術を使った展示をしている。これは、吹田市の旧万博公園でのPerfumeのパフォーマンスを、IOWNオールフォトニクス・ネットワークの技術を使って空間や感覚を再現し、そのものが空間伝送され、まるでPerfumeが隣にいるような体験を提供している。これはNTTグループの研究所が開発した動的3D空間伝送再現技術や触感振動音場提示技術を使って実現しているので、ぜひ大阪万博を訪れた際は体験していただきたいと思う。またNTTパビリオンでは、来場者の盛り上がりがパビリオンの幕に反映され、生きているように揺れるという仕掛けもされている。
 NTTグループはIOWNオールフォトニクス・ネットワークの技術を大阪万博の会場に協賛として提供しており、イベントやパビリオンで使用いただいている。その使用例として、大阪万博の会場で1万人の第九合唱が行われた。通常であれば1万人が指揮者を見てそれに合わせて歌うことは不可能であるが、指揮者の佐渡裕さんの映像をIOWNオールフォトニクス・ネットワークでウォータープラザとリング上を囲む1万人の合唱団に届け、会場を一体にすることにより合唱をサポートし、一体感のある合唱が実現した。また、合唱の映像は大阪市内の毎日放送局舎にIOWNオールフォトニクス・ネットワークを使って伝送し、遠隔で番組を制作しリアルタイムで放送された。他にも他社のパビリオンやイベントでも使われており、中村獅童さんがやられている「超歌舞伎 Powerd by IOWN」や、まるで目の前にいるかのようなリアルタイム性を再現した「ふれあう伝話」、セブンイレブン、北海道大学、パナソニックの展示や出展内容にもIOWNオールフォトニクス・ネットワークの技術が活用されている。このようにNTTグループや大阪万博出展企業とともに、未来のユースケースを大阪万博会場内外に実装している。今後、このユースケースから商用化したIOWNオールフォトニクス・ネットワークのソリューションや、サービスと組み合わせて世の中に普及させていくことを目指して取り組んでいる。
 最後に本年7月から当社は、西日本電信電話株式会社からNTT西日本株式会社と社名を変更する。ロゴも少し変わるが、今後も引き続きご支援いただきたいと思っている。IOWNはNTTグループ単独で取り組んでいるものではなく、産学官の多くのパートナーと協創する形で進めているものである。IOWNという名前に皆さんが関心を持っていただき、社会課題の解決に向けて皆さんと協力して進めていきたいと思っている。