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産学官民交流事業

2025.10.21 第492回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2025年10月21日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学
建築・都市システム学系 教授 田島 昌樹氏

  テーマ

『建築の室内環境と省エネルギー』

  講師②

株式会社Lirem 代表取締役 籔内 龍介氏

  テーマ

『新卒採用が変化し始めた今、地域企業のあるべき姿』

4.参加者

55名(オンライン参加5名含む)

講演要旨①
 本日は建築の室内環境と省エネルギーというテーマで「建築の省エネルギー」、「学校の省エネルギー」、「生産施設の省エネルギー」についてお話をします。キーワードは、「省エネルギー」と「換気」です。
 最初に建築の省エネルギーとはなにかというお話をします。私は建築の中でも建築環境工学という分野を専門にしています。大学で使用している建築環境工学の教科書によると、この学問の使命は、「快適な室内環境を最小のエネルギー利用で達成すること」で、私はこれが省エネルギーの正体であると考えています。たとえばエアコンを止めて真夏の暑い中我慢するという節エネは省エネルギーとは言わないということです。私が国土交通省の研究所勤務時から携わってきた「自立循環型住宅」のプロジェクトでは、当該住宅の省エネルギーについて、「居住性や利便性の水準を向上させつつも、居住時のエネルギー消費量(二酸化炭素排出量)を削減可能」と表しており、やはりエネルギーの削減だけではないことが示されています。
 建築の省エネルギー技術の例として断熱について説明します。建物の外壁の中に断熱材を入れることにより、室内環境の面では、冬は保温され暖かく、夏は強い日射を遮断して熱が入らないようにするものです。同時にエネルギー消費量の視点で見れば、暖房・冷房にかかるエネルギー量を最小にすることが可能になるもので、快適性とエネルギーの削減が同時に達成される重要な技術です。ちなみに、温冷熱感覚の快適の定義として、アメリカの空調学会「ASHRAE」では、「集団を構成する人の80%が満足(Acceptable)できる温熱環境」とされています。全ての人が満足だと思う環境や、気持ちが良いと思う環境はまず無いため、このように定義されており、言い換えれば不満足な人が可能な限りすくない条件がここでいう快適です。
 次に学校の省エネルギーについて実施した研究について話をします。新型コロナウィルスが流行した当時私は前任校におり、研究でお付き合いのあった企業を通じて高松市の小中学校の新型コロナウィルスの換気対策についての検討のお話をいただいたことがこの研究のきっかけでした。対象としたK小学校は、昭和30年代と50年代に建築・増築された古い校舎で、暖冷房用のエアコンは付いていましたが機械換気設備はなく、窓開けのみが換気の方法でした。具体的な研究の目的は、教室内のCO₂濃度の可視化(測定値を在室者に示すこと)により生じる児童や教員の換気行動の変容、と室内の空気環境の変化を明らかとすることです。窓開け換気はその風量が断続的に変化し、また在室者(教員・生徒)がいるため教室内に多数の測定器を設置して詳細な計測ができないことが研究上の困難でしたが、空気温度・湿度、CO₂濃度を実測し、外部風向・風速等の気象条件を加えて換気量(外気導入量)と感染確率の理論計算を実施しました。この小学校では換気量が十分に得られていいたため感染確率の計算結果は十分に低いものでした。換気量の測定には一般的にトレーサーガスが使用されますが、在室者がいる状態で特別なガスをまくことはできませんので、この研究では在室者のCO₂呼出量を年代別基礎代謝量と基礎代謝量の男女比を加味して推定することで呼気によるCO₂をトレーサーガスとしました。
 換気の状態の良し悪しを示すCO₂濃度の可視化の方法として、教室の後ろ側にCO₂濃度が1,000 ppm未満(建築物衛生法の空気環境の基準による値)だと青色、1,000を超えて1、500 ppm以下(学校環境衛生基準による)は黄色、1,500 ppm を超えると赤色に光るLED装置を設置し、LED表示なし、LED表示有、LED表示有でかつ「まん延防止等重点措置」適用中、という3つの条件と期間で測定を行いました。2021年12月から2022年2月まで実施した測定結果の概略として学年が進行し体格が大きくなるとCO₂呼出量が増えるため測定されたCO₂濃度は高くなりました。最初のLED表示なしの期間は、在室者が自身の感覚のみで窓を開閉していた時期で、教室によってCO₂濃度の値はさまざまにバラつきました。LED表示有の期間はこの表示を見て対応することで、特に高学年のCO₂濃度に改善(低下)が見られました。LED表示有でかつ「まん延防止等重点措置」適用中の期間はこの装置に教師も生徒も慣れて、全体的にCO₂濃度が低くなりました。LED表示開始後はLEDの表示が青色の時は窓を閉めて換気量を制限するといった行動もあり、教師も生徒たちもLEDの表示色を見て窓の開閉をうまくコントロールすることで、室内を暖かく保ちながら暖房のエネルギーが無駄にならないように必要な換気制御をしていたことが分かりました。
 最後に生産施設の省エネルギーとして、発電所建屋における自動制御を用いた換気空調の適正化に関する研究の話をします。対象としたのは愛媛県西条市にある火力発電所において、発電を行うタービン建屋の外気導入の省エネルギーについて検討を行いました。この施設では、室内環境を適切に制御する対象は人ではなく発電機器・制御機器であり、これらの運用に支障がない空気温度(概ね40℃)に制御するよう外気導入量の適正化によりファンの消費電力量の最小化を目指しました。このタービン建屋は鉄骨造5階建てで最高高さが約32 m、延床面積が約14,000 ㎡という巨大な建物で、定格出力50万kWの発電機と、屋内が高温になることを防ぐ多数の排気形ルーフファンが設置されています。具体的な研究目的は、ルーフファン、温度差換気、風力換気、を併用するハイブリッド換気システムの運用実態の評価と、効率的な外気冷房システムの設計手法を検討・構築(一般化)することです。これらの検討は、空気温度、発熱体表面温度、建屋内風速、外部風向・風速等の実測と、理論計算(換気回路網計算、CFDシュミレーション)を組み合わせて行いました。
 屋内は巨大で、かつ発熱体も多く、さまざまな制限がある中、多数の測定器を設置しました。およそ半年におよぶ長期間の測定値を分析して、比較的空気温度が高く、外気温度や発電量等の条件に対して統計的に妥当な傾向を示した点を、屋内空気温度の代表点として選定しました。この地点は空気の流動量が多い場所で、その後の解析により、この代表点の温度が低くなればこの巨大な建屋の中が十分に冷えるということに目処をつけたのが初年度の成果でした。建屋全体の換気量は測定することが不可能ですので、数千ケースに及ぶ理論計算をもとにさまざまな条件の換気量を算定しました。この換気量と実測データを使用して、外部風向・風速、発電量、外気温度、ファンの使用台数、を変数とする代表点の空気温度を推定する式を作成して、高い精度で代表点の空気温度が推定できることを確認しました。翌年にはこの式を使用することで、外気導入用のファンの運転台数制御方法を更新し、実際に試してみました。結果として、屋内環境の空気温度をおよそ40℃以下に保ちながら、運転台数を大幅に減らすことができまた。今後はこの制御をさらに高度化すること,および一般化をめざし、研究を進めていく予定です。
 本日は、室内環境を良くしながらエネルギー消費量を最小にする、という建築の省エネルギーをテーマに、少し変わった建物での研究事例を2つ紹介させていただきました。

講演要旨②
 私は山口県の宇部市を出身であり、豊橋技術科学大学に3年次編入するために豊橋市に来た。そこから大学を卒業するまでの間に起業することを目標に立て、ビジネスを考えたり、ビジネスプランのコンテストに出場しながら、大学4年生の時に起業して、ちょうどこの10月で4周年を終えて5期目になった。当社はビジョンとして「全ての人が自分の想いや理念を体現しながら生きられる社会」を掲げている。若者は周りの声や他者の意見、世間体などを気にしがちであるが、しっかり自分の軸で自分の人生を決めることを体現できるような人を増やしていき、こうした人たちを受け入れるような地域を作っていくことを目指して事業を展開している。主な事業構成として「火Okoshi」は、ビジョン・ミッションを中心とした学生起業家創出プログラムであり、Will(自分のやりたいこと)を見つけ形にするプログラムである。次に「OKIBI」は新規事業開発インターンシップとしてWillの実行力を養うプログラムである。「TOMOSHIBI」はWill実現企業マッチングプラットフォームであり、Willを実現する場所を見つけるプログラムである。
 「火Okoshi」は、自分を信じ、自分で決断、行動する1ヶ月の学生向け教育プログラムである。①選択基準(価値観)②行動特性(才能)③情熱分野(好きなこと)という個人の内発的動機に基づく自分の軸(ビジョン)と、ソーシャルニーズ(社会課題)を掛け合わせたものを使命として設定し、この使命を達成するための手段を事業プランとしてアウトプットする。これは、学校で学ぶ5教科9教科にあてはまらない自分のやりたいことを自分で行動して形にするプログラムである。最初にキックオフ合宿として、ワークショップや起業家メンターとの壁打ちを通して、内発的な動機と事業プランを言語化する。次に行動期間として、3週間程度の伴走期間で、起業家メンターとの壁打ちや行動を通して、プランを磨き上げる。そして最終発表として、オーディエンスの前で1ヶ月間磨き上げたプランを学生が発表して、共創や協業を創るという内容である。Willを認知して意思を持つ若者を“起こす”、 Willを受け入れて若者と共創して共に発展する企業や地域を“起こす”ことを「火Okoshi」では展開していく。4年前に東三河で立ち上げて、これまで東海・関西・北海道で6回開催しており、参加した学生は述べ110人となっていて、中には実際に起業した人もいる。今後さらに新しいエリアに展開して、全国の各地域の中で若者がチャレンジして行動する場所、実行力を磨く場所を地域モデルで実現したいと考えている。
 「OKIBI」は、学生マネジメントから事業化までのマネジメントを当社が請け負い、新規プロジェクトを立ち上げる新しい伴走支援サービスである。企業がプロジェクトを立ち上げ推進する際のよくある課題として、社内のリソースの不足、新しい視点でのアイデア不足、社内の文化による進捗の遅さなどがある。学生の視点とニーズ調査のしやすさを活かし、企業の事業拡大につながるプロジェクトを立ち上げることを目的として、新規プロジェクトが立ち上がり、複数顧客がついている状態をゴールとして目指していく。最初に「火Okoshi」に参加した学生を中心とした事業やプロジェクトの立ち上げのポテンシャルを持つ学生をアサインし、次に企業・学生・当社が連携し、12ヶ月の長期インターンシップとして新規プロジェクトの立ち上げを行う。その間当社メンターが学生をメインに伴走し、新規プロジェクト立ち上げまで徹底サポートをしていく。多くの地域の企業と一緒に新しいプロジェクトを若者が立ち上げて当社が伴奏させていただくという事業を地域の中で進めている。
 ここまで当社の紹介をしたが、ここから社会全体としての背景の話をさせていただく。最近よく話題になるAIは、過去の膨大な”データ”をベースとして、最適なアウトプットを出せる仕組み(プログラム/アルゴリズム)を持ったものであると思っている。3年前にChatGPTがリリースされ、最初は簡単な返事が返ってくるといったような使い方であったところから、最近は生成AIがリアルな動画を作ってくれるという時代が到来している。またプレゼンテーションのスライドも月数千円の有料サービスを使用すると、一瞬で見やすいスライドが作成される。私もボイスメモでレコーディングをして生成AIに入れて、その内容をもとにスライドを作ってもらうということで、かなりスピーディーに資料作成が可能になったと感じている。さまざまなAIの進化が予測もできないスピードで進んでいる中、皆さんは10年後の未来に人とAIはどう対峙していると考えるか。私は人とAIの違いとして、“人”である意義は意思(Will)を持って決断できることであると思っている。
 現代はVUCAの時代とも言われている。VUCAの時代とは、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の4つの要素が特徴の、予測困難な社会やビジネス環境を指している。この10年間でこれまでにないスピードでテクノロジーが世界に浸透しており、スマートフォンの登場によってデジタルカメラ、ビデオカメラ、カーナビなどの販売が大きく影響を受けていて、プロダクトのライフサイクルが20年以下になった。このように急速にこれまでにないスピード感でテクノロジーが世界に一気に浸透していくことがこの社会の中では起きている。だからこそこれからの社会において求められることとして、イノベーションや変化し続けることが不可欠な時代が来ていると思っている。
 国も「スタートアップ創出元年」と題して、2022年から起業家支援といった各種政策を推進し、スタートアップを生み育むエコシステムの構築を目指している。東三河地域においても、「豊橋市のアグリテックコンテスト」や「東三河ビジネスプランコンテスト」などスタートアップを生み出すエコシステム構築に向けた取組が行われており、「Higashi Mikawa UPPERS 」といったエリア・団体横断型、起業(企業)家・支援者共創参加型コミュニティがあって、「emCAMPUS STUDIO」「CRUE」「Startup Garage」「Trial Village」といった施設も存在している。
 イノベーションとは何なのか。私はイノベーションといえばテスラを作ったイーロン・マスクを思い浮かべる。イーロン・マスクは何を持って行動できているのかというと、人類が火星に住むということを夢にずっとイノベーションを起こしている。こうしたいという意思があるからこそ、その裏にテクノロジーや技術がついていって、結果的にイノベーションが生まれていくと思っている。だからこそ意思を持つことの大切さ、それがこの“人”である意義なのではないかとあらためて思う。
 この時代における採用のあり方について話をする。新卒者について2013年卒と2020年卒を比較すると、就職活動においてこれまで一般的と思われていたナビサイトや合同説明会の利用者が大きく減っている一方、インターンシップの一般化が進んでいるといったように、採用業界も当たり前に高速で変化をしている。地方企業は就職活動においての条件や働き方で大企業と競争しても学生を集めるのは難しいが、こうした状況であるからこそ次世代の意志(Will)を取り入れてAIを活用し、素早く変化し続けることが大切だと思っている。速いスピードで変化し続けるVUCA時代においては、大企業よりも地方のオーナー企業の方がすぐに変わることができると思っており、オーナー企業の意思によってイノベーションを起こし、新しい作業のあり方も創造できると考えている。これまでの就活のルート戦わない。学生時代からWillを共に体現する。就活のタイミングで採用について話すのではなく、就活の前から事業を形にしてみることをきっかけにして、その上で最終的にこれからも一緒にやっていこうということで、それが採用につながったり、副業で関わっていくといったものになっていくと思う。私自身も人らしさであったり、多くの応援してくださったり、一緒に取り組んでくださる方たちのおかげで自分の意志(Will)を持って体現できたからこそ、山口から出てきてこの地域に残り、この場所で生きることを決めた。だからこそこの地域の中で必要と思ってもらえる接点を共に作れる場を作っていけたら良いと考えている。
 最後に当社が目指す構想をお話しする。最初に話をしたように、「火Okoshi」は、自分を信じ、自分で決断し行動する1ヶ月間のプログラムということで、若者が自分の意思を出す場を作ってきた。この意思を持った若者たちとともにこういうことができるのではないかと、若者と共創してWillを体現できる地域や企業を増やしていきたいと考えている。当社は、いくつかのプログラムを作って、その中でしっかりと若者のWillと地域のWillをつなぎ、地域や企業が発展していく場をこれからも作っていきたい。こうした地域のモデルをしっかりと体現することによって日本の地域のポテンシャルを示すことができると思っている。10年後、20年後、AIなどのテクノロジーを使いながらもこの地域の中で豊かに人らしく生きていく場所ができると良いと思っている。当社は地域の企業に出資をいただくという少し変わった株主の集め方をしており、多くの地域の企業に応援いただきながら、利益だけではなく、ミッションの達成を目指していけるチームとして多くの地域の方と一緒に歩んでいきたいと考えている。次の時代をこの東三河発で作って、本質的に心豊かな時代を当社は作っていきたい。また東三河地域がポテンシャルを持っていると信じて、皆さまとともに進んでいきたい。