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産学官民交流事業

2026.8.25 第502回東三河産学官交流サロン

 

1.日 時

2026年8月25日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 准教授 西村 良太氏

  テーマ

『人と自然に話すAIを目指して
  ー相槌・間・話者交換を理解する音声対話システムー』

  講師②

エアロファシリティー(株) ファシリティー事業部 事業推進部 山口 貴史氏

  テーマ

『空飛ぶクルマとバーティポートの現在地』

4.参加者

58名(オンライン参加3名含む)

講演要旨①
 私の研究を分かりやすく表現すれば、「AIは“間(ま)”が読めるのか?」ということであり、これを20年間研究してきた。今はスマートフォンと会話できるようになってきているが、ChatGPTなどのAIが登場して賢くなったものの、友達や家族と喋っているような「会話している感覚」が得られていないのが実状である。なぜかというと、返事が遅かったり、相槌を打ってこなかったり、こちらが話し始める気配を読めないといった、いろいろな問題がある。このように、本日は「相槌」「間」「話者交替」について話をする。
 「音声対話システム」とは、人間が「明日は雨かな」と自然な言葉で話しかけた時に、対話の相手であるパソコンやロボットが「今日はジメジメしているから雨かもね」というように、人間と同じ言葉で応答してやり取りを続けていくシステムのことを指している。音声を使わずにテキストでやり取りするものは、「対話システム」と呼ばれたり、時にはその中に「音声対話システム」が含まれたりするなどまぎらわしい状況でもある。「音声対話システム」の基本的な構成は複雑ではなく、マイクから入った音声を「音声認識」して文字に変換し、その文字入力に対して返事を考える部分は生成AIが入っているイメージである。そしてその応答を文字から声に「音声合成」にて変換してスピーカーから再生するというのが基本的な流れとなる。しかし、この構成で作った場合、AIがどれほど賢かったとしても、残念ながら人と人との会話のようにはならない。
 では、人と人との会話にはあって、「音声対話システム」に不足しているものは何であろうか。「相槌」と「間」、そしていつ自分や相手が話し始めるバトンタッチのタイミングの「話者交代」である。ChatGPTの音声モードやAlexa、Siriなどは、会話の内容がしっかりしている方がユーザーの満足度が高いため、相槌や変な間が入るとノイズになってしまう。そのため、システムを作り込む段階からデータから排除されており、元から考慮されていないので対応できるはずがない。しかし、最近AIが強力になりシステムが成熟してきたことで、よりこうした現象が重要になってきている。とはいえ、こうした「リズム感」のようなものをAIが安定して扱うのはまだまだ難しく、GoogleやAppleといった外資系大手プラットフォーマーも取り組んではいるものの、まだ実用化には至っていない段階だと思われる。
 相槌の難しさについては、例文を挙げて100人の人間に「どこで『うん』と言うか」と質問しても、最大で50%程度しか一致しない。つまり、相槌には絶対的な「1つの正解」が存在しないため、正解が1つに決まらないものを現在のAIの仕組みで学ばせるというのは、非常に困難である。もうひとつ、タイミングの話として「0.2秒の世界」というものが存在する。片方の人が喋り終わってからもうひとりが喋るまでの間の長さは、日本語だと約0.2秒が適切と言われている。日本語は世界的に見ても特に短く、論文によっては0秒という結果もあるほどであり、この間が1.5秒以上開くと対話が崩れて不自然に感じられてしまう。従来の「音声認識→応答生成→音声合成」という処理を順番に行うと、とても0.2秒では終わらず、数秒かかってしまうのが現実である。人間は相手が喋っている最中にも「どう喋ろうか」「何を言っているのか」を常に考えながら聞き、並行して処理を行っている。したがって、システム構成の段階から並列で処理が走るように設計しなければ、正確なリズムを作ることはできない。
 こうしたことは「音声対話システム」の研究が始まった40~50年前からわかっていた課題であり。私が豊橋技術科学大学の修士課程にいた20年ほど前、対話のリズム感を再現したいと人同士の対話を分析し、応答のタイミングと制御モデルを作製したが、当時は計算機の力が足りず、話題は天気だけの小さなモデルであった。現在はPCの性能が飛躍的に向上し、深層学習も登場したことにより、今の技術で作り直してどのような話題でも自然に対話のできる「音声対話システム」について研究室を立ち上げて学生とともに研究している。
 ここで、現在研究している「音声対話システム」の詳細について話をする。最初は「話者交代を予測する」ことである。ユーザーがまだ喋っている途中なのか、あるいは喋り終わって応答を求めているのかを判定する「話者交代予測モデル」である。こちらは文字を使わず、声だけで「まだ話す」「終わる」を0.1秒ごとに判定しており、非常に軽量なモデルであるのに関わらず適切なタイミングで応答を返すことを可能にしている。次は、「あと何秒で話し終わる?」を先読みするモデルである。話している最中に「終わりまであと何秒」を予測し、裏で返事を先回りして準備するといった重要なモデルとなっている。続いては、相槌をいつ打つかという「相槌生成タイミング予測システム」である。このシステムに話しかけると相槌を打つべきかどうかスコアが上下し、閾値を超えた時に相槌を打つという仕組みになっている。また、年齢・性別・相手との関係性などといった情報を入力し会話の流れを入れると、11種類ある相槌から選ぶというモデルになっている。これが高度になっていくと声だけではなく、聞く時にうなずくといつた頭の動きや、話す場合の首や口の動きなどをモデルから出力することも可能である。こうして、自然な音声対話に必要な部品を集め、全体を統合したシステムを作成するという流れで取り組んでいる。
 この全体を組み合わせて話すシステムが最近完成した。先程述べたように、従来は聞き終わってから順番に処理しており、特に応答生成の時間が長く、返事まで約1.3~7秒かかっていた。新システムでは、相手が話している間に話者交替を0.1秒ごとに予測しつつ、認識・応答生成・音声合成を先に走らせておくことにより、話者交替を検知してから声が出るまで72ミリ秒まで短縮できている。まだ完成したばかりであり、会話のぎこちない部分はこれから直していこうと考えている。また、1台のPCで動く、ローカル環境で動くことも重要であり、「会話の音声や文字を外部に送信しない」「インターネットにつながない環境でも動く」「社内・院内のデータをそのまま扱える」といった音声認識・応答生成・音声合成が1台のPCの中に全部入っている。
 こうした「対話のリズムを読む技術」は、どこで役に立つのかの話をする。医療現場での活用に向けて、豊橋ハートセンターで2026年6月から会話から看護記録の下書きを作る実証運用を行っている。看護師がスマホを持って患者さんと普通に会話をすると、院内のPC1台に搭載されたAIが必要な病状情報だけを抽出してカルテにまとめて会話から看護記録の下書きを作成し、看護師が確認・修正して確定する仕組みである。「三河弁」の音声認識率を向上させるため、看護師にも協力いただきながら方言データの登録も進めている。
 また、高齢者支援や認知症ケアへの応用できないかという問い合わせが多くある。そこで私の研究室では、高齢者の声に対してAIの音声認識の精度を上げるため、参加者平均年齢83歳、120名分以上の高齢者の音声データを収集し、国立国語研究所にデータベースとして登録し、フリーで利用できるよう公開している。
 私たちの研究室では、音声対話のコア技術を足がかりとして、高齢者支援、ヘルスケア、感情分析、カウンセリングの対話、例えばインドネシア語やモンゴル語といったデータが少ない言語へのAI適用といった研究に取り組んでいる。研究の最終的なゴールは、「人と人との自然な対話を、人と機械の間で実現すること」である。単にAIが「答え上手」になるだけでなく、相手の気持ちやリズムに寄り添える「聞き上手」になる未来を東三河から実現させていきたいと考えている。

講演要旨②
 私は大学時代、航空宇宙分野の中における宇宙側の領域において、ロケットエンジンの研究をしていた。エアロファシリティー株式会社には2021年4月に入社し、現在設置されている「空の移動革命に向けた官民協議会」にて実務担当を務めており、大阪・関西万博の会場における空飛ぶクルマ用ポートのデザイン業務にも携わった。現在は都内を中心に、実証実験やビルの屋上へのバーティポート設置に関する相談が多数あり、ポート設置に向けた各種業務に従事している。
 エアロファシリティー株式会社は今年で29年目、来年30周年を迎える会社である。当社でヘリポート建設を担うのが私の所属するファシリティ事業部である。この他にも航空機事業部があり、ヘリコプターやセスナなどを販売する商社部門も備えている。ファシリティ事業部について紹介すると、ヘリポート建設に特化した日本で唯一の組織である。空は目に見えない壁に囲まれた空間であり、航空法という非常に複雑なルールが存在する。そのため、単にヘリポートを作りたいと思っても容易に実現できるものではない。当社は構想段階のコンサルティングから入り、図面を描く設計、現場での施工、設置後の照明メンテナンスなどのアフターメンテナンスに至るまで継続的にトータルプロデュースできる点が特徴である。他に当社の具体的な強みとして、アルミデッキ構造のヘリポートが挙げられる。これはアルミ製の堅牢なデッキで、ビル屋上などに設置してヘリコプターが着陸できるものである。これまで全国130箇所のビル屋上に設置実績があり、近隣では知多半島総合医療センターの屋上ヘリポートも当社が施工し、ドクターヘリの受入などに利用されている。当社は元々ドクターヘリの普及発展とともに歩んできたが、今後はこれに加えて注目を集める空飛ぶクルマの分野にも注力する考えである。2021年からの「空の移動革命に向けた官民協議会」への参加や、オリックス株式会社が整備した万博会場の離着陸場におけるアドバイザー業務などを手掛けてきた。万博で手掛けたポートは、中央のV字スペースで機体が離着陸し、待機時は格納庫へ格納するレイアウトとなっていた。安全第一でありながら航空法の規制をクリアしていく苦労もあったが、社会人として初めて携わった思い出深いプロジェクトであった。
 空飛ぶクルマの概要について話をする。最初に認識いただきたいのは、空飛ぶクルマと呼ばれてはいるものの車ではなく、法的には航空機であるという点である。一部には公道を走れるよう開発されている機体もあるが、基本的には離着陸場や空港から飛び立つ乗り物である。そのため空飛ぶクルマは、海外では「AAM(Advanced Air Mobility:次世代エアモビリティ)」と呼ばれている。空飛ぶクルマの特徴をヘリコプターと比較しながら説明する。ヘリコプターはホバリングが可能であるが、離着陸時に真上や真下にまっすぐ移動することが苦手で、動力を多く使うため斜めに離着陸する形状をとる。それに対し空飛ぶクルマは、ドローンのように真上・真下へ垂直に離着陸が容易になると言われている点が大きな特徴である。次に、運行時のゼロエミッション性が挙げられる。空飛ぶクルマは基本的に電気で飛ぶ乗り物であるため、飛行中に排気ガスやCO2を排出せず、環境負荷が非常に低い点が特徴である。さらに静音性の高さも挙げられる。ヘリコプターは風切り音やエンジンの騒音が大きく、そこが弱点とされているが、空飛ぶクルマは電気で飛ぶため、電気自動車のような優れた静音性を備えている。最後に、自動運航の可能性である。現時点ではパイロットの乗車が必要であるが、将来的には自動で飛行することが見込まれている。
 続いて、空飛ぶクルマの現状におけるネガティブな要素や課題について紹介する。最大の課題は航続距離の短さである。ドローン型であるマルチロータータイプ(例えばスカイドライブ社製)の航続距離は15kmから40km程度に留まる。万博でデモ飛行を行ったジョビー・アビエーション社のS4といった比較的航続距離が長い機体であっても、150km程度までしか飛ぶことができない。ヘリコプターが通常500km~1,000km程度飛べることと比較すると、遠距離の移動には大きな制限がある。仮に豊橋市役所付近を中心に同心円を描いてみると、15kmから40kmという距離では東三河エリアから脱出することすら難しい。160km程度飛ばせる機体であっても、富士山が見えるあたりや京都に届くかどうかという距離感であり、東京や大阪までは届かず、航続距離の確保が現在の大きな課題となっている。ここで、「それならヘリコプターで十分ではないか」という疑問が生じるかもしれない。しかし、ヘリコプターには料金面での大きな壁がある。例えば伊勢志摩にある高級ホテル「アマネム」へ東京からヘリコプターで移動する場合、チャーター費用は片道で90万円を超え、機体の大きさや人数によっては300万円以上かかる。現状のヘリコプター旅客輸送は非常に高価であり、一部の富裕層しか利用できていないのが実情である。
 一方、空飛ぶクルマが実現すれば利便性が飛躍的に向上する。現在、豊橋駅から中部国際空港(セントレア)へ移動しようとすると、電車等を利用して1時間半ほどかかる。しかし、時速約200kmで飛ぶ空飛ぶクルマが実装されれば、約20分で空港へアクセスできるようになる。空港到着後すぐに国際線に乗り換えれば、海外への移動時間が大幅に短縮されるという魅力的なメリットが存在する。
 こうした移動手段を実現するために不可欠なインフラがバーティポートである。国土交通省航空局では2026年度の基準化を目指し、バーティポート整備基準の議論が進められている。地上設備として約30m四方の平坦な着陸帯が必要となり、空域における見えないルールの遵守が求められる。具体的には、水平距離で1200m先までの空域を障害物のない状態で確保しなければならない。仮に豊橋駅前へのバーティポート設置を想定してみると、線路に沿って飛行ルートを設定できそうに見えるが、3D空間で分析すると、駅前のビルや近隣の建造物が進入表面と呼ばれる見えない規制空間に突出してしまう。規制空間に建造物が突出している場合、航空局からそのポートの使用許可が下りない。特に都市部においては、このような見えない空域ルールをクリアして飛行スペースを確保することが極めて難しい課題となっている。
 続いて、現在推進されている国内外の取組について紹介する。万博会場では丸紅株式会社のリフト・エアクラフト社製機体、スカイドライブ社製機体、ANAが運航するジョビー・アビエーション社製機体の3つのデモフライトが行われた。ANAが運航した機体は、巡航時にプロペラの向きを変える方式を採用したものである。会場周辺をスムーズに飛行したものの、あまりにも静かであったため飛んでいることに周囲が気づきにくかったという逸話があるほど、優れた静音性が実証された。また、大阪市では、商用運航や実証に向けた補助金事業により「大阪港バーティポート」が港区に作られており、実証実験や社会受容性向上に向けて利活用されている。他に、自治体の中で最も精力的に動いているのが東京都である。小池都知事が掲げる「2050東京戦略」の中で空飛ぶクルマは『戦略18インフラ・交通・「次世代モビリティの社会実装」』として取り上げられている。空飛ぶクルマの成熟期の東京都における将来の目指す姿の実現に向けて、空飛ぶクルマの社会実装に向けたロードマップを策定、2030年に空飛ぶクルマの市街地での展開を目指し、2025年から2027年を期間とする「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」1期として、大手デベロッパーを巻き込んだ先行プロジェクトが進められている。中部エリアに目を向けると、愛知県や三重県で積極的な取組が見られる。愛知県は、名古屋駅を次世代モビリティの拠点とする「名駅“スーパーモビリティハブ構想”」を掲げるとともに、県営名古屋空港を空飛ぶクルマの整備拠点候補地に選定した。東京や大阪のプロジェクトが離着陸場の確保に注力する中、愛知県は機体のメンテナンスを行う拠点の必要性にいち早く着目し、具体的な指定を行った点が非常に画期的である。三重県では、「空飛ぶクルマの将来的な商用運航に向けた『社会実装可能性調査補助金』」を公募し、三井不動産および伊勢志摩リゾートマネジメントが伊勢志摩を中核とした関西空港やセントレア、県営名古屋空港との間を結ぶ空のモビリティ運行ネットワークを構想した調査事業を提案し採択された。日本国内では、日本成長戦略会議において空飛ぶクルマ関連へ約4000億円の予算が充てられるなど、官民連携での支援が加速している。海外においては、2026年4月にドバイの国際空港隣接地にバーティポートが完成したと発表した。ドバイは2026年中の世界最速となる商用運航開始を目指しており、インフラ整備が急速に進んでいる。
 空飛ぶクルマの展開初期段階においては、どうしても利用料金が高額になることが予想される。そのため、まずはインバウンドや富裕層をターゲットとした観光地での需要開拓が主流となる。ラグジュアリーなラウンジを備えたバーティポートは、旅の移動拠点として新たな体験価値を提供する施設にもなる。また将来的には、運転手不足が懸念される地域公共交通の課題に対して、自動運航技術を用いた解決策として寄与することが期待されている。デベロッパー視点においては、ビルの屋上から直接移動できる新たな交通手段を備えることで、不動産価値そのものを高める効果が見込まれている。タイムスケジュールとしては、2020年代後半から2030年代前半にかけては富裕層や限定的なユースケースでの利用に留まるものの、2030年代中盤から2040年代にかけて機体が普及し、ビジネス用途などで幅広く使われる時代が来ると予想されている。都市開発や再開発の計画から実際の竣工・運用に至るまでには長い年月がかかり、建築物はその後50年、100年と長期間使用される。したがって、将来的に空飛ぶクルマを受け入れるための計画や設計への落とし込みは、今この瞬間から始めておかなければならない。需要予測の精度や先行投資の判断といった難しさはあるものの、現在の再開発計画の中にいかにバーティポートの要素を組み込めるかが、まさに現在の「バーティポートの現在地」と言える。